65歳を過ぎて会社を辞めると、雇用保険からもらえるのは「失業手当」ではなく高年齢求職者給付金という別の給付になります。名前が違うだけでなく、支給のかたちが根本的に違います。28日ごとに認定を受けて分割で受け取る基本手当と違い、こちらは一時金で一括。しかも年金を止めずに受け取れる一方で、離職日の翌日から1年という受給期限を過ぎた分は消えるという厳しい仕組みも抱えています。この記事では厚生労働省・ハローワークの資料と雇用保険法の条文をもとに、金額・期限・手続きを整理します(2026年8月23日時点、令和8年8月1日改定の日額に対応)。
この記事の結論
- 65歳以上で離職した人の失業給付は高年齢求職者給付金。被保険者であった期間が1年以上なら50日分、1年未満なら30日分の一時金。
- 令和8年8月1日からの基本手当日額の上限は、この給付では7,450円。50日分なら最大372,500円、30日分なら最大223,500円。
- 老齢厚生年金は止まらない。年金が全額支給停止になるのは「65歳になるまでの老齢年金」と基本手当の組み合わせで、65歳以降のこの給付は対象外。
- 受給期限は離職日の翌日から1年。延長制度はない。手続きが遅れると、認定日から期限までの残り日数分しか出ない。
- 待期7日に加え、自己都合退職なら給付制限1か月(令和7年4月1日以降の離職で5年に2回まで。それ以降は3か月)。
65歳を境に、失業給付は「分割」から「一時金」に変わる
雇用保険では、65歳以上で雇われている人を高年齢被保険者と呼びます。この人が離職して失業の状態にあると、基本手当ではなく高年齢求職者給付金が支給されます。制度としての性格は「失業中の生活を支える継続的な給付」から「再就職までのつなぎの一時金」へ切り替わる、と考えるとわかりやすいはずです。
基本手当と高年齢求職者給付金の違い
| 比べる点 | 基本手当(65歳未満で離職) | 高年齢求職者給付金(65歳以上で離職) |
|---|---|---|
| 支給のかたち | 認定日ごとに分割 | 一時金で一括 |
| 支給日数 | 所定給付日数90日〜360日 | 30日分または50日分 |
| 必要な被保険者期間 | 原則、離職前2年間に12か月以上 | 離職前1年間に6か月以上 |
| 日額の上限(令和8年8月1日〜) | 60歳以上65歳未満は7,830円 | 7,450円(30歳未満の上限を適用) |
| 年金との関係 | 65歳前の老齢年金は全額支給停止 | 年金は止まらない |
| 受給期間の延長 | 病気などで最大4年まで延長できる | 延長制度はない |
出典:ハローワークインターネットサービス「基本手当について」/厚生労働省リーフレット「高年齢求職者給付金のご案内」/長野労働局「高年齢求職者給付金を受けようとする方へ」
受け取るための条件は2つだけです。離職の日以前1年間に被保険者期間が通算6か月以上あること、そして失業の状態にあること。被保険者期間は、離職日から1か月ごとに区切った期間のうち賃金支払基礎日数が11日以上ある月を1か月と数えます。11日以上の月が6か月に届かない場合は、賃金の支払の基礎となった時間数が80時間以上の月を1か月として数え直します。
いくらもらえるか——50日分の上限は372,500円
支給額は「基本手当の日額 × 30日または50日」です。日数は算定基礎期間(被保険者として雇用された期間)が1年以上なら50日、1年未満なら30日。基本手当の日額は離職前6か月の賃金をもとに計算した賃金日額の50〜80%で、賃金水準が低いほど給付率が高くなります。
見落とされがちなのが上限の取り方です。雇用保険法第37条の4第2項は、高年齢受給資格者の賃金日額が「30歳未満の受給資格者」に定められた上限額を超えるときはその額を賃金日額とする、と定めています。令和8年8月1日からの30歳未満の賃金日額上限は14,900円、基本手当日額の上限は7,450円です。つまり現役時代にいくら高い給与をもらっていても、日額は7,450円で頭打ちになります。
