親の介護が始まって最初に受け取る紙が、ケアプラン(居宅サービス計画書)です。ケアマネジャーから「ここに署名をお願いします」と差し出され、数字と専門用語がぎっしり並んだ表を前に、内容をよく読まないまま印鑑を押してしまう。実際、家族からいちばん多く聞くのが「あの紙、何が書いてあるのか分からなかった」という声です。
ケアプランは、介護保険で受けるサービスの設計図であると同時に、あなたの家族の生活方針を言葉にした文書です。作成にかかる費用は利用者負担0円(全額が介護保険から給付)で、内容に納得できなければ何度でも変更を申し出られます。この記事では2026年9月2日時点の公的な様式と通知をもとに、第1表から第7表までのどこを見ればよいか、そして「思っていたのと違う」と感じたときにどう伝えれば直るのかを整理します。
この記事の結論
- 作成費用は0円。居宅介護支援は介護保険から全額給付され、利用者の自己負担はありません(2026年9月時点)。
- いちばん大事なのは第2表。ここに書かれた「生活全般の解決すべき課題(ニーズ)」がずれていると、どれだけサービスを足しても生活は変わりません。
- 変更はいつでも申し出られる。ケアマネジャーへの連絡→担当者会議→差し替えが基本ルートで、回数の制限も追加費用もありません。
- 署名の前に3か所だけ読む。第1表の「意向」、第2表の「目標」、第7表の「区分支給限度基準額の合計」。この3つが合っていれば大きな事故は起きません。
ケアプランは誰が作り、いくらかかるのか
在宅で介護保険サービスを使うとき、ケアプランを作るのは居宅介護支援事業所のケアマネジャー(介護支援専門員)です。要支援1・2の人は地域包括支援センターが担当し、こちらは「介護予防サービス・支援計画表」という別の様式になります。
費用について誤解されやすいのですが、居宅介護支援(ケアプランの作成とその後の管理)は、介護保険から10割が給付されます。デイサービスや訪問介護のように1〜3割を払う必要はありません。毎月の請求書にケアマネジャーへの支払いが載っていないのはそのためです。
「ケアプランの有料化」という話を耳にした人もいるかもしれません。これは2027年度の介護保険制度見直しに向けて社会保障審議会で議論されているテーマで、2026年9月時点では在宅のケアプラン作成に自己負担は導入されていません。将来の制度改正で変わる可能性はありますが、いま目の前のプランに費用を請求されることはない、と考えて差し支えありません。もし作成料を請求されたら、それは介護保険の枠外のサービスです。市区町村の介護保険担当窓口に確認してください。
ここを間違えると損をします
ケアマネジャーは「事業所を紹介してくれる人」ではなく、あなたの家族の生活を設計する人です。担当者が合わないと感じたら、事業所に担当変更を、事業所ごと変えたければ市区町村に相談できます。どちらも利用者の権利で、手数料はかかりません。「お世話になっているから言いにくい」と我慢した結果、合わないプランを1年続けてしまう家族が少なくありません。
第1表〜第7表:どこに何が書いてあるか
居宅サービス計画書には国が示した標準様式があります(介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について・老企第29号)。第1表から第7表までの7枚組で、事業所によって見た目は違っても中身の順番は共通です。家族が全部を読み込む必要はありません。役割を知って、見るべき2〜3枚に絞るのが現実的です。
| 様式 | 正式な名前 | 家族が見るときの読みどころ |
|---|---|---|
| 第1表 | 居宅サービス計画書(1) | 最重要。本人と家族の「意向」と、総合的な援助の方針。ここが他人事の文章なら作り直しの合図。 |
| 第2表 | 居宅サービス計画書(2) | 最重要。解決すべき課題(ニーズ)・長期目標・短期目標・サービス内容。生活が変わるかはこの表で決まる。 |
| 第3表 | 週間サービス計画表 | 1週間の時間割。家族の出勤日・通院日と衝突していないかを目で確かめる。 |
| 第4表 | サービス担当者会議の要点 | 会議で誰が何を言ったかの記録。「検討した内容」欄に家族の発言が残っているか。 |
| 第5表 | 居宅介護支援経過 | ケアマネジャーの業務日誌。トラブル時に事実関係を確かめる材料になる。 |
| 第6表 | サービス利用票 | 月ごとのカレンダー。実際に何日サービスが入るかがここで分かる。 |
| 第7表 | サービス利用票別表 | お金の表。単位数の合計と区分支給限度基準額、自己負担の見込み額が並ぶ。 |
