働きながら年金を受け取ると、年金の一部が止まる。この在職老齢年金のしくみが、令和8年(2026年)4月に見直されました。年金が減り始める基準額が月51万円から65万円へ、一気に14万円引き上げられています。これまで年金が止まるのを避けるために勤務時間を抑えていた人は、前提が変わったことになります。
結論の要点
- 何が変わったか
- 年金が減らされ始める基準額が、月51万円から65万円に上がりました(令和8年4月から)。
- いつから
- 令和8年(2026年)4月分の年金から。4月分・5月分は6月15日に支払われます。
- 誰に関係するか
- 厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取る60歳以上の人。会社を辞めている人・自営業の人には関係ありません。
- 手続き
- 不要です。日本年金機構が自動で計算し直します。申請書を出す必要はありません。
- 誤解しやすい点
- 老齢基礎年金(国民年金部分)は調整の対象外です。止まるのは老齢厚生年金の報酬比例部分だけです。
何がどう変わったのか
日本年金機構は、令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)にもとづき、令和8年4月から、総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計の基準を51万円から65万円に見直したと公表しています。趣旨は、働き続けることを希望する高齢者の活躍を後押しし、より働きやすい仕組みにすることだと説明されています。
自分の年金が減るかどうかを計算する
計算に使う2つの数字
基本月額=加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の年額 ÷ 12
総報酬月額相当額=標準報酬月額 +(直近1年間の標準賞与額 ÷ 12)
合計が65万円以下
年金は全額支給されます。
合計が65万円を超える
支給額 = 基本月額 −(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 65万円)÷ 2
65万円は令和8年度の支給停止調整額です。毎年度、賃金の変動に応じて改定されます。
公式の計算例で見る改正前後の差
損しないポイント
損しないポイント
- 就業調整をやめる判断材料になります。これまで「年金が止まるから」と勤務時間を抑えていた人は、基準額が14万円上がったことで、抑える必要がなくなっている可能性があります。まず自分の合計額を計算してください。
- 繰下げ待機中の人は計算が別です。在職老齢年金で支給停止される部分は、繰下げによる増額の対象になりません。繰下げを検討している人は、停止額がゼロになったかどうかで判断が変わります。
- 加給年金は基本月額に含めません。配偶者の加給年金を受け取っている人が合計額を計算するときに間違えやすい点です。
- 基準額は毎年度変わります。65万円は令和8年度の額です。来年度以降は賃金変動に応じて改定されるため、毎年確認してください。
あなたの場合はどうなるか|状況別の分岐
厚生年金に加入して働いている(60歳以上)
対象です。標準報酬月額と直近1年の賞与から総報酬月額相当額を出し、基本月額と足して65万円と比べます。
会社は辞めていて、年金だけ受け取っている
対象外です。在職老齢年金は厚生年金の被保険者であることが前提です。全額受け取れます。
自営業・フリーランスとして収入がある
対象外です。厚生年金に加入していなければ、収入がいくらあっても老齢厚生年金は減りません。
70歳以上でも働いている
対象です。70歳以上は厚生年金保険料の負担はありませんが、標準報酬月額に相当する額を使って同じ調整が行われます。
高年齢雇用継続給付も受け取っている
在職老齢年金の調整に加えて、給付を受けている間はさらに年金の一部(標準報酬月額の最大4%。2025年3月以前からの受給者は最大6%)が止まります。
年金の繰下げを待機中
待機中は年金を受け取っていないため支給停止の判定自体は行われますが、停止されるはずだった部分は増額の対象外です。65万円基準で停止がゼロになるなら、繰下げの効果は大きくなります。
いつから、どの振込に反映されるか
令和8年3月分まで
基準額は51万円
合計が51万円を超えると、超過分の半額が止まっていました。
令和8年4月分から
基準額が65万円に
令和7年年金制度改正法にもとづく見直しです。手続きは不要で、日本年金機構が自動的に計算し直します。
令和8年6月15日
新基準での最初の振込
年金は偶数月の15日に前2か月分が支払われます。4月分・5月分が6月15日に入るため、金額の変化を最初に確認できるのはこのタイミングです。
毎年度4月
基準額の改定
支給停止調整額は賃金の変動に応じて毎年度改定されます。65万円という数字は令和8年度限りの額です。
退職したとき
退職改定で年金額が見直される
厚生年金の被保険者でなくなれば、在職老齢年金による支給停止はなくなります。
つまずきやすいところ
- 「65万円」を年収や月給と勘違いしやすい。比べるのは賃金だけではなく、賃金相当額と年金(報酬比例部分)の合計です。
- 賞与を忘れやすい。総報酬月額相当額には直近1年間の標準賞与額を12で割った額が入ります。月給だけで判定すると過小評価になります。
- 老齢基礎年金を含めて計算してしまう。調整の対象は老齢厚生年金の報酬比例部分だけです。基礎年金は減りません。
- 手続きが必要だと思い込む。申請は不要です。「改正の申請書が届かない」と窓口に問い合わせる必要はありません。
- 共済組合からも年金を受けている場合は計算が複雑になります。すべての老齢厚生年金を合わせた額を12で割って基本月額とし、停止の総額をそれぞれの年金額に応じて割り振ります。年金事務所での確認をおすすめします。
相場観と編集部の価値判断
編集部の見方:「働き損」という言葉に引きずられないこと
在職老齢年金は「働くと年金が減る、だから損」と語られがちです。ただし止まるのは超過分の半額であって、賃金が丸ごと消えるわけではありません。合計65万円を超えても、賃金1万円の増加に対して止まるのは年金5,000円です。手取り全体は増えます。
堅実に考えたい人は、まず自分の合計額を出し、65万円に届いていなければこの制度を気にする必要はないと切り分ける。ここに当てはまる人が今回の改正で大きく増えました。収入を積み上げたい人は、超過しても手取りは増えるという前提のうえで、繰下げ受給や退職時期と合わせて設計する。就業時間を抑える判断は、少なくとも計算をしてからにしてください。判断材料として示すもので、特定の働き方を勧めるものではありません。
よくある質問
在職老齢年金の改正に手続きは必要ですか?
必要ありません。日本年金機構が自動的に計算し直します。申請書の提出や届出は不要です。
65万円は今後も変わりませんか?
変わります。日本年金機構は、65万円は令和8年度の基準額であり、毎年度、賃金の変動に応じて改定されると説明しています。
老齢基礎年金も減りますか?
減りません。在職老齢年金の調整対象は老齢厚生年金です。老齢基礎年金は調整の対象になりません。
合計が65万円を超えると、超えた分がまるごと止まるのですか?
いいえ。止まるのは超過額の半分です。計算式は「基本月額 −(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 65万円)÷ 2」です。
会社を辞めれば年金は全額もらえますか?
厚生年金保険の被保険者でなくなれば、在職老齢年金による支給停止はなくなります。ただし退職後の収入や健康保険の扱いも合わせて検討してください。
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出典・基準日
基準日:2026年8月7日。支給停止調整額は毎年度改定されます。ご自身の年金額の判定は、年金事務所またはねんきんネットでご確認ください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の支給額を保証するものではありません。
- 日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」 https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/zairoukaisei.html(更新日2026年4月1日。改正内容・計算式・計算例)
- 日本年金機構「在職老齢年金早見表」 PDF
- 厚生労働省「年金制度の改正について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00022.html
