仕事中や通勤中のけがで働けなくなったとき、生活費の穴を埋めるのが労災保険の休業(補償)等給付です。ところが「給料の6割しか出ない」と誤って覚えている人が多く、実際に受け取れる額を低く見積もったまま無理に出勤してしまう例があります。この記事は厚生労働省が示す計算方法をもとに、1日あたりいくらになるのか、最初の3日間は誰が払うのか、請求はいつまでにするのかを整理したものです。
(制度の内容は2026年8月29日時点で厚生労働省が公表している情報にもとづきます。給付基礎日額の最低保障額は毎年8月に改定されるため、最新値は必ず厚生労働省の公表資料で確認してください。)
- 休業4日目以降は、給付基礎日額の80%(休業(補償)等給付60%+休業特別支給金20%)が1日につき支給されます。「6割」は保険給付だけの数字です。
- 給付基礎日額は労働基準法の平均賃金。直前3か月の賃金総額÷その期間の暦日数で、賞与など3か月を超える期間ごとの賃金は含みません。
- 月給20万円の例では給付基礎日額6,522円、1日あたり5,217円(厚生労働省の計算例)。
- 最初の3日間(待期期間)は労災保険から出ません。業務災害なら事業主が平均賃金の60%を補償する義務を負います(労働基準法76条)。通勤災害にはこの義務がありません。
- 請求書は業務災害が様式第8号、通勤災害が様式第16号の6。時効は賃金を受けない日の翌日から2年です。
1日いくらになるのか|80%の内訳と計算の順番
計算は3段階です。①直前3か月の賃金総額を暦日数で割って給付基礎日額を出す(1円未満は切り上げ)、②その60%と20%をそれぞれ計算する(1円未満は切り捨て)、③足す。順番を守らないと数百円ずれます。
| 月給(3か月とも同額の場合) | 給付基礎日額 | 給付60% | 特別支給金20% | 1日の合計 |
|---|---|---|---|---|
| 200,000円 | 6,522円 | 3,913円 | 1,304円 | 5,217円 |
| 250,000円 | 8,153円 | 4,891円 | 1,630円 | 6,521円 |
| 300,000円 | 9,783円 | 5,869円 | 1,956円 | 7,825円 |
最初の3日間は誰が払うのか|業務災害と通勤災害で分かれる
労災保険から支給されるのは休業4日目以降です。最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、ここの扱いが業務災害と通勤災害で違います。業務災害であれば、労働基準法76条により事業主が平均賃金の60%を補償する義務を負います。通勤災害にはこの義務がなく、有給休暇を充てるか無給になるのが実務上の扱いです。待期の3日間は連続している必要はなく、所定休日も日数に含めて数えます。
請求の手順と期限|1か月ごとに出すのが実務
休業(補償)等給付は、けがをした本人(または家族)が労働基準監督署へ請求します。会社が代わりに出してくれることも多いのですが、会社が出してくれないから請求できない、ということはありません。
- 【受診時】労災であることを病院に伝える
健康保険証を出さず「労災です」と伝えます。労災指定病院なら窓口負担なしで治療を受けられます。
- 【休業開始】請求書の様式を用意する
業務災害は様式第8号、通勤災害は様式第16号の6。厚生労働省のサイトから印刷できます。
- 【記入】休んだ期間と賃金を受けなかった日を書く
待期の3日間や所定休日も「賃金を受けなかった日」に含めて記入します。
- 【証明1】事業主の証明を受ける
休業した期間と賃金を支払わなかった事実を会社に証明してもらいます。拒まれた場合は理由書を添えて提出できます。
- 【証明2】医師の証明を受ける
療養のために働けなかった期間について、診療した医師の証明欄を記入してもらいます。
- 【提出】労働基準監督署へ出す
勤務先を管轄する労働基準監督署へ提出します。1か月ごとに区切って請求するのが実務上の一般的な進め方です。
- 【期限】時効は2年
請求権の時効は、賃金を受けない日の翌日から2年です。過ぎた分はさかのぼれません。
傷病手当金との違い|どちらを使うかは選べない
「労災と傷病手当金、どちらが得か」という質問をよく見かけますが、原因が仕事・通勤かどうかで自動的に決まるため選択の余地はありません。仕事が原因なら労災、私傷病なら健康保険の傷病手当金です。金額と期間の設計はかなり違います。
| 項目 | 労災の休業(補償)等給付 | 健康保険の傷病手当金 |
|---|---|---|
| 対象 | 業務災害・通勤災害 | 仕事以外が原因の病気・けが |
| 1日あたり | 給付基礎日額の80%(60%+特別支給金20%) | 標準報酬日額の約3分の2 |
| 待期 | 3日(業務災害は事業主が平均賃金の60%を補償) | 連続3日の待期が必要 |
| 治療費 | 療養(補償)等給付で原則自己負担なし | 通常の窓口3割負担 |
| 長期化したとき | 1年6か月経過し傷病等級に該当すれば傷病(補償)等年金へ移行 | 支給期間は通算1年6か月まで |
| 請求先 | 労働基準監督署 | 健康保険組合・協会けんぽ |
金額でも治療費でも労災のほうが手厚く設計されています。傷病手当金のもらい方もあわせて確認してください。
