特例承継計画の提出期限は令和9年(2027年)9月30日まで延長されました。ただし贈与・相続の実行期限は令和9年12月31日のままで、計画提出から実行までの猶予は最短3か月です。
情報基準日:2026年9月17日(中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」の公式ページを編集部が再確認)
この記事の結論(2026年9月17日時点)
- 特例承継計画の提出期限は「令和9年(2027年)9月30日」まで。中小企業庁の公式ページに明記されています。
- 贈与・相続そのものの期限は「令和9年(2027年)12月31日」のままで、こちらは延びていません。
- つまり計画を出してから実行するまでの猶予は最短で3か月。計画だけ先に出して安心すると間に合わなくなります。
- 特例措置を使わない(使えない)場合でも、期限のない一般措置は残ります。ただし猶予割合と対象株式数が下がります。
自社株を後継者に渡すとき、贈与税や相続税の納税を猶予してもらえるのが「法人版事業承継税制」です。このうち条件が大幅に緩い特例措置は10年間限定の時限措置で、使うには事前に特例承継計画を都道府県へ出しておく必要があります。
その提出期限が長らく「令和8年(2026年)3月31日まで」とされていたため、「もう間に合わない」と思って検討をやめた経営者は少なくありません。ところが現在の中小企業庁の公式ページは、提出期限を令和9年9月30日と記載しています。一方で、実際に株式を渡す期限(贈与・相続の期間)は令和9年12月31日のままです。この記事では、この「延びたもの」と「延びていないもの」のズレが実務上どう効いてくるかを、公式資料だけを根拠に整理します。
何が延びて、何が延びていないのか
整理すると、動いたのは入口の書類(特例承継計画)の締切だけです。制度そのものの適用期間、つまり「いつまでの贈与・相続が対象か」は動いていません。中小企業庁は特例措置のページで「平成30年1月1日から令和9年12月31日までに、贈与・相続により会社の株式を取得した経営者が対象になります」と書いており、手続きフローの説明でも「令和9年9月30日までに申請し、令和9年12月31日までに事業承継を行う必要があります」と両方の日付を並記しています。
図1|特例措置の2つの期限(法人版)
この図のとおり、計画の提出期限から実行期限まではおよそ3か月しかありません。期限ぎりぎりに計画を出す前提で動くと、株価の算定・株主の合意・贈与契約・登記といった作業を年末までに終わらせることになります。年末年始をまたぐ手続きは金融機関も税務署も動きが鈍る時期なので、実務上はもっと余裕が要ります。
なお個人事業主向けの個人版事業承継税制も同じ構造です。中小企業庁の個人版のページには「平成31年4月1日から令和10年9月30日までに、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた旨を記載した個人事業承継計画の提出が必要です」とあり、国税庁は対象となる贈与・相続を「平成31年1月1日から令和10年12月31日まで」としています。法人版より1年遅れの日程だと覚えておくと混乱しません。
特例措置と一般措置は何が違うのか
「期限に間に合わないなら諦めるしかないのか」と聞かれることがありますが、そうではありません。事業承継税制(事業承継・M&A補助金とは別制度です)には期限のない一般措置があり、特例措置が終わっても制度自体は残ります。違うのは条件の緩さです。国税庁は特例措置の創設について「納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の3分の2まで)の撤廃や、納税猶予割合の引上げ(80%から100%)等がされた」と説明しています。
表1|特例措置と一般措置の主な違い(法人版)
| 項目 | 特例措置(期限あり) | 一般措置(期限なし) |
|---|---|---|
| 事前の計画提出 | 必要(特例承継計画・令和9年9月30日まで) | 不要 |
| 対象となる株式数 | 上限なし(全株式) | 総株式数の3分の2まで |
| 納税猶予割合 | 100% | 贈与100%・相続80% |
| 承継のパターン | 親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者(最大3人)へ | 複数の株主から後継者1人へ |
| 雇用8割維持 | 下回っても理由を都道府県へ報告すれば猶予継続 | 5年平均で8割を維持できないと原則として認定取消 |
| 売却・廃業時の減免 | あり(株価下落時は再計算して差額を減免) | なし |
出典:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」、国税庁「法人版事業承継税制」。2026年9月17日時点の記載にもとづく編集部整理。