出典:厚生労働省「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」(老企第29号)/2026年9月2日時点
7枚のうち、家族が読むべきなのは第1表・第2表・第7表の3枚です。第3表と第6表は日程の確認、第4表と第5表は記録なので、平時は目を通す程度で構いません。逆にいえば、この3枚さえ押さえておけば「知らないうちに決まっていた」という事態は避けられます。
ケアプランができるまでの流れ
ケアプランは、ケアマネジャーが一人で書いて持ってくる書類ではありません。制度上は、アセスメント(課題分析)→原案→サービス担当者会議→同意→交付、という手順を踏むことが決まっています。家族が発言できる場所がどこにあるかを知っておくと、後から「言えばよかった」と悔やまずに済みます。
作成から交付までの流れ
要介護認定を受ける/認定結果が出ていないとプランは動き出しません(申請中でも暫定プランで開始できます)。
アセスメント(自宅訪問)/課題分析標準項目は令和5年の改定で基本情報9項目+課題分析14項目の計23項目になり、「生活リズム」が加わりました。1〜2時間の聞き取りです。
原案の作成/第1表・第2表・第3表がここで形になります。この段階で見せてもらうのがコツです。
サービス担当者会議/事業所の担当者が集まります。家族が意見を言える公式の場はここ。欠席せず、言いたいことは紙に書いて持参します。
説明・同意・交付/利用者の同意(署名)を得て、本人と各事業所に交付されます。控えは必ず手元に置きます。
モニタリング/原則として月1回以上の自宅訪問と記録。ここが見直しの入口になります。
第1表の「意向」と第2表の「ニーズ」をどう読むか
第1表の上段には「利用者及び家族の生活に対する意向を踏まえた課題分析の結果」という欄があります。ここに書かれるのは、本来は本人と家族の言葉です。ところが実際には「安全に在宅生活を継続したい」「介護負担の軽減を図りたい」といった、誰にでも当てはまる定型文が入っていることが珍しくありません。
これは必ずしもケアマネジャーの怠慢ではなく、限られた時間で多くのプランを書く現場の事情もあります。ただ、その文章を読んで「うちの父のことだ」と思えないなら、アセスメントで伝えたことが計画に反映されていない可能性が高い。たとえば「週1回は自分で銭湯に行きたい」「畑の草取りだけは続けたい」といった固有の希望が入っているプランは、後のサービス選びも自然と噛み合います。
第2表はさらに具体的です。左端の「生活全般の解決すべき課題(ニーズ)」から始まり、長期目標・短期目標・サービス内容・サービス種別・頻度・期間が横に並びます。読むときのコツは、右から左に読むことです。「週2回のデイサービス」というサービスから左へたどって、それがどのニーズを解決するために置かれているのかを確かめる。ここでつながりが説明できないサービスは、惰性で残っている可能性があります。
署名する前のチェックリスト
- ☐ 第1表の意向欄に、本人か家族が実際に言った言葉が入っている
- ☐ 第2表の短期目標が「〜できるようになる」と具体的に書かれている(「維持する」だけで終わっていない)
- ☐ 第2表のすべてのサービスについて、対応するニーズを指でたどれる
- ☐ 第3表の時間割が、家族の仕事・通院・きょうだいの訪問日と衝突していない
- ☐ 第7表の単位数合計が区分支給限度基準額の範囲に収まっている(超過分は全額自己負担)
- ☐ 自己負担の見込み額を、月あたりの金額で口頭でも説明してもらった
- ☐ プランの控え(第1表〜第7表)を受け取っている
第7表で見る「1か月に使える上限」
第7表(サービス利用票別表)は、家族がいちばん現実的な判断を迫られる表です。ここには各サービスの単位数と合計、そして区分支給限度基準額が並びます。限度額を超えた分は保険が使えず全額自己負担になるため、合計欄が上限に近づいているかどうかは毎月確認する価値があります。
区分支給限度基準額(1か月・単位)
1単位は原則10円ですが、地域区分とサービス種別で10〜11.40円に換算されます。要支援1・2は介護予防・日常生活支援総合事業の扱いが自治体ごとに異なります。出典:厚生労働省「介護保険制度の概要」/2026年9月2日時点
限度額を超える場合の選択肢は3つです。①サービスの回数を減らす、②超過分を全額自己負担で使い続ける、③介護保険外の生活支援サービスや自治体の独自事業に振り替える。ケアマネジャーが提案しやすいのは①ですが、家族の生活が回らなくなるなら②や③を検討する価値があります。ここは金額の問題ではなく、介護を続けられるかどうかの問題として相談してください。