受け取れる一時金の幅(令和8年8月1日からの日額で試算)
日額の上限7,450円・下限2,562円で計算した編集部の試算
日額の下限は令和8年8月1日から2,562円に引き上げられました。地域別最低賃金の全国加重平均額1,121円をもとに計算されたもので、前年の2,411円から151円の引き上げです。週20時間程度の短時間勤務で65歳以降も働いていた人は、この下限に近い水準になることが多くなります。
年金は止まらない。これが65歳前との決定的な違い
65歳前に基本手当を受け取ると、日本年金機構の説明どおりハローワークで求職の申込みをした日の属する月の翌月から、受給期間が経過した月まで年金が全額支給停止になります。ただしこの調整の対象は、機構のページに明記されているとおり「特別支給の老齢厚生年金などの65歳になるまでの老齢年金」です。65歳以降に受け取る老齢厚生年金・老齢基礎年金はこの調整の対象として挙げられていません。
結果として、高年齢求職者給付金は年金を受け取りながら、まるごと上乗せで受け取れるお金になります。65歳の直前に辞めるか直後に辞めるかで悩む人がいますが、この点は65歳以降の離職が有利に働くポイントです。なお、厚生年金保険に加入して働き続ける場合の在職老齢年金による支給停止は別の話ですので、混同しないでください。
「65歳の壁」——1日早く辞めると総額はどう変わるか
ネット上でよく見かける「65歳になる前に辞めたほうが得」という話の中身は、給付日数の差です。65歳未満で離職すれば基本手当の対象になり、所定給付日数は90日〜360日の範囲で決まります。50日分で頭打ちの高年齢求職者給付金より、総額が大きくなるのが普通です。ただし、そのぶん年金が止まる可能性があり、単純にどちらが得とは言えません。
65歳を挟んだ離職の分かれ道(編集部作成)
雇用保険では、誕生日の前日に年齢が1つ上がる扱いになります
損しないための3つのポイント
- 「65歳前に辞めたほうが得」を鵜呑みにしない。自分に特別支給の老齢厚生年金があるかどうかで結論が変わる。対象になる生年月日は年々狭まっており、そもそも止まる年金がない人も増えている。まず自分の受給開始年齢を確認する。
- 離職票が届いたらその週のうちにハローワークへ行く。受給期限は離職日の翌日から1年で、延長制度がない。認定日から期限までの残り日数が支給日数に足りなければ、足りない分は支給されない。
- 「しばらく休んでから探す」は失業の状態にあたらない。長野労働局の案内でも「定年退職後しばらくの間休養するとき」は失業の状態ではないと明示されている。求職の意思と能力があることが前提。
受給期限1年のカウントと、手続きの流れ
厚生労働省のリーフレットには、支給日数50日分の資格があっても失業の認定日から受給期限までが15日しか残っていなければ15日分しか出ないという図が載っています。残りの35日分は「受給期限を過ぎた分」として消えます。1年という期限は長そうに見えますが、待期7日と給付制限1か月を差し引き、離職票の交付を待つ時間も加えると、のんびり構えていられる余裕はありません。
離職から入金までのタイムライン
- 離職(この日の翌日から受給期限1年のカウントが始まる):会社に離職票の発行を依頼する。手元に届くまで通常2週間前後かかる。
- ハローワークで求職の申込みと離職票の提出:住所を管轄するハローワークで手続きする。この日が受給資格決定日になる。
- 待期7日:失業の状態にあった日が通算7日経過するまでは支給されない。
- 給付制限(自己都合退職の場合のみ):令和7年4月1日以降の離職で、正当な理由のない自己都合退職なら5年間のうち2回までは1か月。それ以降は3か月。重大な自己責任による解雇は3か月。
- 失業の認定日に来所:指定された日にハローワークへ行き、失業の状態にあることの確認を受ける。
- 指定口座へ一括振込:認定日のおおむね7日後に、本人名義の普通預貯金口座へ振り込まれる。
