結論の要点
- 産後ケア事業は母子保健法第17条の2にもとづく市町村の事業で、令和3年4月から市町村の努力義務になりました。実施しているのは令和5年度で1,547市町村です。
- タイプは宿泊型・デイサービス型(通所)・アウトリーチ型(自宅訪問)の3つ。利用期間は原則7日以内で、対象は産後1年以内の母子です。
- 令和5年度に対象者の書きぶりが「産後ケアを必要とする者」に見直され、誰でも使えるユニバーサルな事業であることが明確化されました。「実家を頼れない証明」を求められる制度ではありません。
- 利用料には国の減免加算があります。基準額は住民税非課税世帯で1回5,000円、それ以外の世帯でも1回2,500円。一般世帯にも値引きの原資が用意されています。
- 令和7年4月から「地域子ども・子育て支援事業」に位置づけられ、費用は国1/2・都道府県1/4・市町村1/4に。都道府県が市町村をまたぐ広域調整を担うことになり、里帰り先での利用が通りやすくなる方向です。
- 一方で産婦の利用率は10.9%。制度はあるのに、9割は使わずに終わっています。申し込みは妊娠中からできる自治体が多く、動くのは早いほうが有利です。
退院してから1か月ほどの時期は、産後のからだが最も不安定で、しかも夜通し赤ちゃんの世話が続きます。「休みたい」と口に出すことに罪悪感を覚える人は多いのですが、休むことを目的にした公的な事業がすでに存在します。それが産後ケア事業です。
この事業は平成26年度にモデル事業として始まり、令和元年の母子保健法改正で法定化され、令和3年4月から市町村の努力義務になりました。そして令和7年4月からは子ども・子育て支援法の「地域子ども・子育て支援事業」に位置づけられ、市町村が計画をつくって提供体制を整える対象になっています。制度としては、もう「あれば良いもの」ではなく「整えるべきもの」に変わりました。
それでも産婦の利用率は10.9%にとどまっています。理由の多くは「知らなかった」「自分は対象外だと思った」「いくらかかるか分からなかった」の3つです。この記事では、こども家庭庁の資料をもとに、どのタイプがあり、いくらで、いつ、どうやって申し込むのかを順に整理します。
この記事は2026年8月21日時点の公表情報に基づきます。利用料・回数・対象・申込方法は市町村ごとに異なります。必ずお住まいの自治体の窓口(こども家庭センター等)でご確認ください。
3つのタイプと、それぞれ向いている人
産後ケア事業は実施の方法で3つに分かれます。同じ自治体でも、3つ全部をそろえているところと、通所だけ・訪問だけというところがあります。まず「自分の市町村に何があるか」を確かめるのが出発点です。
図解1|3つのタイプの違い
| タイプ | 場所とかたち | こんな人に向く |
|---|---|---|
| 宿泊型 ショートステイ |
病院・助産所の空きベッド等に泊まる。24時間体制で助産師・保健師・看護師のいずれかが1名以上いることが実施の条件 | まとまって眠りたい人。夜間の授乳が特につらい人。里帰りができない人 |
| デイサービス型 通所 |
日中に施設へ行き、個別または集団で支援を受ける | 授乳や沐浴のやり方を対面で確かめたい人。日中だけ預けて休みたい人 |
| アウトリーチ型 居宅訪問 |
担当者が自宅に来てケアを行う | 外出そのものがつらい人。上の子がいて家を空けにくい人。多胎の人 |
出典:こども家庭庁「産後ケア事業について」(第4回こども家庭審議会成育医療等分科会 資料2-1、令和6年11月20日)。実施の有無・回数・料金は市町村ごとに異なります。
ケアの中身は、母体の回復のための支援、授乳の支援、育児の手技の相談、そして気持ちの相談までを含みます。令和6年10月に改定されたガイドラインでは、これまで箇条書きだったケアの内容が具体的に書き込まれ、アセスメントにもとづくケアプランの作成や、利用が終わったあとの振り返りと次の支援へのつなぎまでが位置づけられました。「一度預かって終わり」ではなく、継続支援の入口として設計されています。
「つらい人だけの制度」ではなくなった
産後ケアを使わなかった理由でいちばん多いのが「自分は対象じゃないと思った」です。実際、以前は要件が厳しめに運用されていた自治体もありました。ところが令和5年度に対象者の定義が「産後ケア事業を必要とする者」へ見直され、ユニバーサルな事業であることが明確化されています。令和6年10月のガイドライン改定でも「産後ケアを必要とするすべての母親が対象となるように表現を変更」と明記されました。
つまり「実家が遠い」「体調が悪い」といった条件を証明できないと使えない制度ではありません。休みたい、授乳が不安、赤ちゃんと二人きりの時間が怖い。それだけで申し込む理由になります。
お金の話――自己負担と、国の減免
利用料は市町村が決めるので全国一律ではありません。ただし国が市町村に出す補助金には「利用料減免加算」という枠があり、その基準額は公表されています。
損しないポイント