「思っていたのと違う」ときの直し方
ケアプランは一度決めたら変えられない契約書ではありません。状態が変わったとき、家族の事情が変わったとき、あるいは単に「使ってみたら合わなかった」とき、いつでも見直しを申し出られます。変更の回数に制限はなく、追加費用も発生しません。以下は、実際に直すまでの流れです。
ケアプランの内容に納得できないときに、変更を申し出て新しい計画書を受け取るまでの手順。
- 違和感の中身を1文にする
「デイが多い」ではなく「父が入浴を嫌がって週2回とも休んでいる」のように、事実で書きます。
- ケアマネジャーに連絡して見直しを申し出る
電話でもかまいません。「第2表の短期目標を相談したい」と表の番号で伝えると話が早く進みます。
- 再アセスメントを受ける
状態や家族の状況が変わっていれば、あらためて自宅で聞き取りをしてもらいます。
- サービス担当者会議に出席する
言いたいことを箇条書きにして持参し、その場で読み上げます。第4表に記録が残ります。
- 変更後の原案を必ず紙で確認する
口頭の合意だけで終わらせず、第1表・第2表・第7表の3枚を目で確かめます。
- 同意して新しい控えを受け取る
署名した日付と、変更が反映される月を確認します。
- 1か月後に効果を振り返る
短期目標に近づいたかをモニタリングの訪問時に一緒に確認します。変わらなければ再度見直します。
言い出しにくいときは、「否定」ではなく「相談」の形にすると通りやすくなります。「このプランは間違っています」ではなく「父がデイを嫌がっているので、第2表の入浴のところを一緒に考えたいです」。事実と、直したい表の番号。この2つがあれば、ケアマネジャーは動きやすくなります。
パターン別:あなたの場合はどうなるか
要介護1〜5の場合
居宅介護支援事業所のケアマネジャーが担当。様式は第1表〜第7表。事業所は自分で選べ、変更も自由です。
要支援1・2の場合
地域包括支援センターが担当し、「介護予防サービス・支援計画表」という別様式になります。読みどころは同じで、目標とサービスのつながりを見ます。
自分で作りたい場合
セルフケアプラン(自己作成)も制度上は可能です。ただし毎月の給付管理を自分で市区町村に届け出る必要があり、手間は小さくありません。
施設に入る場合
特養や老健では施設のケアマネジャーが施設サービス計画を作ります。在宅の第1表〜第7表は使いません。入所が決まったら居宅介護支援は終了します。
現場で実際に起きること
ここからは、制度の説明だけでは見えない部分です。家族向けの介護相談の場や自治体の相談窓口の公表資料でくり返し挙がる困りごとを、編集部の視点で整理しました。個別の体験談ではなく、複数の相談例に共通して現れるパターンとして読んでください。
署名を求められたその場で読むのは、ほぼ不可能
初回の交付は、退院前カンファレンスの直後や、親の状態が急変した直後に重なりがちです。動揺しているときに7枚の表を読める人はいません。「持ち帰って読みたい」と伝えるのは正当な要求です。急ぐ場合でも、サービス開始日をずらさずに後日署名する運用は多くの事業所が受け入れています。
遠距離介護だと担当者会議に出られない
会議は平日日中に本人宅で開かれることが多く、遠方の家族は物理的に参加できません。この場合は、事前に意見を文書やメールで送り、第4表に記録してもらう方法があります。オンライン参加を受け入れる事業所も増えました。「出られないから任せる」で終わらせず、記録に残す形にすることが後の防波堤になります。
同じ法人のサービスばかりが並んでいる
ケアマネジャーが所属する法人のデイサービスや訪問介護だけでプランが組まれている、という相談は一定数あります。制度上は違法ではありませんが、居宅介護支援事業所には利用者に複数の選択肢を説明する責務があります。「ほかの事業所も比べたい」と伝えれば、候補を出してもらえます。言われなければ現状のまま進むだけ、というケースがほとんどです。
本人が「何もいらない」と言い張る
介護保険で最も多い入口の困りごとです。本人の意向を無視したプランは長続きしませんが、家族が倒れてしまっては元も子もありません。第1表には本人の意向と家族の意向を別々に書けます。両論を併記したうえで、まず短期目標を小さく設定する(週1回30分の訪問から始めるなど)のが現場での定石です。
編集部の価値判断:ケアプランは「見張る書類」ではなく「交渉の土台」
ケアプランの読み方を調べる家族の多くは、「ケアマネジャーが手を抜いていないか確かめたい」という動機を持っています。その気持ちは自然ですが、監視の目的で読むと、たいてい疲れて途中でやめてしまいます。