相続で一般措置を使う場合、対象は総株式数の3分の2までで猶予割合は80%です。単純にかけ算すると、株式にかかる相続税のうち猶予されるのはおおむね2分の1強にとどまります。特例措置なら全株式が100%猶予なので、この差は決して小さくありません。数千万円規模の税額が動くケースもあるため、「計画を出すかどうか」は税額の話として検討する価値があります。
もうひとつ実務で効くのが雇用要件です。一般措置は5年平均で従業員数の8割を維持できないと原則として認定が取り消され、猶予されていた税額を利息(利子税)付きで納めることになります。特例措置は8割を下回っても、理由を書いた報告書(様式27)を都道府県に出せば猶予が続きます。経営悪化などが理由の場合は認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けた旨の記載が必要です。人手不足で従業員数が読めない業種ほど、この差は重く効きます。
損しないための3つのポイント
- 計画は「後継者が決まりきっていなくても」出せる。特例承継計画は後継者の氏名と承継の予定時期、承継後5年間の事業計画を書く書類で、確認を受けたあとに内容が変わったときは変更申請書を出して再確認を受けられます。迷っている段階で先に出しておくほうが選択肢は広がります。
- 認定支援機関の予約から逆算する。計画には認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けた旨を書く必要があります。顧問税理士が認定支援機関でない場合は探すところから始まるため、締切直前は窓口が混みます。
- 「計画を出す=必ず使う」ではない。確認を受けたあとに使わない選択もできます(確認取消申請書の様式があります)。出しておくコストと、出さずに選択肢を失うコストを比べてください。
いつ、何をするのか(逆算スケジュール)
中小企業庁が示す手続きの流れは、大きく「計画の確認まで」「認定まで」「認定後の報告」の3段階です。ここでは令和9年12月31日の実行期限から逆算した形で並べ直します。
図2|実行期限から逆算した進め方
- STEP 1
認定経営革新等支援機関を決める
顧問税理士・会計士・金融機関・商工会議所などが該当します。中小企業庁の認定支援機関検索システムで地域から探せます。 - STEP 2
自社株の評価と株主構成を洗い出す
誰が何株持っているか、名義株がないかを確認します。ここで想定外の少数株主が見つかることが実務では最も多いつまずきです。 - STEP 3
特例承継計画(様式21)を作って都道府県へ提出する
後継者の氏名、承継の予定時期、承継時までの経営見通し、承継後5年間の事業計画を記載し、認定支援機関の指導・助言を受けた旨を書きます。期限は令和9年9月30日。 - STEP 4
贈与または相続を実行する
令和9年12月31日まで。株式の贈与契約、株主名簿の書換え、代表者の交代などを行います。 - STEP 5
都道府県知事の認定を申請する
贈与の場合と相続・遺贈の場合で要件も様式も異なります。申請窓口は主たる事務所のある都道府県庁です。 - STEP 6
認定書の写しを添えて贈与税・相続税を申告する
納税猶予を受けるには申告と担保提供が必要です。 - STEP 7
認定後は年1回の報告を5年間続ける
都道府県庁へ年次報告書、税務署へ継続届出書をいずれも年1回。申告後6年目以降は税務署への継続届出書を3年に1度に切り替わります。
出典:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」手続きの全体フロー(2026年9月17日時点)
この7段階のうち、期限に縛られるのはSTEP3(令和9年9月30日)とSTEP4(令和9年12月31日)だけです。STEP1とSTEP2は今日から始められます。逆にいえば、STEP2で株主構成の問題が見つかった場合、その解決に半年から1年かかることもあるため、実質のスタートラインは2026年のうちと考えるのが現実的です。
自社はどのパターンか
表2|状況別・いま取るべき動き
| いまの状況 | 取れる選択肢 | 注意点 |
|---|---|---|
| 後継者が決まっていて、数年内に渡したい | 特例措置が最有力。計画を早めに出し、令和9年中の贈与を目指す | 贈与後5年間は後継者が代表者であり続ける必要がある |
| 後継者候補はいるが本人の意思が固まっていない | 計画だけ先に出して確認を受けておく | 内容が変わったら変更申請書で再確認を受けられる |
| 後継者が親族外の役員・従業員 | 特例措置は親族外も対象。むしろ特例のほうが射程が広い | 後継者側に株式の買取資金がなくても贈与で対応できる場合がある |
| 承継の時期がまったく読めない | 一般措置を前提に置く。期限がないので慌てなくてよい | 対象は3分の2まで・相続は猶予80%。雇用8割維持が必須になる |
| 親族にも社内にも承継者がいない | 第三者への譲渡(M&A支援機関の活用)を並行して検討する | 登録制度で支援機関を確認できる |