- 住民税非課税世帯は1回あたり5,000円の減免加算(令和4年度〜)。それ以外のすべての世帯も1回あたり2,500円の減免加算(令和5年度〜)が国の基準額として用意されています。自治体が制度を入れていれば、その分だけ自己負担が下がります。
- だから確認するのは「利用料はいくらですか」だけでは足りません。「減免はありますか」まで聞く。窓口で減免の適用漏れが起きることがあります。
- 産後ケア事業として行われるサービスは消費税が非課税です(令和3年度から)。提示された金額に消費税が上乗せされることはありません。
- 申し込みは妊娠中から受け付ける自治体が多い。産後に申請してから審査を待つと、いちばんしんどい時期を過ぎてしまいます。母子健康手帳を受け取るときに一緒に聞いておくのが最短です。
- 令和6年度から支援の必要性が高い人を受け入れる施設への加算(1人あたり日額7,000円)が新設されました。断られやすかったケースほど、受け入れ側にお金がつく方向に変わっています。
産後にもらえるお金は産後ケアだけではありません。出産育児一時金や出産手当金、育児休業給付との関係は出産でもらえるお金の一覧にまとめています。妊娠がわかった段階からの手続き全体は妊娠がわかったらやることリストが入口です。
申し込みの流れと、動くタイミング
手続きの細部は自治体ごとに違いますが、骨組みはほぼ共通です。窓口はこども家庭センター(旧・子育て世代包括支援センター)や保健センターで、母子保健の担当者が受け付けます。
図解2|妊娠中から産後1年までの時間軸
妊娠中(母子健康手帳の交付時が最適)
自治体の産後ケアの有無・タイプ・料金・減免・上限回数を確認する。この時点で事前申請できる自治体が多い。里帰りの予定があるならここで相談する。
申請 → 面談・アセスメント
保健師・助産師が状況を聞き取り、必要なケアの内容を組み立てます。ここで遠慮して「大丈夫です」と答えると回数が減ることがあります。困っていることは具体的に伝えます。
利用決定 → 施設の予約
委託先の病院・助産所へ日程を予約します。分娩が集中する時期は埋まりやすいので、退院前に押さえておくと安心です。
産後〜1年以内に利用(原則7日以内)
7日は連続でなくてもよく、宿泊2泊+通所3回のように分けて使えるのが一般的です。上限の数え方は自治体に確認します。
利用後の振り返りと、次の支援へ
令和6年10月改定のガイドラインで、利用終了後の振り返りと今後の支援への連携が明記されました。必要なら継続的な訪問や相談につながります。
出典:こども家庭庁「産後ケア事業について」および「産後ケア事業ガイドライン」(令和6年10月改定)をもとに編集部が作成。手続きの詳細は市町村により異なります。
パターン別・うちの場合はどうなる
相談窓口で実際に詰まりやすい4つのパターンです。制度の建て付けが変わったことで、以前より道が開けているものがあります。
図解3|よくある4パターンの分岐
里帰り出産で、住民票の市町村と滞在先が違う
原則は住民票のある市町村の事業を使います。ただし令和7年4月から、市町村の区域を超えた広域的な調整を都道府県が担うことが基本指針に位置づけられました。里帰り先の施設を使える取り決めがある地域が増えています。妊娠中に、住民票の自治体へ「里帰り先で使えますか」と先に聞くのが正解です。
上の子(きょうだい児)を預ける先がない
ガイドライン改定できょうだい児がいる場合の記載が追加され、令和7年度概算要求では兄姉や生後4か月以降の児を受け入れる施設への加算が盛り込まれました。受け入れ可の施設は増える方向です。難しい場合はアウトリーチ型(自宅訪問)が現実的な選択肢になります。
医療的ケアが必要な赤ちゃん
令和6年10月のガイドライン改定で医療的ケア児についての記載が追加されました。受け入れ体制は施設ごとに違うため、こども家庭センターに主治医の情報を伝えたうえで調整してもらいます。
気持ちの落ち込みが強い・眠れない
産後ケアはこども家庭センターが扱う困難事例の受け皿としても位置づけられています。令和6年度からは支援の必要性が高い利用者を受け入れる施設への加算もできました。優先して調整される側なので、遠慮せずそのまま伝えてください。強い落ち込みが2週間以上続く場合は、産婦人科や心療内科の受診もあわせて検討します。
産後ケアが終わったあとの預け先を考える段階になったら、こども誰でも通園制度や保活の進め方が次のステップです。出産・育児まわりの手続き全体は出産・育児ガイドに地図をまとめています。
数字で見る、産後ケアのいま
この事業がどれだけ広がったのかを、こども家庭庁の資料から拾います。平成26年度の実施は29市町村でした。それが令和5年度には1,547市町村です。
図解4|産後ケア事業を実施する市町村数の推移
ほぼ全国に広がったと言っていい数字です。ところが同じ資料に載っている産婦の利用率は10.9%。分娩件数に対する利用実人数の割合ですから、10人に9人は使わずに産後1年を終えていることになります。
