「ヘルパーさんに庭の草むしりをお願いしたら断られた」「同居している息子がいるから生活援助は使えないと言われた」。訪問介護をめぐるトラブルの多くは、できることとできないことの線引きが、家事代行サービスとまったく違うところから起きます。
この線引きは事業所やヘルパーの気分で決まっているわけではなく、2000年3月に出された厚生労働省の通知(老計第10号)にもとづいています。理由が分かれば、断られたときに何を頼めばよいのかも見えてきます。この記事では、2026年9月時点の単位数と公的な区分にそって、費用・できること・できないこと・代わりの手段を整理します。
この記事の結論
- 訪問介護は「本人のための行為」だけが対象。家族の分の食事を作る、来客にお茶を出すといった行為は、家族の利便に供する行為として介護保険では行えません。
- できないことは大きく3つ。①家族のための行為 ②やらなくても日常生活に支障がない行為(草むしり・ペットの世話など) ③日常的な家事の範囲を超える行為(大掃除・模様替え・植木の剪定など)です。
- 費用の目安は身体介護30分以上1時間未満で387単位。1単位10円なら3,870円で、1割負担なら約387円です。生活援助は20分以上45分未満で179単位です。
- 同居家族がいても生活援助が一律に禁止されるわけではない。家族が高齢・障害・就労等でやむを得ず家事ができない場合は、ケアマネジャーのアセスメントにもとづき利用できます。「同居家族がいるから一律に不可」という運用は、厚生労働省が繰り返し否定しています。
- 断られたら介護保険外サービスへ。自治体の生活支援サービス、社会福祉協議会、シルバー人材センター、事業所の自費サービスが受け皿になります。
訪問介護は3つに分かれている
まず、訪問介護のメニューが3種類に分かれていることを押さえます。どれに当たるかで単位数も、頼める内容も変わります。
身体介護
利用者の体に直接触れる介助。
食事介助/入浴・清拭/排泄介助/着替え/体位変換/通院の付き添い/自立支援のための見守り的援助(本人と一緒に行う調理や掃除)
生活援助
本人が一人ではできない日常の家事。
調理/洗濯/掃除(本人の居室など)/買い物/薬の受け取り/ゴミ出し/ベッドメイク
通院等乗降介助
いわゆる介護タクシー。
乗車・降車の介助と、その前後の移動・受診手続きの介助。運賃は別に実費がかかります。
混同されやすいのが、本人と一緒に家事をする「見守り的援助」は生活援助ではなく身体介護に当たるという点です。単位数が上がるため、ケアプランでどちらに位置づけられているかは確認する価値があります。
1回あたりの単位数と自己負担(2026年9月時点)
2024年4月改定の単位数で、2026年6月の臨時改定でも基本報酬は据え置かれています。1単位は10円が基本ですが、地域区分により最大11.40円まで上がります(訪問介護は人件費割合70%の区分にあたり、1級地の上乗せは14%)。
| 区分 | 時間 | 単位数 | 1割負担の目安 |
|---|---|---|---|
| 身体介護 | 20分未満 | 163 | 約163〜186円 |
| 20分以上30分未満 | 244 | 約244〜278円 | |
| 30分以上1時間未満 | 387 | 約387〜441円 | |
| 1時間以上1時間30分未満 | 567 | 約567〜646円 | |
| 生活援助 | 20分以上45分未満 | 179 | 約179〜204円 |
| 45分以上 | 220 | 約220〜250円 | |
| 通院等乗降介助 | 片道1回 | 97 | 約97〜110円 |
月の上限は区分支給限度基準額で管理され、要介護1なら16,765単位、要介護3なら27,048単位です。デイサービスや福祉用具レンタルと併用するとこの枠を分け合うことになります。時間区分の考え方はデイサービスの費用の記事と共通です。
ヘルパーができないこと — 3つの分類で覚える
断られる行為は、老計第10号の別紙にそって次の3つに整理できます。「本人のためか」「やらないと生活が成り立たないか」「日常の家事の範囲か」の3問で、ほぼ判定できます。
| 分類 | 具体例 |
|---|---|
| ① 直接本人の援助に当たらない 主に家族の利便に供する行為 | 家族の分の調理・洗濯・買い物/家族が使う部屋の掃除/来客へのお茶出し・食事の手配/自家用車の洗車・掃除 |
| ② やらなくても日常生活に支障がない | 草むしり/花木の水やり/犬の散歩などペットの世話 |
| ③ 日常的な家事の範囲を超える | 大掃除/窓ガラス磨き/床のワックスがけ/家具や電気器具の移動・模様替え/家屋の修理・ペンキ塗り/植木の剪定などの園芸/正月・節句などのための特別な調理 |
| (別枠)医行為 | 摘便/インスリン注射/床ずれの処置など。喀痰吸引と経管栄養は、研修を修了し登録した事業所のヘルパーに限って行えます。 |