ハローワークへ持っていくもの
- 離職票-1、離職票-2
- マイナンバーカード(ない場合は、個人番号確認書類1種類と身元確認書類)
- 写真1枚(正面上三分身・タテ3.0cm×ヨコ2.4cm)※マイナンバーカードを提示すれば省略できる
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
雇用保険の手続き窓口は平日8時30分〜17時15分。受給資格決定と求職の申込みで時間がかかるため、16時前の来所が推奨されています。
イレギュラー・現場でつまずくところ
支給されないと判断されやすい4つのケース
- 家業や家事に専念する、次の就職が決まっている。就職する意思・能力がないと判断され、その状態が続く限り支給されません。自営を開始または自営準備に専念する場合も同様です(求職活動中に創業の準備・検討を行う場合は支給できることがあります)。
- 会社の役員に就任している。就任の予定や名義だけの役員も含まれます。退職後に知人の会社の監査役に名前を貸した、といったケースが実際につまずきどころになります。
- 週20時間未満のアルバイトを続けている。週の労働時間が20時間未満なら支給を受けられる場合がありますが、申告は必須です。申告漏れは不正受給として扱われます。
- 病気で当面働けない。基本手当には受給期間を最大4年まで延長する制度がありますが、高年齢求職者給付金には受給期間の延長制度がありません。療養が長引くと、そのまま1年の期限が来ます。
もうひとつ、離職票の提出が遅れたときの取り扱いには続きがあります。受給期限内に給付金を受け取らないまま就職し、その後また失業した場合は、期限内であれば同じ高年齢受給資格に基づいて請求できます。一度求職の申込みをしただけで権利が消えるわけではありません(雇用保険法第37条の3第2項)。ただし期限そのものは動きません。
相場観と編集部の価値判断
実際に振り込まれる金額の相場観としては、65歳以降もフルタイムに近い形で働いていた人なら50日分で30万円台後半、週20〜30時間の勤務なら15万〜25万円あたりに収まることが多くなります。日額の上限が7,450円で頭打ちである以上、上振れの余地はありません。老後資金の柱にはならず、次の仕事が決まるまでの数か月をつなぐお金と位置づけるのが実態に合っています。
編集部として強調したいのは、金額の大きさよりも手続きのスピードが受取額を直接決めるという点です。基本手当なら受給期間の延長で救済される場面でも、この給付には延長がありません。離職票が届いたら、体調が許すかぎりその週のうちにハローワークへ行く。それだけで数万円から十数万円の差がつきます。なお、65歳前後の退職時期の選択は年金・健康保険・退職金の税金まで絡む複合的な判断になりますので、金額の試算は年金事務所とハローワークの両方で確認することをおすすめします。
よくある質問
高年齢求職者給付金は年金と同時に受け取れますか?
受け取れます。日本年金機構が説明する年金と失業給付の調整は「特別支給の老齢厚生年金などの65歳になるまでの老齢年金」と基本手当の組み合わせが対象で、65歳以降に受け取る老齢厚生年金・老齢基礎年金は対象として挙げられていません。65歳以上で離職して受け取る高年齢求職者給付金は、年金を止めずにそのまま上乗せで受け取れます。ただし厚生年金保険に加入して働き続ける場合の在職老齢年金による調整は別途あります。
いくらもらえますか?
被保険者であった期間が1年以上なら基本手当日額の50日分、1年未満なら30日分です。令和8年8月1日からの日額の上限は7,450円なので、50日分の上限は372,500円、30日分の上限は223,500円になります。日額の下限は2,562円で、50日分なら128,100円です。実際の日額は離職前6か月の賃金をもとに、賃金日額の50〜80%で計算されます。
なぜ日額の上限が30歳未満と同じなのですか?