編集部の見立てはこうです。これは「足りていない」という数字ではなく、「知られていない」という数字だと考えています。窓口が母子保健の担当課で、名前も「産後ケア事業」という行政用語のまま。母子健康手帳と一緒に渡される冊子の中に紛れてしまいがちです。制度側は令和5年度にユニバーサル化し、令和7年度には自治体が計画をつくる対象に格上げしました。使う側が知りさえすれば、いま最も条件が整っているタイミングです。
費用負担の構造も変わりました。令和6年度までは国1/2・市町村1/2でしたが、令和7年度から国1/2・都道府県1/4・市町村1/4になり、市町村の持ち出しは半分になっています。財政が理由で回数を絞っていた自治体には、拡充の余地が生まれた計算です。去年断られた人ほど、今年もう一度聞く価値があります。
現場でつまずくところ
以下は、こども家庭庁の資料とガイドラインの記載から、利用者側が事前に知っておくと違う点を編集部で整理したものです。特定の個人の体験談ではありません。
イレギュラー・現場対応
- 予約が取れない時期がある。委託先は病院や助産所の空きベッドを使うため、分娩が重なると宿泊型が埋まります。第2希望としてデイサービス型・アウトリーチ型も同時に相談しておくと、待たずに済みます。
- 面談で遠慮すると回数が減る。ケアの内容はアセスメントをもとに組み立てられます。「眠れていない」「授乳が痛い」「涙が出る」は、そのまま言葉にして構いません。
- 7日の数え方が自治体で違う。「原則7日以内」は国の枠組みで、宿泊1泊を何日と数えるか、通所・訪問を含めるかは運用差があります。申請時に必ず数え方を確認します。
- 安全対策は施設側の義務になった。令和6年10月の改定で、児の睡眠中のSIDS予防、児を預かる際の留意点、緊急時の協力医療機関の選定、重大事案発生時の対応について、市町村がマニュアルを作成し委託事業者と共有・確認することが明記されました。預ける側も、寝かせ方や緊急時の連絡体制を遠慮なく質問して構いません。
- 「必要な人だけ」と言われたら。令和5年度以降、対象者は「産後ケア事業を必要とする者」でありユニバーサルな事業であることが国の資料で明確化されています。窓口の説明と食い違うときは、こども家庭センターに改めて相談してください。
よくある質問
産後ケアはいつまで使えますか?
産後ケア事業は、母子保健法にもとづき出産後1年以内の母子を対象としています。利用期間は原則7日以内です。実際に何回・何泊まで使えるかは市町村が定めるため、お住まいの自治体の要綱でご確認ください。
里帰り先で産後ケアを使えますか?
原則は住民票のある市町村の事業を利用します。ただし令和7年4月から、産後ケア事業が地域子ども・子育て支援事業に位置づけられ、市町村の区域を超えた広域的な調整を都道府県が行うよう努めることが基本指針に規定されました。里帰り先での利用ができるかは自治体間の取り決め次第なので、妊娠中に住民票のある市町村へ確認してください。
利用料はいくらですか?
利用料は市町村が定めるため一律ではありません。国の補助には利用料減免加算があり、基準額は住民税非課税世帯が1回あたり5,000円、それ以外の世帯が1回あたり2,500円です。自治体が減免を実施していれば、その分だけ自己負担が下がります。窓口では「利用料」と「減免の有無」の両方を確認してください。なお産後ケア事業として行われるサービスは消費税が非課税です。
上の子を連れて行けますか?
施設によります。令和6年10月改定のガイドラインではきょうだい児がいる場合の記載が追加され、令和7年度概算要求では兄姉や生後4か月以降の児を受け入れる施設への加算が盛り込まれました。受け入れ可能な施設は増える方向ですが、現時点では自治体・施設ごとの確認が必要です。難しい場合は自宅で受けられるアウトリーチ型が選択肢になります。
住んでいる市町村に産後ケアがありません。
令和5年度の実施自治体数は1,547市町村ですが、全市町村ではありません。産後ケア事業は令和7年4月から地域子ども・子育て支援事業に位置づけられ、市町村が事業計画で目標事業量を定めることになりました。現時点で実施がない場合も、こども家庭センターに相談すると訪問支援や産前・産後サポート事業など別の支援につながることがあります。まず窓口で「産後に休める支援はありますか」と聞いてみてください。
出典・基準日
- こども家庭庁「産後ケア事業について」(第4回こども家庭審議会成育医療等分科会 資料2-1、令和6年11月20日)
- こども家庭庁「産後ケア事業ガイドライン」(令和6年10月改定)
- 母子保健法第17条の2、子ども・子育て支援法(令和6年法律第47号による改正)
- 教育・保育及び地域子ども・子育て支援事業の提供体制の整備等に関する基本指針の一部改正(概要)
基準日:2026年8月21日。利用料・回数・対象・申込方法は市町村により異なり、変更される場合があります。必ずお住まいの市町村の窓口でご確認ください。この記事は医療行為の助言ではありません。体調に不安があるときは医療機関にご相談ください。
読み終えたら、次に手を動かすこと
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