親が特別養護老人ホームや老人保健施設に入ると、介護サービス費(1〜3割)とは別に、食費と居住費(部屋代)が全額自己負担でのしかかります。ここで効くのが介護保険負担限度額認定(正式には特定入所者介護サービス費、通称「補足給付」)です。申請しないと1円も軽減されず、しかも過去にさかのぼれません。さらに2026年8月1日から食費・居住費の負担限度額が引き上げられます。この記事は、対象になる条件・申請のしかた・8月の改正内容を、公的資料をもとに整理しました。基準日は2026年7月28日です。
- 対象は「世帯全員が住民税非課税」+「預貯金が基準以下」の人。この2つを両方満たす必要があります。
- 効果は大きい。たとえば第2段階なら食費が1日390円、多床室の居住費が1日430円まで下がります。
- さかのぼれません。認定証は「申請日の属する月の初日から」有効。入所してから何か月も放置した分は戻りません。
- 毎年の更新申請が必要。有効期限は翌年度の7月末日です。
- 2026年8月1日から引き上げ。第3段階①②の食費が1日30〜60円、居住費が1日100円上がります(厚生労働省 介護保険最新情報vol.1506)。
負担限度額認定とは|施設の食費・居住費に上限をかける制度
介護保険施設に入所すると、介護サービス費の自己負担分に加えて居住費(滞在費)・食費・日常生活費を払います。このうち居住費と食費は本来、利用者と施設の契約で決まる実費です。ただし所得が低く資産のない人については、市区町村に申請して負担限度額認定証の交付を受けることで、上限額(負担限度額)までに抑えられます。
対象になるサービス
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護医療院(介護療養型医療施設)
- 短期入所生活介護・短期入所療養介護(ショートステイ/介護予防を含む)
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は対象外です(ただしそこに住む人がショートステイを使う場合は対象になります)。ここを勘違いしたまま入居先を決めてしまうと、月額の見込みが大きく狂います。
いくらまで下がる?|段階別の負担限度額(1日あたり)
下表は自治体が公表している現行(2026年7月時点)の負担限度額です。金額は全国共通ですが、表記は市区町村によって異なるため、必ずお住まいの市区町村の一覧表もご確認ください。
| 段階 | 食費 (施設/ショート) | ユニット型個室 | 従来型個室 ( )は特養等 | 多床室 |
|---|---|---|---|---|
| 第1段階 生活保護受給者、または非課税世帯で老齢福祉年金受給者 | 300円 | 880円 | 550円(380円) | 0円 |
| 第2段階 非課税世帯で年金等の収入が80.9万円以下 | 390円/600円 | 880円 | 550円(480円) | 430円 |
| 第3段階① 非課税世帯で80.9万円超120万円以下 | 650円/1,000円 | 1,370円 | 1,370円(880円) | 430円 |
| 第3段階② 非課税世帯で120万円超 | 1,360円/1,300円 | 居住費は第3段階①と同じ区分の額(自治体の一覧表でご確認ください) | ||
| 第4段階 上記以外(課税世帯など) | 軽減なし(施設との契約による実費)。ただし後述の特例減額措置に該当する場合あり | |||
効き目を実感しやすいのは第1段階・第2段階の多床室です。第1段階なら居住費が0円、食費も1日300円。ひと月あたり数万円単位で変わります。
非課税年金も「収入」に数えられる点に注意
段階判定に使う収入には、遺族年金や障害年金といった非課税年金も含まれます。所得税や住民税がかからない年金なので「収入ゼロ」と思いがちですが、この判定では加算されます。遺族年金を受け取っている人は、想定より上の段階になることがあります。
対象になる2つの条件|世帯の課税と預貯金
認定証の交付を受けられるのは、次の(1)(2)いずれにも該当する人です。
(1) 世帯全員が住民税非課税であること
ここでいう「世帯」には、世帯を別にする配偶者も含みます。施設入所にあたって住所を移して住民票上の世帯が別になっていても、配偶者の課税状況は検討対象です。婚姻届を出していない事実婚や、長期間別居しているケースも配偶者に含まれます。「世帯分離すれば通る」という単純な話ではありません。
(2) 預貯金等が段階ごとの基準以下であること
| 段階 | 単身 | 夫婦 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 1,000万円 | 2,000万円 |
| 第2段階 | 650万円 | 1,650万円 |
| 第3段階① | 550万円 | 1,550万円 |
| 第3段階② | 500万円 | 1,500万円 |
申請書の裏面には税状況や預貯金等の調査・照会に対する同意書があり、記入が必須です。金融機関への照会が行われる前提の制度だと理解しておいてください。