雇用保険法第37条の4第2項が、高年齢受給資格者の賃金日額が同法第17条第4項第2号ニ(30歳未満の受給資格者に定められた額)を超えるときは、その額を賃金日額とすると定めているためです。令和8年8月1日からの30歳未満の賃金日額の上限は14,900円で、これに給付率50%を掛けた7,450円が基本手当日額の上限になります。60歳以上65歳未満で離職した場合の上限7,830円より380円低い水準です。
手続きが遅れるとどうなりますか?
受給期限は離職の日の翌日から1年で、基本手当のような受給期間の延長制度はありません。失業の認定日から受給期限までの日数が支給日数(30日または50日)に満たない場合は、その残り日数分しか支給されません。厚生労働省のリーフレットでも、残り15日なら15日分しか出ず、残る35日分は支給されないと図示されています。離職票が届いたらすぐに手続きしてください。
自己都合で辞めた場合も待たされますか?
待期7日に加えて給付制限がかかります。令和7年4月1日以降に離職した方で、正当な理由がなく自己の都合で退職した場合は、5年間のうち2回までは給付制限期間が1か月、それ以降は3か月です。令和7年3月31日以前の自己都合退職は2か月でした。自己の責めに帰すべき重大な理由により解雇されたときは3か月です。この期間が経過した後の認定日に失業の状態が確認されて初めて支給されます。
あなたの体験を聞かせてください
この手続きで「実際はこうだった」「ここでつまずいた」という経験があれば、体験談募集フォームから教えてください。許諾をいただいたものだけ、出所を明示して記事に反映します。
出典・参考
- 厚生労働省・ハローワーク「離職されたみなさまへ<高年齢求職者給付金のご案内>」(受給要件・支給日数・待期・給付制限・受給期限の図)
- 長野労働局・ハローワーク「雇用保険の高年齢求職者給付金を受けようとする方へ」(令和7年10月版/失業の状態・受給期間の延長制度がないこと・給付制限)
- 厚生労働省「雇用保険の基本手当日額の変更~8月1日(土)から実施~」(令和8年7月31日報道発表/日額の上限・下限、賃金日額の上限)
- 厚生労働省「令和8年8月1日からの基本手当日額等の適用について」
- e-Gov法令検索「雇用保険法」第37条の3・第37条の4(支給日数・賃金日額の上限・受給期限)
- ハローワークインターネットサービス「基本手当について」(所定給付日数90日〜360日・日額の上限額)
- 日本年金機構「年金と雇用保険の失業給付との調整」(2024年9月30日更新)
あわせて読みたい
- 失業給付(基本手当)のもらい方【2026年版】自己都合・会社都合の違い・給付日数
- 特別支給の老齢厚生年金【2026年版】対象の生年月日と請求手順・止まる3つの場面
- 在職老齢年金が2026年4月に改正【令和8年度】基準額51万円→65万円
- 退職後の健康保険3択の選び方【2026年版】任意継続・国保・扶養はどれが得?
- 退職後の住民税と保険料の減免【2026年版】国民年金は失業特例で所得を問わず免除
- 再就職手当のもらい方【2026年版】残日数3分の2以上で70%
- 退職・年金の手続きガイド【2026年版】
読み終えたら、次に手を動かすこと
一時金は一度だけの受け取りです。毎月出ていく固定費と、時間に余裕があるうちにしか進まない片づけを先に手当てすると、受け取ったお金が長く毋きます。
- 電気・ガスの乗り換えガイド切替は最短4日で、工事も立ち会いも原則不要です。退職後は在宅時間が伸びて使用量が変わるため、プランの見直しが効きます。
- 生前整理・実家の片づけの進め方何から手をつけるかと、家族と先に決めておくことを順番で整理しています。費用の目安と業者の選び方も含みます。
