- 何を:世帯分離(住民票の世帯を分ける届出)で下がりうるのは高額介護サービス費の上限額と、施設の食費・居住費の負担限度額認定。効くのは親と子を分ける場合です。
- 効かない場合:負担限度額認定は「世帯全員及び配偶者」で判定し、配偶者は住民票が別世帯でも必ず含まれます。夫婦を分けても軽減は受けられません。
- いつまでに:期限はありませんが、負担限度額認定証は申請月の初日から有効なのが一般的で、遡れません。入所が決まったらすぐ申請します。
- 2026年8月1日から改定:第2段階の所得基準が80.9万円以下→82.65万円以下に緩和。一方で食費の基準費用額が日額100円上がるなど負担増もあります。
「世帯分離をすれば介護費用が安くなる」という話は、半分正しくて半分は誤解です。下がる人はかなり下がり、下がらない人はまったく下がりません。そして分離したことで別のところが上がるケースもあります。
この記事では、どの制度が世帯で判定され、どの制度が配偶者まで見られるのかを整理し、あなたの場合に効くのかどうかを判断できる形にまとめます。金額の詳細は負担限度額認定の記事と高額介護サービス費の記事もあわせてご覧ください。
この記事の基準日:2026年8月6日。金額・要件は自治体の公表資料(厚生労働省の基準に基づくもの)で確認しています。判定は市区町村が行うため、必ずお住まいの窓口でご確認ください。
世帯分離で「効く制度」と「効かない制度」
ここが最も重要な分かれ目です。介護のお金の制度は、判定の単位が制度ごとに違います。
| 制度 | 判定の単位 | 世帯分離は効くか |
|---|---|---|
| 高額介護サービス費(月の上限) | 同一世帯の課税状況 | ◎ 効く。子を分けて親が非課税世帯になれば上限が下がる |
| 負担限度額認定(施設の食費・居住費) | 世帯全員及び配偶者+預貯金 | △ 親子には効く/夫婦には効かない |
| 介護保険の自己負担割合(1〜3割) | 本人の合計所得+同一世帯の65歳以上の収入 | ◎ 効きうる。同居家族の収入が外れる |
| 介護保険料(第1号被保険者) | 本人の所得+世帯の課税状況 | △ 段階が下がることも上がることもある |
| 高額医療合算介護サービス費(年間) | 同一世帯で合算 | × 逆効果になりうる。合算できなくなる |
| 高額療養費の世帯合算 | 同一の医療保険の同一世帯 | × 逆効果になりうる |
いくら変わるのか(月額のイメージ)
高額介護サービス費の上限額は、令和7年8月1日以降、次のようになっています。
食費の基準費用額は令和7年8月1日以降日額1,445円で、負担限度額は第1段階300円・第2段階390円・第3段階①650円・第3段階②1,360円です。令和8年(2026年)8月1日から食費の基準費用額は日額100円引き上げとなり、第3段階①②の負担限度額も日額30〜60円上がります。軽減の効果と負担増が同時に動く年なので、直近の通知を必ず確認してください。
手続きの時系列:どの順番で動くか
損しないポイント
- 負担限度額認定は申請しないと1円も下がりません。しかも遡れないのが原則。入所日が決まった段階で申請します。
- 預貯金が上限を超えていないか先に確認。第1段階は単身1,000万円/夫婦2,000万円、第2段階は650万円/1,650万円、第3段階①は550万円/1,550万円、第3段階②は500万円/1,500万円。超えると非課税世帯でも対象外です。
- 課税世帯でも「特例減額措置」がある。2人以上の世帯(別世帯の配偶者も人数に含む)で、収入から施設利用料の見込額を引いた額が80.9万円以下(令和8年8月1日以降は82.65万円以下)、預貯金等の合計が450万円以下などの要件を満たせば、申請により第3段階②の軽減を受けられます。ショートステイには適用されません。
- 高額介護サービス費の時効は2年。心当たりがあれば過去分を確認してください。
- 非課税年金(遺族年金・障害年金)も判定に入る。負担限度額認定では課税年金だけでなく遺族年金・障害年金も収入として見られます。「非課税だから関係ない」は誤りです。
世帯分離のデメリット:ここで逆に高くなる
軽減だけを見て届出をすると、別の負担が増えることがあります。代表的なものを挙げます。
- 国民健康保険料が世帯合計で増えることがある。国保には世帯ごとにかかる平等割があり、2世帯になると2回分かかる自治体があります。
- 高額療養費の世帯合算ができなくなる。同じ医療保険の同一世帯でなくなると、医療費を合算して上限を超えさせることができません。
- 高額医療合算介護サービス費(年間)も合算できなくなる。介護と医療の年間合計で払い戻しを受ける制度は同一世帯が前提です。
- 税の扶養から外れる可能性。子の所得税・住民税で扶養控除を取っていた場合、そこが失われることがあります(扶養控除は生計を一にしているかで判断されるため、世帯分離だけで自動的に外れるわけではありませんが、実態が別生計なら影響します)。
- 会社の健康保険の被扶養者から外れる場合がある。親を子の健康保険の被扶養者にしている場合、生計維持の実態が問われます。