| 法人ではなく個人事業 | 個人版事業承継税制。計画は令和10年9月30日まで | 対象は事業用資産で、法人版とは要件が別建て |
2026年9月17日時点の公式情報にもとづく編集部整理。個別の可否は都道府県庁と税理士へご確認ください。
イレギュラー・現場でつまずくところ
制度の解説だけを読むと「計画を出して贈与すれば終わり」に見えますが、実務で問題になるのは認定を受けたあとです。認定後は都道府県庁へ年次報告書を、税務署へ継続届出書を、いずれも年1回、5年間出し続けます。そして6年目以降は税務署への継続届出書だけを3年に1度提出します。
事業承継の支援を行う専門家サイトで繰り返し指摘されているのが、この「3年に1度」への切り替わりが最も忘れられやすいという点です。毎年やっていた作業が急に3年おきになるため、担当者が代わったり顧問税理士を変えたりすると引き継ぎから抜け落ちます。中小企業庁のマニュアルにも認定の取消について独立した章(第4章)が設けられており、報告を怠った場合や虚偽の報告をした場合は取消の対象になります。取り消されれば猶予されていた贈与税・相続税を納めることになり、金額は当初の税額規模に戻ります。
もうひとつ現場で多いのが報告基準日の勘違いです。中小企業庁と国税庁の双方が「年次報告書・継続届出書の『報告基準日』について」という資料を別途公開しており、申告期限が延長されている場合は報告基準日も延長される、という注意書きが付いています。基準日を1か月ずらして計算していたために提出が遅れるケースがあるため、認定書を受け取った時点で自社の基準日をカレンダーに落としておくのが確実です。
災害への手当ても用意されています。中小企業庁は災害特例の申請マニュアルと様式(様式第20から第20の6、売上割合・雇用割合に係る報告書は様式第20の10)を公開しており、被災した場合には要件の緩和を受けられる仕組みがあります。「被災したから即取消」ではないことは知っておいて損がありません。
相場観と編集部の価値判断
この制度でよく言われるのは「税金がゼロになる」という言い方ですが、正確ではありません。事業承継税制は納税の猶予であって、免除されるのは後継者が死亡した場合など一定の事由が生じたときです。国税庁も「その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度」と書いています。つまり、猶予を受けた瞬間から数十年単位の管理義務を引き受けることになります。
編集部の判断としては、「猶予される税額」と「管理を続けるコスト」を並べて比べるべきだと考えます。目安として、一般措置と特例措置で猶予される割合の差は、相続の場合で総株式数の3分の2×80%と全株式×100%の差、つまりおおよそ倍近い開きになります。株式評価額が大きい会社ほど特例措置を選ぶ理由が強くなり(補助金と税金の関係とは別の論点です)、逆に株式評価額が小さく相続税の基礎控除内に収まりそうな会社では、毎年の報告義務を背負ってまで使う必要がない場合もあります。
また「期限が延びた」というニュースだけを見て安心するのは危険だと考えます。延びたのは計画の提出期限であって、贈与・相続の期限は令和9年12月31日で据え置きです。仮に令和9年9月に計画を出すと、株価算定から名義の整理、贈与契約、代表交代までを3か月で終える必要があります。実務のボトルネックは書類ではなく人と株主の合意なので、この3か月は現実的とは言いがたい。逆算して2026年度中に株主構成の整理まで終えておくのが、無理のない進め方だと考えます。
特例承継計画には何を書くのか
特例承継計画は様式21として中小企業庁のサイトに掲載されており、記載マニュアルと記載例も公開されています(記載マニュアルは2026年4月24日更新)。書く内容は大きく4つです。
- 後継者の氏名(最大3人まで記載できます)
- 事業承継の予定時期
- 承継の時までの経営見通し(現経営者が引き継ぐまでに何をするか)
- 承継後5年間の事業計画(年度ごとの取組内容)
そのうえで、認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けた旨を記載します。認定経営革新等支援機関は、専門知識や実務経験が一定レベル以上の者を国が認定する公的な支援機関で、商工会・商工会議所のほか金融機関、税理士、公認会計士、弁護士などが認定されています。中小企業庁の認定支援機関検索システムで地域から探せます。
分量としては数枚の書類で、公募型の補助金のように審査で落ちる性質のものではありません。ここで時間がかかるのは書類作成ではなく、「後継者を誰にするか」「いつ渡すか」を家族と役員の間で決めきることです。書類は決まったことを書き写す作業にすぎません。この順番を取り違えて「まず様式を埋めよう」と始めると、たいてい途中で止まります。