申請から認定証が届くまで|時系列で見る
用意するもの
- 介護保険負担限度額認定申請書(市区町村の窓口・ホームページで入手)
- 同意書(申請書裏面。税状況・預貯金等の照会に同意するもの。記入必須)
- 預貯金等の額がわかる書類/通帳の写しは、銀行名・支店・口座番号・口座名義人がわかるページと直近2か月分の残高がわかるページの両方。配偶者がいる場合は配偶者の分も必要です。
- マイナンバーがわかるもの・本人確認書類
体験談で多く語られるのは、通帳のコピーの取り方でやり直しになったという失敗です。「残高のページだけ」を持っていくと、名義がわかるページが足りずに再提出になります。表紙・見開き1ページ目・直近2か月の記帳ページをセットでコピーしておくと一度で済みます。定期預金や複数口座がある場合は、そのすべてが対象です。
2026年8月1日から こう変わる
厚生労働省は2026年5月29日付の事務連絡「令和8年8月からの特定入所者介護(予防)サービス費の見直し等に係る周知への協力依頼について」(介護保険最新情報vol.1506)を発出し、2026年8月1日から負担限度額と基準費用額を引き上げることを周知しています。公表されている変更の方向は次のとおりです。
- 対象は第3段階①・②の人。第1段階・第2段階の負担限度額は据え置きとされています。
- 食費:1日あたり30〜60円の引き上げ
- 居住費:1日あたり100円の引き上げ(一部を除く)
- 食費の基準費用額:1日1,445円 → 1,545円
- 第2段階と第3段階①を分ける所得基準額:80.9万円 → 82.65万円(基準が上がるため、これまで第3段階①だった人が第2段階に下がる=負担が軽くなる可能性があります)
- 負担限度額認定証の様式も見直し(多床室の区分の細分化など)
注意したいのは、所得基準の引き上げは必ずしも「負担増」だけを意味しないことです。第2段階の線引きが80.9万円から82.65万円へ上がるため、境目にいた人は逆に軽い段階へ移る可能性があります。8月の認定証更新のタイミングで、自分の段階が変わっていないか必ず確認してください。
損しないポイント|ここを外すとお金が戻りません
- さかのぼりなし/有効期間は申請日の属する月の初日から。4月に入所して7月に申請すれば、4〜6月分は軽減されません。入所が決まった時点で申請してください。
- 更新申請を忘れない/有効期限は翌年度の7月末日。毎年更新しないと8月から通常料金に戻ります。
- 施設への提示が必要/認定証が届いたら施設に提示してください。手元に置いたままだと請求に反映されません。
- いま外れていても後から該当することがある/預貯金が基準を下回った・世帯の課税状況が変わったなど、あとで条件を満たしたら、その時点で申請すれば以後は軽減の対象になります。一度断られたきりにしないでください。
- ショートステイも対象/在宅介護中でも、ショートステイの食費・滞在費に適用されます。施設入所していないから関係ない、と思い込まないでください。
あなたの場合はこう|状況別の分かれ道
| あなたの状況 | こう考える |
|---|---|
| 親が単身・年金だけで暮らしていた | 第1〜第3段階に該当する可能性が高い典型例。まず申請を。ただし預貯金が基準超なら対象外です。 |
| 配偶者が健在で自宅にいる | 配偶者の課税状況と預貯金も判定対象。住民票を分けても回避できません。夫婦合算の預貯金基準(第2段階なら1,650万円)で見ます。 |
| 遺族年金を受け取っている | 非課税年金も収入に算入されます。住民税は非課税でも、段階は思ったより上になることがあります。 |
| 課税世帯なので対象外と言われた | 後述の特例減額措置を確認してください。課税世帯でも一定条件を満たせば第3段階の限度額が適用されます。 |
| 有料老人ホームに入居予定 | この制度の対象外です。月額費用の見積もりに軽減を織り込まないでください。ショートステイ利用時のみ適用されます。 |
課税世帯でも使える「特例減額措置」
住民税課税世帯であるために認定を受けられなかった人でも、次の条件をすべて満たせば、食費または居住費(あるいは両方)について第3段階の負担限度額が適用される特例があります。高齢夫婦の一方が施設に入り、残された配偶者の生活費が立ちゆかなくなるのを防ぐための制度です。
- 介護保険施設に入所・入院し、第4段階の食費・居住費を負担していること(ショートステイには適用されません)
- 世帯の構成員が2人以上であること(年齢要件なし)
- 世帯の年間収入から施設の利用者負担・食費・居住費の年間見込み額を除いた額が80.9万円以下になること
- 世帯の現金・預貯金等(有価証券等を含む)が450万円以下であること
- 居住用家屋など日常生活に必要な資産以外に、利用しうる資産を持っていないこと
- 世帯に介護保険料の滞納がないこと
この特例は窓口で自分から聞かないと案内されないことがある制度です。「課税世帯なので対象外です」と言われて引き下がる前に、「特例減額措置は使えませんか」と一言確認してください。なお、施設入所にあたって世帯分離して第3段階以下になる場合には適用されません。