編集部の見立てでは、ケアプランは「交渉の土台」として使うほうが結果が良くなります。表の番号を指して「第2表のここを変えたい」と言える家族は、そうでない家族より要望が通りやすい。専門用語で武装する必要はなく、7枚のうち3枚の役割を知っていれば十分です。ケアマネジャーの側も、抽象的な不満より具体的な指摘のほうが動きやすいからです。
相場観のまとめ
- ケアプランの作成費用=0円(2026年9月時点、在宅の居宅介護支援)
- 初回の作成期間=申請から交付までおおむね2〜4週間(暫定プランで先行開始も可)
- モニタリング=原則月1回以上の自宅訪問
- 見直しの申し出から差し替えまで=2週間前後が目安(担当者会議の日程で前後します)
- ケアマネジャーの担当件数の上限は制度で定められており、1人が無制限に抱えているわけではありません
よくある質問
在宅のケアプラン(居宅介護支援)は介護保険から10割が給付されるため、2026年9月時点で利用者の自己負担はありません。デイサービスや訪問介護のような1〜3割の負担も発生しません。将来的な有料化は2027年度の制度見直しに向けて議論されている段階で、まだ決まっていません。もし作成料を請求されたら、介護保険外のサービスにあたる可能性があるため市区町村の介護保険担当窓口に確認してください。
第1表の「利用者及び家族の生活に対する意向」と、第2表の「生活全般の解決すべき課題(ニーズ)」と短期目標です。この2枚が家族の実感と合っていれば、細部がずれていても修正は簡単です。逆にここが定型文で埋まっている場合は、サービスをいくら足しても生活は変わりません。お金の確認は第7表で行います。
回数の制限はなく、追加費用もかかりません。ケアマネジャーに見直しを申し出れば、再アセスメントとサービス担当者会議を経て新しい計画書が交付されます。状態が変わったときだけでなく、「使ってみたら合わなかった」という理由でも見直しは可能です。
できます。同じ事業所内での担当者変更なら事業所に、事業所ごと変えたい場合は市区町村の介護保険担当窓口や地域包括支援センターに相談します。手数料はかからず、変更の理由を細かく説明する義務もありません。ただし引き継ぎに時間がかかるため、サービスの空白が出ないよう時期は相談してください。
セルフケアプラン(自己作成)として制度上は認められています。ただし、毎月の利用票の作成と市区町村への届け出を自分で行う必要があり、事業所との調整もすべて自分で担うことになります。介護に詳しい家族がいる場合を除き、負担に見合わないことが多いのが実情です。
法的な出席義務はありませんが、家族が意見を述べられる公式の場はここだけです。都合がつかない場合は、事前に意見を文書やメールで送り、第4表の「検討した内容」に記録してもらう方法があります。オンラインでの参加を受け入れる事業所も増えています。
超えた分は介護保険が使えず全額自己負担になります。1か月の上限は要介護1が16,765単位、要介護3が27,048単位、要介護5が36,217単位です。上限に近づいたら、回数を減らす・超過分を自費で使う・保険外の生活支援サービスや自治体の独自事業に振り替える、の3つを比べて決めます。判断に迷うときは第7表を見ながらケアマネジャーに試算を頼んでください。
出典と基準日
本記事は2026年9月2日時点の公表情報をもとに作成しています。制度・様式・金額は改正により変わります。
- 厚生労働省「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」(老企第29号)
- 厚生労働省 老健局「介護保険制度の概要」
- 厚生労働省「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」
- 社会保障審議会 介護保険部会の公表資料(次期制度見直しに関する検討状況)
次に読むと迷いが減る記事
ケアプランは、要介護認定とサービス選びの間にある「設計図」です。前後の手続きと費用は下の記事にまとめています。
- 暮らしの手続きナビ(介護・見守りの記事一覧)
- 要介護認定の申請と流れ
- ケアマネジャーの選び方と変更手続き
- デイサービスの費用と選び方【2026年版】
- 訪問介護でできること・できないこと
- ショートステイの費用と使い方
- 介護施設の種類と費用相場【2026年版】
様式の詳細や個別の適用可否は、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口、または地域包括支援センターの公式案内で最新の情報をご確認ください。
