結論の要点|数字の読み方が変わります
- 結論:親族が成年後見人等になることはできます。法律上、親族に特別な資格要件はありません。
- よく引かれる数字:令和7年に成年後見人等に選ばれたうち親族は16.4%、親族以外が83.6%。ここだけを見ると「親族はほぼ選ばれない」と読めます。
- しかし分母が違う:申立書に親族の候補者が記載されていた事件は全体の約19.7%で、残り80.3%は最初から親族候補者を立てていません。「親族が希望したのに落とされた」事件が8割あるわけではありません。
- 親族の内訳:子52.0%、その他親族18.9%、兄弟姉妹15.0%、配偶者7.5%、親6.6%。実際に選ばれる親族の半分は子です。
- 監督人:後見監督人等が付いたのは認容事件の3.4%。「親族が後見人になると必ず監督人が付く」わけではありません。
- 期間と費用:申立てから2か月以内に71.1%、4か月以内に93.8%が終局。鑑定が実施されたのは3.4%だけで、実施された場合も費用は10万円以下が85.8%です。
「親族は成年後見人になれない」という説明を目にして、申立てをためらう家族は少なくありません。根拠として挙げられるのが「親族の選任は16.4%」という数字です。ただしこの数字は、親族が希望して落とされた割合ではありません。最高裁判所が公表した令和7年の統計を分母から読み直すと、見え方が変わります。
16.4%という数字の読み方
最高裁判所事務総局家庭局の「成年後見関係事件の概況」によれば、令和7年に成年後見人等に選任された関係別件数42,732件のうち、親族は7,014件(16.4%)、親族以外が35,718件(83.6%)でした。前年(17.1%)からわずかに下がっています。
同じ資料には、もう一つの数字が併記されています。認容で終局した後見・保佐・補助の各審判事件のうち、申立書に親族が候補者として記載されていた事件の割合は約19.7%。裏を返せば、80.3%の事件では最初から親族候補者が立てられていないということです。
つまり16.4%の分母には、親族が後見人になることをそもそも希望していない事件が大量に含まれています。申立人の内訳を見ると、本人自身が24.8%、市区町村長が23.7%(10,139件)を占めており、身寄りがない、あるいは親族が関与しない事件が相当数あることが分かります。
数字の扱いについて
親族選任7,014件と、親族候補者が記載された事件の割合19.7%は、統計上の集計単位が異なります(前者は1件の事件に複数の後見人がいる場合に複数計上される「関係別件数」、後者は事件数ベース)。そのため両者を単純に割り算して「親族候補者を立てれば◯割通る」と断定することはできません。ここで言えるのは、16.4%という数字を「親族の申請が通らない確率」として読むのは誤りである、という一点です。
選ばれる親族は誰か
成年後見人等に選ばれた親族の内訳(令和7年・関係別件数7,014件)
出典:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和7年1月〜12月―」
選ばれた親族の半分以上が子です。配偶者が7.5%と少ないのは、本人が80歳以上である割合が男性34.5%・女性63.1%と高く、配偶者自身も高齢であることが影響していると考えられます。
親族を候補者にして申し立てる流れ
親族を候補者にして申し立てる場合の流れ
損しないポイント
損しないポイント|あとから取り返しがつかない4点
- 候補者欄を空欄にしない。書かなければ、家庭裁判所が第三者を選ぶ前提で進みます。全体の80.3%は親族候補者が記載されておらず、この数字が「親族は選ばれない」という印象を生んでいます。
- 一度選任された後見人は、原則として家族の都合では交代できない。「思ったより報酬が高かった」「相性が合わない」は解任事由になりません。誰を候補者にするかは、申立て前に決着させるべき論点です。
- 本人の判断能力があるうちなら、選択肢が広い。任意後見契約なら本人が後見人を指定できます。令和7年の任意後見監督人選任の申立ては881件と、法定後見に比べて桁違いに少ないのが実情です。判断能力が落ちてからでは、この選択肢は使えません。
- 制度は本人が亡くなるまで続くのが基本。「不動産を売るためだけに」「相続手続のためだけに」始めても、目的が済んだら終わりにできる制度ではありません。申立ての動機として不動産の処分は36.3%、相続手続は25.6%を占めますが、その先に続く年1回の報告まで見込んで判断してください。
あなたの場合はこう|状況別の見通し
兄弟姉妹がいて、全員が同意している
親族後見が通りやすい典型です。家庭裁判所の調査では他の親族の意向が確認されるため、申立て前に同意書を揃えておくと調査がスムーズです。実際に選ばれる親族の52.0%は子で、兄弟姉妹も15.0%を占めます。
兄弟姉妹の間で意見が割れている
親族以外が選ばれる可能性が高くなります。親族間に対立があると、後見人が一方に偏るリスクを家庭裁判所が避けるためです。この場合、司法書士・弁護士・社会福祉士といった専門職が選ばれることになります(親族以外の内訳は司法書士33.5%、弁護士24.9%、社会福祉士20.4%)。
本人の財産が多い(不動産や多額の預貯金がある)
財産額が大きいほど、専門職の選任や後見監督人の付加が検討されやすくなります。ただし後見監督人等が付いたのは認容事件の3.4%(1,375件)にとどまり、付いた場合の内訳は弁護士52.8%、司法書士34.5%です。「財産があれば必ず監督人が付く」という理解は実態と合いません。
申立て自体を誰がするか決まっていない
申立人は本人が24.8%と最多で、次いで市区町村長23.7%(10,139件)、子18.5%です。身寄りがない・親族が動けない場合は、市区町村長申立てという道があります。管内別に見ると青森45.0%、徳島43.4%、釧路38.8%と、地域によって市区町村長申立ての割合は大きく異なります。まずは本人の住所地の地域包括支援センターに相談するのが実務上の入口です。
