「厚生労働省や中小企業庁のサイトを見ても、飲食店が実際に使えるものがどれなのか分からない」——飲食店の経営者から最も多いのがこの悩みです。制度の数は多いのに、店舗の設備投資を名指しで支援する「飲食店専用の補助金」は存在しません。実際には、業種を限定しない一般の制度を投資の中身と金額の桁で選び分けるのが正解です。
この記事では、2026年8月時点で公募が動いている国の制度を、飲食店の現場でよくある投資(券売機・POSレジ・厨房設備・配膳ロボット・採用と賃上げ)に当てはめて整理します。金額・期限はすべて公募要領や事務局の公式ページで確認し、出典を明記しています。
- 50万円前後の販路開拓・小さな設備なら小規模事業者持続化補助金<一般型・通常枠>。第20回の申請受付は2026年11月5日〜12月15日17:00。
- POSレジ・券売機・予約や会計のITならデジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)。レジ・券売機は補助率1/2・上限20万円、ソフトは小規模事業者なら4/5。
- 配膳ロボットや自動調理など数百万円超の省人化投資なら中小企業省力化投資補助金(一般型)。従業員5人以下でも上限750万円。
- 採用・正社員化・賃上げは「補助金」ではなく厚生労働省の助成金。設備の補助金と併願できるのが実務上の要点。
- 共通の落とし穴はGビズIDプライムの取得に時間がかかることと汎用性の高い備品が対象外になること。着手は締切の1〜2か月前から。
まず結論:飲食店の補助金は「投資額の桁」で入口が変わる
飲食店の投資は、①のぼり・チラシ・小さな厨房機器(数十万円)、②POSレジや予約システム(数十万〜数百万円)、③配膳ロボットや自動洗浄機(数百万〜数千万円)の3つに分かれます。使う制度もこの3つに対応しています。まずは自分の投資がどこに入るかを確認してください。
ルート1:小規模事業者持続化補助金<一般型・通常枠>第20回
個人店・小規模チェーンが最初に検討する制度です。補助上限は50万円、補助率は2/3(赤字事業者は3/4)。インボイス特例で+50万円、賃金引上げ特例で+150万円が上乗せされ、両方を満たすと最大250万円まで伸びます。第20回の公募要領は2026年5月27日に中小企業庁から公開されました。
飲食店の使い道としては、店頭サイン・メニュー刷新・テイクアウト用の包装機材・小型の厨房機器・店舗の一部改装などが典型です。一方でWEBカメラやパソコンなど「汎用性が高く目的外使用になりえるもの」は機械装置等費の対象外と公募要領に明記されています。広報費・ウェブサイト関連費にはそれぞれ上限30万円が設けられ、ウェブサイト関連費だけの単独申請はできません。
| 項目 | 持続化補助金(第20回) | デジタル化・AI導入補助金2026 | 省力化投資補助金(一般型) |
|---|---|---|---|
| 補助上限 | 50万円(特例で最大250万円) | ソフト350万円/レジ・券売機20万円/PC・タブレット10万円 | 750万円〜8,000万円(賃上げ時は最大1億円) |
| 補助率 | 2/3(赤字事業者3/4) | ソフト3/4(小規模は4/5)※50万円超は2/3/ハード1/2 | 中小1/2(賃上げで2/3)/小規模・再生2/3 |
| 飲食店での例 | 看板・チラシ・小型厨房機器・テイクアウト包装 | POSレジ・券売機・モバイルオーダー・会計ソフト | 配膳ロボット・自動洗浄機・自動調理機 |
| 直近の締切 | 2026年11月5日〜12月15日17:00(様式4は12月4日締切) | インボイス枠4次締切 2026年8月25日17:00 | 第7回公募(2026年7月受付、以降の回は公式で確認) |
| GビズID | 電子申請で必要 | 必要 | プライムアカウントが必須 |
ルート2:デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)
2026年から名称が「デジタル化・AI導入補助金2026」に変わりました。飲食店で使いやすいのはインボイス枠(インボイス対応類型)です。会計・受発注・決済のいずれかの機能を持つソフトウェアが対象で、そのソフトの利用に必要なハードとしてPOSレジ・モバイルPOSレジ・券売機は上限20万円・補助率1/2、PC・タブレット等は上限10万円・補助率1/2まで一緒に申請できます。