部屋のタイプをどう選ぶか|編集部の価値判断
施設側からは「ユニット型個室のほうが快適です」と勧められることがよくあります。実際、個室はプライバシーが保たれ、感染症対策の面でも有利です。一方で居住費の差は小さくありません。第2段階なら多床室430円に対しユニット型個室880円、第3段階①なら多床室430円に対しユニット型個室1,370円。ひと月あたり1.4万〜2.8万円ほどの差が出ます。
どちらが正しいという話ではないので、判断材料として整理します。
| 価値観 | 編集部の目安 |
|---|---|
| 堅実に、長く続けたい | 多床室で十分。入所は数年単位で続くことが多く、月2万円の差は3年で70万円を超えます。年金の範囲で収まるかを最優先に。 |
| 本人の性格・状態を重視したい | 物音に敏感、認知症で他の入所者とのトラブルが心配、といった事情があるなら個室の価値は高い。費用差は「本人が穏やかに過ごせる対価」と考えられます。 |
| こだわりたい・面会を大切にしたい | ユニット型個室。少人数の共同生活単位でスタッフの目が届きやすく、家族が落ち着いて面会できます。 |
編集部としては、まず負担限度額認定を申請して自分の段階を確定させ、その段階での実際の月額を施設に見積もってもらってから部屋を決めることをおすすめします。順番が逆になると、契約後に「思ったより高い」と分かって動けなくなります。介護は長期戦です。「初月に払える額」ではなく「3年払い続けられる額」で判断してください。
あわせて、月々の自己負担そのものに上限をかける高額介護サービス費や、医療と介護を合算する高額医療合算介護サービス費もあります。こちらは市区町村から案内が届くことが多い制度ですが、初回は申請が必要な自治体がほとんどです。窓口で必ず確認してください。
関連記事:介護保険の始め方(要介護認定の申請から利用開始まで)/高額療養費制度の使い方
よくある質問
負担限度額認定はさかのぼって適用されますか?
されません。有効期間は「申請日の属する月の初日から」です。たとえば4月に入所して7月に申請した場合、7月1日からの適用となり、4月から6月までの食費・居住費は軽減されません。入所が決まった時点、あるいはショートステイの利用を始める時点で申請してください。
世帯分離すれば負担限度額認定を受けられますか?
単純にはできません。判定では、世帯を別にする配偶者も含めて課税状況を検討します。施設入所にあたって住所を異動し住民票上の世帯が別になっている場合や、事実婚、長期間の別居であっても配偶者として扱われます。また預貯金要件も夫婦の合算で判定されます。
遺族年金や障害年金は収入に含まれますか?
含まれます。段階判定に使う収入は「前年の合計所得金額+課税年金収入額+非課税年金収入額」で、遺族年金や障害年金などの非課税年金も算入されます。住民税がかからない年金だからといって、判定上ゼロにはなりません。
2026年8月から負担はいくら増えますか?
厚生労働省の介護保険最新情報vol.1506によれば、2026年8月1日から第3段階①・②を対象に、食費が1日あたり30〜60円、居住費が1日あたり100円(一部を除く)引き上げられます。食費の基準費用額も1日1,445円から1,545円に上がります。第1段階・第2段階の負担限度額は据え置きです。段階別の正確な金額は、お住まいの市区町村が公表する一覧表でご確認ください。
有料老人ホームでも使えますか?
使えません。対象は介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護医療院、短期入所生活介護、短期入所療養介護、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護です。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の家賃・食費は対象外ですが、そこにお住まいの方がショートステイを利用する場合には適用されます。
出典・参考
- 厚生労働省 介護保険最新情報vol.1506「【事務連絡】令和8年8月からの特定入所者介護(予防)サービス費の見直し等に係る周知への協力依頼について」(2026年5月29日)=公益社団法人 全国有料老人ホーム協会による周知掲載ページ
- 奈良市「介護保険負担限度額認定の申請について」(2025年8月1日更新/負担限度額・預貯金要件・特例減額措置・必要書類)公式ページ
- 厚生労働省 介護・高齢者福祉公式ページ
※この記事は、みんなのミカタナビ編集部が公的情報をもとに整理したものです。専門家による監修は受けていません。負担限度額・所得区分・申請様式は市区町村によって運用の細部が異なり、2026年8月1日に改正が予定されています。実際の適用可否と金額は、必ずお住まいの市区町村の介護保険担当窓口でご確認ください。基準日:2026年7月28日。
暮らしの手続き全体の流れは暮らしの手続きガイドに、親の介護・相続の全体像は親が亡くなったらやることリストにまとめています。