やりたいのは預貯金の管理だけ
申立ての動機で最も多いのが預貯金等の管理・解約で93.4%を占めます。ただし成年後見は財産管理の全体を引き受ける制度で、「口座だけ」という限定はできません。日常的な金銭管理にとどまるなら、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業など、より軽い仕組みが選択肢になる場合があります。
現場で起きること|申立ての前に知っておきたいこと
診断書が最初の関門になる。家庭裁判所所定の様式に、かかりつけ医が記入します。認知症の診断がついていても「後見相当か保佐相当か補助相当か」の判断は医師が行い、ここで想定と違う区分になることがあります。令和7年の申立件数は後見開始29,233件に対し、保佐開始9,743件、補助開始3,302件で、保佐は前年比6.4%増、補助は9.1%増と、軽い類型が伸びています。
親族への意向照会が予想外の波紋を呼ぶことがある。家庭裁判所から他の親族へ照会書が届くため、「親の財産の話をしている」ことが一斉に知られます。事前に説明していないと、そこから話がこじれるという声はよく聞かれます。体験談として多く語られるのは、「申立てより、親族への根回しのほうが時間がかかった」という順序の話です。これは編集部が公的統計で裏取りできる事柄ではありませんが、審理期間の71.1%が2か月以内で終わっていることを考えると、家庭裁判所の手続そのものより準備段階が長いという構図には整合します。
就任後の報告が続くことを、申立て時点で家族が理解していない。財産目録と収支予定表の提出、その後の定期報告は後見人本人の義務です。仕事をしながら親の通帳を管理し、領収書を保管し、年1回まとめる作業が本人が亡くなるまで続きます。親族後見の負担は「選ばれるかどうか」ではなく「選ばれた後」に集中します。
編集部の価値判断|親族後見を目指すべきか
専門職に頼めば報酬が発生し、親族が担えば報酬をゼロにできる——という比較で語られがちですが、これは費用だけを見た比較です。判断材料として、別の軸を置いておきます。
親族後見が向いている
財産の内容が単純(預貯金と年金が中心)、相続人が少なく対立がない、後見人になる人が本人の近くに住んでいて通帳と領収書の管理を続けられる。この3条件が揃うなら、親族が担う実務的な合理性は高い。
専門職に任せたほうがよい
不動産の売却や遺産分割が絡む、相続人の間に意見の相違がある、後見人候補が遠方に住んでいる、本人以外にも介護が必要な家族がいる。報酬を払ってでも「家族の関係を後見人の役割から切り離す」ことに価値がある、という考え方は十分に成り立ちます。
判断軸:費用を比べる前に「この作業を10年続けられるか」を考える。成年後見は原則として本人が亡くなるまで続き、令和7年12月末時点の利用者は259,901人。始めるのは数か月ですが、終わるのはずっと先です。
よくある質問
親族は成年後見人になれますか?
なれます。親族に特別な資格要件はなく、令和7年に成年後見人等に選ばれた7,014件が親族です。全体に占める割合は16.4%ですが、申立書に親族の候補者が記載されていた事件は全体の約19.7%にとどまるため、この16.4%という数字は「親族が希望しても選ばれない割合」を示すものではありません。
親族のうち誰が選ばれやすいですか?
令和7年に選ばれた親族の内訳は、子が52.0%(3,647件)と最も多く、次いでその他親族18.9%、兄弟姉妹15.0%、配偶者7.5%、親6.6%です。
親族が後見人になると監督人が付きますか?
必ず付くわけではありません。令和7年に認容で終局した後見開始・保佐開始・補助開始事件39,860件のうち、後見監督人等が同時に選任されたのは1,375件で全体の3.4%です。選任された場合の内訳は弁護士52.8%、司法書士34.5%、社会福祉協議会8.8%となっています。
申立てから決まるまでどのくらいかかりますか?
令和7年の終局事件42,674件のうち、2か月以内に終局したものが71.1%、4か月以内が93.8%です。1か月以内も37.9%あります。ただしこれは家庭裁判所に申し立ててからの期間で、診断書の取得や財産の洗い出しといった準備期間は含まれません。
鑑定は必ず必要で、費用はいくらかかりますか?
鑑定が実施されたのは終局事件全体の3.4%です。実施された場合の費用は、5万円以下が43.7%、5万円超10万円以下が42.1%で、10万円以下が全体の85.8%を占めます。
親族が後見人になれなかった場合、誰が選ばれますか?
親族以外が選任された35,718件の内訳は、司法書士33.5%(11,966件)、弁護士24.9%(8,903件)、社会福祉士20.4%(7,280件)、その他法人8.2%、行政書士6.3%、社会福祉協議会4.5%、市民後見人1.1%(390件)です。
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出典・基準日
本記事の統計は2026年3月公表の最新版にもとづき、記事の基準日は2026年8月2日です。数値は概数であり、今後の集計整理により訂正が生じることがあります。
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和7年1月〜12月―」(2026年3月) 裁判所ウェブサイト
- 裁判所「後見ポータルサイト」 https://www.courts.go.jp/saiban/koukenp00/index.html
本記事は制度と統計の解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際の申立てにあたっては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所または地域包括支援センターにご相談ください。