なお、令和7年4月1日より一部の様式が改正されています。中小企業庁は「申請等の手続の際は最新の様式をご利用ください」と注意書きを付けているので、手元に古いファイルを保存している場合は必ず取り直してください。押印については、令和2年12月28日の省令改正で様式の押印欄が削除され、原則として押印は求められなくなっています。
よくある質問
特例承継計画の提出期限はいつまでですか。
中小企業庁の法人版事業承継税制(特例措置)のページでは、平成30年4月1日から令和9年(2027年)9月30日までに特例承継計画を都道府県に提出するよう案内されています。2026年9月17日時点の記載です。最新の日付は必ず中小企業庁の公式ページと都道府県庁の窓口でご確認ください。
計画の期限が延びたのなら、贈与も後回しにして大丈夫ですか。
いいえ。延びたのは計画の提出期限だけで、贈与・相続そのものの期限は令和9年12月31日のまま据え置かれています。計画を令和9年9月に提出した場合、実行までの残りは約3か月です。株価の算定や株主の合意に時間がかかることを考えると、実行時期から逆算して動くことをおすすめします。
特例承継計画を出したら、必ず事業承継税制を使わなければいけませんか。
使わない選択もできます。中小企業庁は確認取消申請書の様式を用意しており、確認を受けたあとに計画の内容が変わった場合は変更申請書または報告書を提出して再確認を受けることもできます。迷っている段階でも先に提出しておくほうが、選択肢は広がります。
特例措置に間に合わなかったら、事業承継税制はもう使えませんか。
一般措置が残ります。一般措置には期限がなく、事前の計画提出も不要です。ただし納税猶予の対象は総株式数の3分の2までで、相続の場合の猶予割合は80%です。雇用の8割維持も原則として必須になります。
後継者は何人まで指定できますか。
特例措置では、親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者(最大3人)への贈与・相続が対象になります。一般措置は複数の株主から後継者1人への承継が対象です。
従業員が減って8割を割り込んだら、猶予は打ち切られますか。
特例措置では、雇用が8割を下回っても認定取消・納税とはならず、その理由を都道府県に報告することになっています。報告に際しては認定経営革新等支援機関が理由について所見を記載し、経営悪化などが理由の場合は経営改善のための指導・助言を行う必要があります。一般措置は原則として取消の対象です。
認定を受けたあと、毎年どんな手続きが必要ですか。
都道府県庁へ年次報告書を、税務署へ継続届出書を、いずれも年1回提出します。これを税務申告後5年間繰り返し、6年目以降は税務署にのみ継続届出書を3年に1度提出します。報告を怠ると認定が取り消される可能性があります。
個人事業主でも使えますか。
個人版事業承継税制があります。中小企業庁の案内では、平成31年4月1日から令和10年(2028年)9月30日までに個人事業承継計画を提出する必要があり、国税庁は対象となる贈与・相続の期間を平成31年1月1日から令和10年12月31日までとしています。法人版とは要件も様式も別建てです。
認定支援機関を探すところから始める
特例承継計画には認定経営革新等支援機関の指導・助言が要ります。顧問税理士が認定支援機関かどうかは、中小企業庁の認定支援機関検索システムで確認できます。制度の窓口は主たる事務所のある都道府県庁です。事業者向けの支援策全体は補助金・助成金 完全ガイドにまとめています。
出典と基準日
- 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」(特例承継計画の提出期限:令和9年9月30日まで/手続きの全体フロー/様式21・様式27・認定支援機関)
- 中小企業庁「事業承継税制(一般措置)の前提となる認定」(2026年7月10日更新/様式7・様式8・様式11ほか/災害特例マニュアル)
- 中小企業庁「個人版事業承継税制の前提となる認定」(2026年7月10日更新/個人事業承継計画の提出期限:令和10年9月30日まで)
- 国税庁「法人版事業承継税制」(特例措置による総株式数3分の2までの制限撤廃と猶予割合80%から100%への引上げ/継続届出手続)
- 国税庁「事業承継税制特集」(法人版の特例措置は平成30年1月1日から令和9年12月31日まで、個人版は平成31年1月1日から令和10年12月31日まで)
本記事の内容は2026年9月17日時点で公開されている上記の公式情報にもとづく編集部の整理です。税制は改正されることがあり、要件の判定には個別事情が大きく影響します。実際の適用可否は都道府県庁の窓口と税理士にご確認ください。当サイトは税務の個別判断を行うものではありません。
承継のあとに残る「モノ」の実務も先に押さえる
税務の段取りが固まっても、実家や社宅の片づけ、相続財産の整理といった実務はあとから必ず出てきます。費用の目安と業者選びの判断基準は次の2本に整理しています。