この線引きは冷たく感じられますが、介護保険は本人の自立を支えるための保険であって、世帯の家事を肩代わりする制度ではないという設計思想から来ています。財源が保険料と税である以上、家族の家事にまで広げると際限がなくなる、という理屈です。
同居家族がいると生活援助は使えないのか
最も誤解が多いところです。結論から書くと、同居家族がいることだけを理由に生活援助を一律に断ることはできません。厚生労働省はこの点を繰り返し通知しており、多くの自治体も同じ内容を公表しています。
判断されるのは「家族が実際に家事をできるか」
ケアマネジャーがアセスメントを行い、同居家族が高齢・障害・疾病である、日中は就労で不在である、家族自身も介護を要する、といった事情で家事が困難だと判断されれば、ケアプランに位置づけて生活援助を使えます。
大切なのはケアプランに理由が記録されていることです。「なぜ家族ではできないのか」をケアマネジャーに具体的に伝え、書き残してもらってください。口頭のやり取りだけでは、後の実地指導で否認される原因になります。
断られたときの代わりの手段
介護保険で頼めない行為も、別の受け皿があります。金額の安い順に検討するのが基本です。
- 市区町村の高齢者生活支援サービス。ゴミ出し支援、配食、除雪、軽度生活援助などを低額または無料で用意している自治体があります。まず地域包括支援センターに聞いてください。
- 社会福祉協議会の住民参加型サービス。1時間700〜1,200円程度が相場で、掃除・買い物・付き添いに対応します。
- シルバー人材センター。草むしり、植木の剪定、家事援助などが得意分野です。作業内容ごとの料金設定です。
- 訪問介護事業所の自費(保険外)サービス。同じヘルパーに続けて頼める利点があります。1時間2,500〜4,000円程度が中心です。
- 家事代行・便利屋。大掃除や模様替えなど、範囲を超える作業はこちらが早いこともあります。
損しないための3つのポイント
頼み方で結果が変わる
- 「一緒にやる」形に変えられないか相談する。本人と一緒に行う調理や掃除は自立支援のための見守り的援助として身体介護に位置づけられる場合があります。ヘルパーが代わりにやるのではなく、本人ができるところは本人が行う形です。
- 断られた理由を分類で聞く。「家族のためだから」なのか「日常の家事を超えるから」なのかで、代わりの手段が変わります。理由が分かれば次の一手が決まります。
- 2時間ルールを知っておく。訪問と訪問の間隔がおおむね2時間未満だと1回のサービスとして合算されます。朝と昼に分けて入ってもらいたいときは、この間隔をケアマネジャーと調整してください。
現場で起きるイレギュラーと対処
前は同じことをやってくれたのに、担当が変わって断られた
よく語られる不満です。多くの場合、以前の対応がグレーゾーンだったか、事業所の実地指導を機に運用が引き締められたかのどちらかです。感情的に押し切ろうとするより、ケアマネジャーに間に入ってもらい「ケアプランに位置づけられるか」を確認するほうが早いのが実情です。位置づけられない行為なら、保険外サービスへの切り替えを検討します。
時間が余ったから、ついでに別のことを頼みたい
ヘルパーはケアプランと訪問介護計画書に書かれた内容を行うため、その場の追加依頼には応じられません。断られたヘルパーが冷たいわけではなく、計画外の行為を行うと事業所が報酬を返還することになるためです。定常的に必要な作業なら、ケアマネジャーに伝えて計画に入れてもらうのが正攻法です。
ヘルパーとの相性が悪い
担当者の変更は事業所に申し出れば検討してもらえます。人手不足の事業所では難しいこともあり、その場合は事業所そのものの変更が現実的な選択肢になります。事業所の変更はケアマネジャーに依頼すれば手続きを進めてもらえ、原則として月の区切りで切り替えられます。ケアマネジャー自身との相性が課題なら、ケアマネジャーの変更も検討できます。
相場観と、編集部の価値判断
身体介護30分〜1時間が1割負担で約390〜440円。民間の家事代行が1時間3,000円前後であることを思えば、介護保険の訪問介護は圧倒的に安いサービスです。安いからこそ範囲が厳しく守られている、という見方をしたほうが実態に合っています。
編集部の見方は、訪問介護に何でも頼もうとすると、かえって生活が苦しくなるというものです。断られるたびに交渉し、担当が変わるたびに説明し直すのは、家族にとって大きな消耗です。「保険で頼めること」と「お金を払って頼むこと」を最初に分けておくと、月の予算も気持ちも安定します。
もう一つの見方として、できないことの多くは「本人がやったほうがよいこと」でもあるという点があります。掃除も調理も、全部代わりにやってもらうと本人の生活機能はゆるやかに落ちていきます。一緒にやる形(見守り的援助)が制度上あえて用意されているのは、そのためです。頼む範囲を決めるとき、本人の残っている力をどう使うかという視点も持っておくと、後の判断が楽になります。
よくある質問
ヘルパーに草むしりや庭の手入れを頼めますか?
