補助金で単価50万円以上の機械や設備を買うと、その日から「取得財産等管理台帳」という帳簿を作る義務が発生します。さらに補助事業の経費は、ふだんの会計と混ぜずに区分して経理しなければなりません。どちらも公募要領の目立つ場所には書かれておらず、交付決定通知に同封される交付規程の後半に静かに置かれている義務です。
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情報基準日:2026年9月13日。根拠は補助金等適正化法(昭和30年法律第179号)と各補助金の交付規程で、処分制限期間は減価償却資産の耐用年数等に関する省令にもとづきます。金額・様式は制度ごとに異なるため、手元の交付決定通知に同封された交付規程で必ず確認してください。
この記事の要点
- 台帳が要るのは単価50万円(税抜)以上の機械・器具・備品その他の財産。ただし善良な管理者の注意義務そのものは金額の大小を問わず発生する。
- 台帳は「実績報告のための添付書類」であると同時に、補助金額の確定を左右する書類。帳簿類の調査ができなければ、その物件の金額は補助対象から外れる。
- 区分経理は別会社のように帳簿を二重に持つことではない。補助事業を1つの区分として切り、証憑と仕訳が結びついていれば足りる。
- 帳簿と証拠書類の保存は「補助事業の完了日が属する年度(自社の決算年度)の終了後5年間」。暦の5年ではない。
- 処分制限期間は耐用年数省令などを準用して決まる。パソコンは4年、食料品製造業用設備は10年、金属製の事務机は15年が目安。
結論:50万円以上の設備を買ったら「台帳」と「区分経理」がセットで始まる
ものづくり補助金の交付規程は、経理を第9条、財産の管理を第20条・第21条で定めています。
経理の義務(交付規程 第9条)
帳簿と全ての証拠書類を備え、他の経理と明確に区分する
常に収支の状況を明らかにしておくことが求められます。保存期間は補助事業の完了日が属する年度の終了後5年間です。
財産の義務(交付規程 第20条・第21条)
取得財産等管理台帳を作り、5年間管理する
単価50万円(税抜)以上の機械・器具・備品などが対象。処分するには事前の承認が要ります。
義務の出どころは「法律」と「交付規程」の二階建て
| 階層 | 根拠 | 書かれている内容 |
|---|---|---|
| 1階 | 補助金適正化法 第11条 | 善良な管理者の注意をもって補助事業を行い、補助金を他の用途に使ってはならない |
| 1階 | 同法 第22条 | 政令で定める財産は、承認を受けずに目的に反して使用・譲渡・交換・貸付け・担保に供してはならない |
| 1階 | 同法施行令 第13条 | 処分を制限する財産=不動産/船舶・航空機など/それらの従物/機械及び重要な器具で各省各庁の長などが定めるもの ほか |
| 1階 | 同法 第23条 | 必要があるとき、事務所・事業場に立ち入り帳簿書類その他の物件を検査し、関係者に質問できる |
| 2階 | 各補助金の交付規程 | 「単価50万円(税抜)以上」という具体的な線引き、様式番号、提出のタイミング、保存年数 |
注目したいのは、法律側に「50万円」という数字が出てこないことです。施行令第13条は「機械及び重要な器具で、各省各庁の長又は補助実施法人の代表者が定めるもの」と書くだけで、金額の線引きは2階の交付規程に委ねられています。制度ごとに閾値も様式も違うため、「前に使った補助金と同じはず」という思い込みが事故のもとになります。
損しないポイント
交付決定通知書が届いたら、公募要領ではなく交付規程を先に開いて「経理」「財産」「保存」の3語を検索してください。この3語がある条文だけを印刷して手元に置けば、事業期間中に必要な帳簿ルールはほぼ網羅できます。公募要領は採択されるための書類、交付規程は返還されないための書類です。
取得財産等管理台帳には何を書くのか(記載項目と様式)
| 記載項目 | 書き方のポイント |
|---|---|
| 区分 | 機械装置/工具器具備品/建物など、資産の区分を書きます。会計上の勘定科目と揃えておくと後の照合が楽になります。 |
| 財産名 | 見積書・納品書・請求書に書かれた名称をそのまま使います。社内の通称に置き換えると証憑と突き合わせられなくなります。 |
| 規格 | 型式・製造番号まで書きます。現物確認は基本的にこの番号で行われます。 |
| 数量 | 同型を複数台入れたときは、台数ではなく1台ずつ行を分けるほうが処分時に扱いやすくなります。 |
| 単価・金額 | 50万円の判定は税抜きです。値引きがあるときは値引き後の実際の取得価格で判定します。 |
| 取得年月日 | 検収・引渡しの日を書きます。支払日や発注日ではありません。 |