補助額50万円以下のソフトは中小企業が3/4、小規模事業者は4/5という高い補助率です。50万円超350万円以下の部分は2/3になり、この場合は会計・受発注・決済のうち2機能以上が必要になります。注意すべきはハードウェアだけの申請は不可という点で、「券売機だけ買いたい」という申請は通りません。
交付申請期間は2026年3月30日から始まっており、4次締切は2026年8月25日(火)17:00、交付決定は2026年10月7日(予定)、事業実施期間は交付決定から2027年3月31日17:00(予定)までです。申請はIT導入支援事業者(ベンダー)と共同で行うため、まず登録ベンダーを探すところから始まります。
ルート3:中小企業省力化投資補助金(一般型)で人手不足に投資する
配膳ロボット、自動食器洗浄機、自動調理機、セントラルキッチンの設備など、人手不足の解消に直結する省力化投資を支援する制度です。オーダーメイド性のある設備やシステムも対象になり、ハードとソフトを組み合わせて事業全体で申請できるのが特徴です。補助上限は従業員数で決まります。
補助率は中小企業が1/2(大幅な賃上げを行う場合は2/3)、小規模企業者・小規模事業者と再生事業者は2/3です。申請にはGビズIDプライムアカウントが必須で、取得には一定の期間を要すると事務局も明記しています。設備の見積りより先にIDの取得を始めてください。
人の採用・正社員化・賃上げは「助成金」で受け止める
飲食店の最大の課題は設備よりも人です。ここは補助金ではなく厚生労働省の雇用関係助成金の領域で、原則として要件を満たせば受給できます(補助金のような採択競争がありません)。代表格がキャリアアップ助成金で、令和8年度版のパンフレットが2026年4月8日に公開されています。
コースは、有期雇用のアルバイトを正社員化する「正社員化コース」、基本給の賃金規定等を3%以上増額する「賃金規定等改定コース」、賞与・退職金制度を導入する「賞与・退職金制度導入コース」、社会保険の適用に合わせて労働時間を延長する「短時間労働者労働時間延長支援コース」などがあります。支給額はコースと対象者区分で変わるため、必ず最新のリーフレット(令和8年度版)で確認してください。
実務上の最重要ポイントは「キャリアアップ計画」を各コースの実施日の前日までに作成・提出することです。先に正社員化してしまうと、後から計画を出しても遡って受給することはできません。賃上げとセットの設備投資なら、業務改善助成金の使い方【2026年版】もあわせて検討してください。
- 契約・発注は交付決定の後。採択されても、交付決定前に発注した経費は原則として補助対象外です。「先に買ってしまった」が最も多い失敗です。
- GビズIDプライムは真っ先に申請する。省力化投資補助金は必須、他の制度も電子申請で使います。取得に時間がかかると締切に間に合いません。
- 汎用品は対象外になりやすい。持続化補助金の公募要領は、WEBカメラやパソコンなど「汎用性が高く目的外使用になりえるもの」を機械装置等費の対象外として例示しています。
- ハードだけの申請はできない制度がある。デジタル化・AI導入補助金は、ソフトウェアの利用に資するハードのみが対象です。
- 助成金は「取組の前に計画提出」。キャリアアップ助成金は各コース実施日の前日までにキャリアアップ計画の提出が必要です。
- 不正受給のペナルティは重い。厚生労働省は、全額返還に加えて延滞金と不正受給額の2割の納付、5年間の受給停止、事業主名の公表を明記しています。
申請から入金までのスケジュール感
補助金は「申請したら振り込まれる」制度ではありません。採択、交付決定、発注・支払い、実績報告、確定検査を経て、最後に精算払いで入金されます。先に自己資金で全額を払うのが前提であることを、資金繰りに必ず織り込んでください。
イレギュラー・現場でつまずく点
公式資料に明記されているのに見落とされやすい論点を、編集部で公募要領・事務局サイトを読み込んで整理しました。いずれも「知らずに進めると後戻りできない」種類のものです。
①締切が二重にある。持続化補助金は申請締切(12月15日)より前に、商工会・商工会議所が出す様式4の発行締切(12月4日)があります。年末は窓口が混み合うため、実務では11月中の相談が現実的です。