頼めません。草むしり・花木の水やり・植木の剪定は、老計第10号で「ヘルパーが行わなくても日常生活に支障が生じない行為」または「日常的な家事の範囲を超える行為」に分類され、介護保険の対象外です。シルバー人材センターや自治体の生活支援サービス、事業所の自費サービスが代わりの受け皿になります。
同居している家族がいると生活援助は使えませんか?
同居家族がいることだけを理由に一律に断ることはできません。家族が高齢・障害・疾病である、日中は就労で不在である、家族自身も介護を要するなど、やむを得ず家事ができない事情があれば、ケアマネジャーのアセスメントにもとづきケアプランに位置づけて利用できます。理由がケアプランに記録されていることが重要です。
ペットの世話や犬の散歩は頼めますか?
介護保険の訪問介護では頼めません。ペットの世話は本人の日常生活の援助に当たらない行為とされています。保険外の自費サービスやペットシッター、地域のボランティアが代替手段になります。
家族の分の食事も一緒に作ってもらえますか?
作ってもらえません。家族の分の調理・洗濯・買い物は「主として家族の利便に供する行為」として対象外です。本人の分だけを作ることになります。同じ台所で家族の分も作るよう頼むことはできません。
ヘルパーは薬を飲ませたり傷の処置をしたりできますか?
服薬の介助(本人が飲むのを手伝う、声かけをする)はできますが、摘便・インスリン注射・床ずれの処置などの医行為はできません。喀痰吸引と経管栄養だけは例外で、所定の研修を修了し登録を受けた事業所のヘルパーに限って行えます。医療的な処置が必要な場合は訪問看護の利用を検討してください。
訪問介護と家事代行はどう違いますか?
訪問介護は介護保険のサービスで、要介護認定を受けた本人のためだけに、ケアプランに書かれた内容を行います。自己負担は1〜3割で安い代わりに範囲が厳格です。家事代行は保険外の民間サービスで、家族の分も含めて幅広く頼めますが、料金は全額自己負担で1時間3,000円前後が相場です。
頼めることを仕分ける6ステップ
- 頼みたいことを紙に全部書き出す
掃除・調理・買い物・通院の付き添いなど、思いつく限り書きます。この時点では線引きを気にしません。
- 「本人のためか」で仕分ける
家族の分の家事、来客対応、車の掃除はここで保険外へ回します。
- 「やらないと生活に支障が出るか」で仕分ける
草むしり、ペットの世話、花木の水やりはここで保険外へ回します。
- 「日常的な家事の範囲か」で仕分ける
大掃除、模様替え、家屋の修理、植木の剪定はここで保険外へ回します。
- 残ったものをケアマネジャーに相談し、ケアプランに載せる
同居家族がいて生活援助が必要な場合は、家族が家事をできない理由を具体的に伝えて記録してもらいます。
- 保険外へ回した分の受け皿を決める
自治体の生活支援サービス、社会福祉協議会、シルバー人材センター、事業所の自費サービスを、料金の安い順に当たります。
出典
- 厚生労働省「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」(平成12年3月17日 老計第10号)
- 厚生労働省「同居家族等がいる場合における訪問介護の生活援助の取扱いについて」
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」(訪問介護費の単位数)
- 厚生労働省「令和8年6月介護報酬改定(介護職員等処遇改善加算)」
※本記事は2026年9月2日時点の公表情報をもとに編集部が整理したものです。個々の行為が算定できるかどうかは、自治体の解釈や本人の状態、ケアプランの内容によって判断が分かれることがあります。実際の可否は担当ケアマネジャー、訪問介護事業所、市区町村の介護保険担当窓口にご確認ください。特定の事業所やサービスを推奨するものではありません。
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