| 耐用年数 | 耐用年数省令の別表に当てはめて書きます。自社の会計方針で短縮している場合でも省令の年数を書きます。 |
| 処分制限期間 | 耐用年数をもとに、交付の目的を勘案して事務局が定める期間です。耐用年数と一致するとは限りません。 |
| 保管場所 | 住所まで書きます。事業実施場所と違う倉庫に置くなら、そもそも計画変更の承認が必要かを先に確認します。 |
制度によって「提出するもの」と「備え置くもの」が違う
台帳をそのまま提出させる制度と、台帳は手元に置いたまま別の「明細表」だけを提出させる制度があります。代表的な2制度を並べます。
| 補助金 | 対象の線引き | 様式と提出のしかた |
|---|---|---|
| ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 | 取得価格または効用の増加価格が単価50万円(税抜)以上の機械・器具・備品その他の財産 | 様式第7の取得財産等管理台帳を、補助事業実績報告書に添付して管理(交付規程 第21条第1項) |
| 小規模事業者持続化補助金 | 同じく1件あたり50万円(税抜)以上。ただし金額の大小にかかわらず善管注意義務は発生 | 様式第11−1の台帳は備えて保管。実績報告書の提出時に様式第11−2の取得財産等管理明細表をあわせて提出 |
持続化補助金の説明書は「金額の大小にかかわらず、善良なる管理者の注意をもって適切に管理する義務を負います」と明記しています。50万円は処分に承認が要るかどうかの線であって、管理義務があるかどうかの線ではありません。
台帳と会計帳簿がズレる原因は「名前」と「日付」
台帳の財産名を社内の通称で書き、会計側は請求書どおりの名称で登録する。取得年月日を台帳は検収日、会計は支払日で入れる。この2つのズレだけで、数年後の現物確認は一気に難しくなります。固定資産の登録名と日付を最初から証憑に合わせておくのが、いちばん安い予防策です。
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処分制限期間は何年になるのか(耐用年数省令ベースの目安)
台帳に書く「処分制限期間」は、事業者が勝手に決める数字ではありません。ものづくり補助金の交付規程 第21条第2項は、補助金交付の目的と減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)および経済産業大臣が定める期間を準用すると定めています。したがって出発点は国税庁の耐用年数表です。
補助金で取得しやすい資産の法定耐用年数(国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」)
※法定耐用年数であり、処分制限期間そのものではありません。実際の期間は交付の目的を勘案して各事務局が定めます。台帳に書く前に交付規程と事務局の手引きで必ず確認してください。
この差は実務に効きます。パソコンは4年で自由になりますが、金属製の什器は15年近く「勝手に売れない資産」になります。店舗のリニューアル周期のほうが先に来るのが普通なので、申請の段階で「この年数持ち続けられるか」を考えておく価値があります。
処分制限期間を過ぎれば承認は不要です。補助金適正化法施行令 第14条は、制限を適用しない場合として「補助金等の全部に相当する金額を納付した場合」と「耐用年数を勘案して定める期間を経過した場合」の2つを挙げています。期間の経過を待つか、補助金相当額を返すかの二択です。
区分経理はどこまでやれば足りるのか
交付規程 第9条第1項の条文はこうです。「補助事業者は、補助事業の経費については、帳簿及び全ての証拠書類を備え、他の経理と明確に区分して経理し、常にその収支の状況を明らかにしておかなければならない」。
区分経理のチェックリスト(交付決定の翌日にやること)
- 会計ソフトに補助事業名の部門(またはプロジェクト・タグ)を作る
- 補助対象経費の勘定科目を先に決めておく(機械装置/工具器具備品/外注費/広告宣伝費 など)
- 補助事業用の口座または法人カードを1つに絞る(現金払いは原則避ける)
- 証憑にファイル番号を振り、仕訳の摘要に同じ番号を入れる
- 見積書・発注書・納品書・請求書・振込控の5点をセットで保存する
- 50万円(税抜)以上の契約は2者以上の見積りを取る(交付規程 第11条第1項)
- 単価50万円以上の資産は、検収した週のうちに台帳へ1行足す
区分経理で落ちやすいのは「補助対象と自社負担が1枚の請求書に混在している」ケースです。設備本体は対象でも、同じ請求書の消耗品や保守契約は対象外ということがあります。明細行ごとに区分を付けておかないと、実績報告の段階で請求書全体の扱いが宙に浮きます。
注意:帳簿が出せないと「返還」ではなく「そもそも支払われない」