②IT導入は「ベンダー選び」が先。デジタル化・AI導入補助金は、事務局に登録されたIT導入支援事業者と共同で申請します。使いたいレジが登録ツールでなければ、そもそも申請できません。ITツール検索で先に確認してください。
③省力化投資補助金は重複申請ができない。公式サイトは、同事業へ応募申請・交付申請中の事業者と、交付決定を受けて補助金の支払いが完了していない事業者は申請できないと明記しています。連続して申請する計画は立てられません。
④助成金は「計画が先、実行が後」。キャリアアップ助成金は各コース実施日の前日までにキャリアアップ計画の提出が必要です。正社員化の辞令を出してから相談に行っても間に合いません。
相場観と編集部の価値判断
制度を並べると「上限1億円」の省力化投資補助金が魅力的に見えます。しかし補助率が1/2なら、8,000万円の補助を受けるには8,000万円の自己負担が必要です。補助金は資金調達ではなく、あくまで投資判断の後押しです。補助金があるから買う、という順番になった時点で経営判断としては逆立ちしています。
編集部の見立てとして、個人店・数店舗規模の飲食店で費用対効果が高いのはデジタル化・AI導入補助金のインボイス枠です。小規模事業者ならソフトの補助率4/5、レジ・券売機も1/2で乗せられ、投資額が数十万円台に収まりやすい。しかも券売機やモバイルオーダーは、人手不足の緩和と売上機会の確保に同時に効きます。
次に効くのは採用・定着の助成金です。設備は一度きりですが、人が定着すれば毎年効きます。採択競争がなく要件を満たせば受給できる点でも、投じた手間に対する期待値は補助金より安定しています。逆に、持続化補助金の50万円のために事業計画作成に何十時間もかけるのは、時給換算で割に合わないケースがあることも正直に書いておきます。商工会・商工会議所の無料相談を使い倒すことが前提です。
補助金は課税対象である点も見落とされがちです。圧縮記帳を使うかどうかで税負担が変わるため、金額が大きい場合は顧問税理士に事前に相談してください。詳しくは補助金は課税されるのかもあわせてご覧ください。
よくある質問
飲食店専用の補助金はありますか?
国の制度としては存在しません。持続化補助金・デジタル化・AI導入補助金・省力化投資補助金は業種を問わない制度で、飲食店もその中で申請します。ただし都道府県や市区町村が独自に、飲食店の設備更新や省エネを対象にした補助を出していることがあります。お住まいの自治体の産業振興課のページを確認してください。
開業前でも申請できますか?
多くの制度は事業を営んでいることが前提で、開業前は対象外か、別の創業支援制度の対象になります。創業間もない場合は自治体の創業助成事業を確認するのが早道です。補助金・助成金ガイドから目的別に探せます。
複数の補助金を同時に使えますか?
同じ経費に対して複数の補助金を重ねることはできません。ただし、設備は補助金・人件費は雇用関係助成金、というように対象経費が違えば併用できるのが一般的です。省力化投資補助金のように、同一事業内での重複申請そのものを禁じている制度もあるため、各公募要領の「他の補助金との重複」の項を必ず確認してください。
採択されなかったらどうすればいいですか?
持続化補助金もデジタル化・AI導入補助金も公募回が複数あるため、次回に再申請できます。不採択理由の開示を求められる制度もあります。計画の弱点は「数字の裏付け」と「取組の具体性」に出やすいので、来客数・客単価・作業時間といった自店の実数を入れて書き直すのが最短です。
GビズIDの取得にはどれくらいかかりますか?
事務局は「一定の期間を要する」とだけ案内しており、申請方法や時期によって変わります。締切間際に慌てないよう、補助金を検討し始めた時点で先に申請しておくのが確実です。
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出典・参考
- 中小企業庁「『小規模事業者持続化補助金<一般型・通常枠>(第20回)』の公募要領を公開しました」(2026年5月27日)
- デジタル化・AI導入補助金2026 事務局「インボイス枠(インボイス対応類型)」補助率・補助額・スケジュール
- 中小企業基盤整備機構「中小企業省力化投資補助金(一般型)」制度概要・補助上限額
- 厚生労働省「キャリアアップ助成金」(令和8年度版パンフレット・支給要領、不正受給に関する記載)