- 各種の手続きが煩雑になる。世帯が別だと、子が親の証明書を取るのに委任状が必要になる場面が増えます。
あなたの場合はこう(状況別)
| あなたの状況 | 見込みと動き方 |
|---|---|
| 課税されている子と同居中の親が施設に入る | もっとも効きやすい。親だけを非課税世帯にできれば高額介護サービス費の上限が下がり、負担限度額認定も視野に入る |
| 夫が施設に入り、妻は在宅(妻が課税) | 負担限度額認定は効きません。配偶者は別世帯でも判定に入ります。特例減額措置の要件に当たるかを窓口で確認する |
| 親の預貯金が第2段階の上限(単身650万円)を超えている | 負担限度額認定は対象外。世帯分離しても食費・居住費は下がりません。高額介護サービス費の上限は下がる可能性あり |
| 親も子も国民健康保険 | 軽減額と国保の平等割増額を両方試算してから判断。差し引きでマイナスになることがあります |
| 親が後期高齢者医療、子は会社の健康保険 | 医療保険が別なので世帯合算のデメリットが小さい。比較的やりやすいパターン |
| 親も子も医療費が高額 | 世帯合算・高額医療合算のメリットが大きい場合があり、分離が損になることも。合算額を計算して比べる |
| 実際は同じ家計で暮らしている | 届出の前提を満たしません。実態と異なる届出は避けてください |
窓口で実際に起きること(現場対応)
介護の実務解説や体験談で繰り返し語られるのが、「窓口で理由を聞かれて断られる」場面です。世帯分離の届出は、住民基本台帳上の世帯=居住と生計をともにする単位を分けるものなので、生計が別であることが前提です。
そのため「介護費用を安くしたいので分けたい」と伝えると受け付けられないと、複数の解説で共通して指摘されています。実態として家計が分かれているなら、伝えるべきは「親と子で生計を別にしているため」という事実です。逆に、実態が同じ家計なのに軽減目的で届け出るのは適切ではありません。
また夫婦間の世帯分離は原則として認められないとされます。民法上の相互扶助義務があるためです。一度断られた場合は、生活実態の変化や客観的な資料が整うまで3か月程度の期間をおいてから再申請するのが現実的、という助言も見られます。
もうひとつの現場のつまずきは預貯金の確認書類です。負担限度額認定では通帳の写しや証券口座の残高の写しの添付が求められ、判定は基本的に本人の自己申告に基づきますが、必要があれば自治体が金融機関や年金保険者に照会します。虚偽の申告で不正に受給した場合は、支給額に加えて最大2倍の加算金を返還することがあると案内されています。
どこまでやるか(編集部の判断材料)
よくある質問
世帯分離をすれば介護費用は必ず下がりますか?
必ず下がるわけではありません。高額介護サービス費の上限額は同一世帯の課税状況で判定されるため、課税されている子を分けて親が非課税世帯になれば下がります。一方で施設の食費・居住費を下げる負担限度額認定は世帯全員及び配偶者で判定し、配偶者は住民票が別世帯でも含まれるため、夫婦を分離しても効果はありません。
夫婦で世帯分離をして施設の食費を下げられますか?
できません。負担限度額認定の要件は「世帯全員及び配偶者が市町村民税非課税」であり、自治体の案内には住民票が別世帯となっている場合や事実婚も含むと明記されています。配偶者が課税されている場合は認定を受けられません。課税世帯向けの特例減額措置に該当するかを窓口で確認してください。
窓口で世帯分離の理由を聞かれたら何と答えればよいですか?
世帯分離は生計が別であることが前提の届出です。実態として家計が分かれているなら「親と子で生計を別にしているため」と事実を伝えます。介護費用の軽減を目的として伝えると、本来の趣旨と異なるため受け付けられないと複数の解説で指摘されています。実態が同一家計の場合に軽減目的で届け出るのは適切ではありません。
世帯分離のデメリットは何ですか?
国民健康保険には世帯ごとにかかる平等割があるため、2世帯になると保険料の合計が増えることがあります。また高額療養費の世帯合算や、介護と医療を年間で合算する高額医療合算介護サービス費が使えなくなります。税の扶養や健康保険の被扶養者に影響する場合もあります。軽減額と増加額の両方を試算してから判断してください。
2026年8月から何が変わりますか?
負担限度額認定の第2段階の所得基準が、本人の課税年金収入額と非課税年金収入額と合計所得金額の合計で80.9万円以下から82.65万円以下に緩和されます。一方で食費の基準費用額が日額100円引き上げられ、第3段階①②の食費負担限度額は日額30円から60円、第3段階②の居住費は日額100円上がります(一部区分を除く)。
負担限度額認定は遡って申請できますか?
認定証の有効期間は申請月の初日からとされるのが一般的で、それ以前に遡ることはできません。入所日が決まった段階で速やかに申請してください。なお高額介護サービス費の給付は時効が2年のため、過去分について心当たりがあれば市区町村の窓口で確認できます。