ものづくり補助金の交付規程 第16条第1項は、補助金額の確定にあたって「補助対象物件や帳簿類の調査ができない場合等、補助金の交付決定の内容及びこれに付した条件に適合しないときは、当該物件等に係る金額は補助対象とならない」と書いています。台帳や帳簿の不備は、いったん受け取ったお金を返すという形ではなく、確定の段階で金額から落ちるという形で効きます。ここが「あとで直せばいい」と考えてはいけない理由です。
補助事業の収支を「1クリックで出せる状態」にしておく
事務局から収支の説明を求められたとき、部門やタグで切ってあれば数分で出せますが、切っていなければ数か月分の総勘定元帳を人の目で拾い直すことになります。区分経理は事業が終わってから整えるものではなく、最初の1仕訳から始めるものです。クラウド会計ソフトの部門・プロジェクト機能を使えば、既存の帳簿を作り直さずに補助事業だけを抜き出せます。
▶ 会計ソフトは補助金で導入できる?【2026年版】
▶ 補助金の実績報告書の書き方【2026年版】
帳簿と証拠書類は「年度の終了後5年」──起算点の数え方
交付規程 第9条第2項は、帳簿と全ての証拠書類を「補助事業の完了の日の属する年度(補助事業者の決算年度)の終了後5年間」保存せよと定めています。取得財産の管理義務も同じ数え方で、第20条第2項が同じ期間の管理を求めています。
基準は国の会計年度ではなく自社の決算年度です。3月決算と12月決算では、同じ日に完了しても保存期限が変わります。
STEP 1|補助事業の完了
例:2026年11月30日に補助事業が完了。完了日から30日以内、または交付決定通知書の完了期限日のいずれか早い日までに実績報告書を提出します。
STEP 2|完了日が属する「自社の」決算年度を特定
3月決算の会社なら2026年4月1日〜2027年3月31日の事業年度。12月決算の会社なら2026年1月1日〜2026年12月31日の事業年度です。
STEP 3|その年度の終了日を起算点にする
3月決算なら2027年3月31日、12月決算なら2026年12月31日が起算点です。
STEP 4|そこから5年間
3月決算なら2032年3月31日まで、12月決算なら2031年12月31日まで。同じ事業でも終期が3か月違います。
STEP 5|並行して事業化状況報告が5年・6回
ものづくり補助金は、補助金全額の交付を受けた日以降、最初に迎える4月1日から60日以内の日を初回として、以降5年間・合計6回の報告義務があります(交付規程 第23条)。その証拠書類は報告に係る会計年度の終了後3年間の保存です。
処分制限期間を過ぎた設備や、補助対象外の什器を手放すとき
処分制限期間が満了した設備や、そもそも補助対象外で台帳にも載らない什器・家電は、通常の資産と同じように売却・処分できます。処分先ごとの費用の差は不用品はどこに頼むのが安いか、値が付くかどうかの線引きは売れるもの・売れないもので整理しています。処分制限期間内の財産は、先に補助事業者の承認手続きが必要です。
パターン別・こんなときはどうする
A|1台49万円の機械を2台入れた
判定は単価です。49万円が2台なら合計98万円でも処分制限財産にはなりません。ただし善管注意義務は残り、実績報告で経費として計上する以上、証憑と区分経理は当然に必要です。台帳に載せる義務がないことと、管理しなくてよいことは別です。
B|買う予定だった機種を別機種に変えた
交付申請時に取得するとしていた50万円以上(税抜)の機械・器具・備品を変更するときは、あらかじめ計画変更の承認が要ります(交付規程 第10条第1項第2号)。買ってから報告するのでは順序が逆になります。
C|設備を別の用途に使いたくなった
所有者を変えずに目的外で使うことを転用といいます。ものづくり補助金では、補助事業の成果を活用して実施する事業に使うための転用であれば、様式第11−1で申請し承認を受けることで納付が免除されます(第21条第6項)。無断で使い方を変えるのが最も危険です。
D|災害で使えなくなった/危険で取り壊す
災害により使用できなくなった場合や、立地上・構造上危険な状態にある場合の取壊し・廃棄は、事前承認ではなく様式第11−2の財産処分報告書を提出することで承認を受けたものとみなす扱いになり、収入の納付も免除されます(第21条第7項)。報告そのものを省略してよいわけではありません。
相場観と編集部の価値判断
会計検査院の令和6年度決算検査報告では、中小企業基盤整備機構が関係する補助金について25件・約3億8,199万円が不当事項として掲記されました。編集部が類型を数えたところ、最も多いのは取得財産の無断処分で13件(延べ)です。次いで補助対象外の経費計上が8件、虚偽の報告が6件と続きます。
指摘の中心は「申請のときの嘘」ではなく「交付決定のあとの管理」です。無断処分の多くは悪意ではなく、台帳を作っていなかったために処分制限がかかっていること自体を忘れて起きます。台帳は事務局に見せるための書類である前に、自社が自社を止めるブレーキです。