現場でつまずく場面と、その場での対応
厚生労働省の様式説明や労働相談の公開情報を読み比べると、休業補償でつまずく場面は数えるほどしかありません。以下は編集部が公開情報を整理したもので、特定の個人の体験談ではありません。
- 受診時に健康保険証を出してしまった/労災と分かった時点で病院と健康保険組合に申し出て切り替えます。放置すると後日、健康保険が負担した分の返還を求められます。
- 会社が事業主証明を書いてくれない/証明欄が空欄でも、その理由を書いた文書を添えれば労働基準監督署は受け付けます。「会社が認めないから労災にならない」わけではありません。
- 「6割しか出ない」と思って無理に出勤した/実際は特別支給金を含めて80%です。加えて療養費が原則自己負担なしになる分、手取りの目減りは想像より小さくなります。
- 請求を後回しにして2年が過ぎた/時効は賃金を受けない日の翌日から2年で、月ごとに進みます。まとめて出そうとして古い月が消えるのが典型的な損です。
相場観と、編集部としての価値判断
数字を並べ直すと、労災の休業補償は「額面の8割+治療費ゼロ」という構造です。月給20万円なら1日5,217円、30日で15万円台。額面との差は約4万円ですが、通院費や薬代が自己負担にならない点を差し引くと、実質的な目減りはさらに小さくなります。
そのうえで編集部の判断は3点です。第一に、「労災にすると会社に迷惑がかかる」という遠慮で申請を遅らせないこと。時効は月ごとに進み、遅れた分は戻りません。第二に、待期3日の扱いを最初に確認すること。業務災害なら事業主の補償義務があり、ここを知らずに有給を消化してしまうケースがあります。第三に、給付基礎日額の計算根拠を自分でも控えておくこと。直前3か月の給与明細を写真に撮っておくだけで、後の食い違いを防げます。
よくある質問
労災の休業補償は1日いくらもらえますか?
休業4日目以降、給付基礎日額の80%(休業(補償)等給付60%+休業特別支給金20%)が1日につき支給されます。厚生労働省の計算例では、月給20万円で給付基礎日額6,522円、1日あたり5,217円です。
最初の3日間は誰が払ってくれますか?
労災保険からは支給されません。業務災害の場合は労働基準法76条により、事業主が平均賃金の60%を補償する義務を負います。通勤災害にはこの義務がなく、有給休暇を充てるか無給になるのが実務上の扱いです。
会社が証明してくれないときは請求できませんか?
請求できます。様式には事業主が休業期間と賃金を支払わなかった事実を証明する欄がありますが、記入を拒まれた場合は理由を記した文書を添えて労働基準監督署へ提出できます。
請求はいつまでにすればよいですか?
請求権の時効は、賃金を受けない日の翌日から2年です。月ごとに時効が進むため、まとめて請求しようとすると古い月から権利が消えます。1か月ごとに区切って出すのが安全です。
休業補償に税金はかかりますか?
労災保険の給付は非課税です。所得税・住民税の対象にならず、確定申告で収入として申告する必要もありません。ただし待期3日間について事業主から受けた休業補償の扱いは会社の規程によります。
休業が長引くとどうなりますか?
療養開始から1年6か月を経過しても治らず、傷病等級に該当する状態であれば、休業(補償)等給付から傷病(補償)等年金へ切り替わります。該当しない場合は休業給付が続きます。
あなたの体験を聞かせてください
この手続きで「実際はこうだった」「ここでつまずいた」という経験があれば、体験談募集フォームから教えてください。許諾をいただいたものだけ、出所を明示して記事に反映します。
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労災の認定や請求書の書き方は、勤務先を管轄する労働基準監督署が無料で相談に応じています。会社とのやり取りでこじれている場合は、各都道府県労働局の総合労働相談コーナーも無料で利用できます。まずは公的窓口へ、費用をかけずに確認してください。
読み終えたら、次に手を動かすこと
休業が続くと、入ってくるお金より先に出ていくお金を見直すほうが効きます。固定費は一度手を動かせば毎月効き続けます。
- 電気・ガス・水道の契約を見直す手順立ち会いが要るのはガスだけ。申し込みの順番と当日の流れを逆算表で整理しています。
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出典
- 厚生労働省「3-5 休業(補償)等給付の計算方法を教えてください。」(給付基礎日額の80%=60%+20%、月給20万円の計算例)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000154476.html - 厚生労働省「様式第8号 休業補償給付支給請求書」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken06/dl/kyuugyou-01.pdf - 待期3日間の事業主の補償義務は労働基準法76条、請求権の時効2年は労働者災害補償保険法42条にもとづきます。
本記事は制度の一般的な説明です。個別の認定可否や金額は労働基準監督署の判断によります。基準日:2026年8月29日。