もう一つは作業量の非対称性です。検収した週に台帳へ1行足す作業は5分で終わりますが、5年後に製造番号と取得日と保管場所を遡ると、担当者が代わっていれば半日から数日かかります。しかも交付規程 第16条第1項により、出せなければその物件の金額は補助対象から落ちます。
5年後に効いてくるのは「毎月の仕訳の付け方」
処分制限期間は最長で15年前後まで伸びます。その間、担当者は替わり、パソコンも入れ替わります。残るのは会計データだけです。固定資産台帳と補助事業の部門管理を同じソフトの中に置いておけば、5年後に台帳を作り直す必要がなくなります。クラウド会計ソフトなら固定資産の登録・耐用年数の管理・部門別の収支をまとめて扱えます。
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よくある質問
Q1.取得財産等管理台帳はいつまでに作ればいいですか?
ものづくり補助金の場合、様式第7の台帳は補助事業実績報告書に添付して提出します。実績報告書の提出期限は、補助事業が完了した日から起算して30日を経過した日か、交付決定通知書に記載された補助事業完了期限日のいずれか早い日です(交付規程 第15条第1項)。ただし実務上は、この期限に間に合わせるために作るのではなく、資産を検収した都度1行ずつ追加していくほうが確実です。まとめて作ろうとすると、製造番号や保管場所を後から確認する手間が発生します。
Q2.補助金で買った設備を銀行の担保に入れられますか?
補助金適正化法 第22条は、承認を受けずに「補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない」と定めており、担保設定も制限の対象に明記されています。処分制限期間内に担保に入れる必要が生じたときは、事務局へ事前に財産処分の承認申請を行ってください。ものづくり補助金では、承認を受けずに処分することは交付決定の取消し事由になり得ます。資金繰りのために設備を担保に入れる計画があるなら、申請の段階で処分制限期間を確認しておくことをおすすめします。
Q3.帳簿と証拠書類は電子データだけで保存してもいいですか?
交付規程が求めているのは「事務局の要求があったときは、いつでも閲覧に供せるよう保存しておくこと」であり、媒体を紙に限定する文言はありません。一方で、事務局の手引きが原本の提示を求める場面もあるため、スキャン後に原本を破棄してよいかは各補助金の手引きで確認してください。なお税務上は、電子取引でやり取りした請求書や領収書のデータは電子帳簿保存法により電子のまま保存することが原則です。補助金側の5年保存と税務側の保存要件は別のルールなので、期間の長いほうに合わせて運用するのが安全です。
出典
- e-Gov法令検索「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(昭和30年法律第179号)第11条・第22条・第23条・第29条〜第31条
- e-Gov法令検索「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令」(昭和30年政令第255号)第13条・第14条
- 全国中小企業団体中央会「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 交付規程」(令和5年6月8日最終改訂)第9条・第10条・第11条・第15条・第16条・第20条・第21条・第23条
- 小規模事業者持続化補助金事務局「取得財産の管理について」(様式第11−1 取得財産等管理台帳/様式第11−2 取得財産等管理明細表)
- 国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」
- 会計検査院「令和6年度決算検査報告」(独立行政法人中小企業基盤整備機構に関する不当事項)
本記事は2026年8月28日時点の公表資料にもとづいて編集部が整理したものです。様式番号・提出先・処分制限期間は補助金や公募回によって異なります。実際の手続きにあたっては、必ずご自身が交付決定を受けた補助金の交付規程と事務局の手引きをご確認ください。
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読み終えたら、次に手を動かすこと
処分制限期間が過ぎた設備や、入れ替えで不要になった什器をどう手放すかは、台帳の「処分」欄の書き方とセットで決まります。事業者の廃棄物は家庭ごみと扱いが違う点に注意してください。
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