結論の要点
- 必ずかかるのは収入印紙3,400円(申立手数料800円+登記手数料2,600円)と郵便料。これに戸籍・住民票・診断書の実費を足して、おおむね1万円前後です。
- 高額と言われる鑑定費用は、実際に鑑定が行われた事件が全体の3.4%だけ。行われた場合も10万円以下が85.8%でした(最高裁・令和7年)。
- いつまでに=診断書・戸籍・住民票はいずれも「発行から3か月以内」。集めるのに手間取ると取り直しになります。
- 申立てから2か月以内に71.1%、4か月以内に93.8%が終局。認容(認められた)は95.1%です。
- 本当に効いてくるのは申立て費用より選任後に毎年かかる報酬。後見人の83.6%は親族以外が選ばれています。
「成年後見を使いたいけれど、鑑定で20万円かかると聞いて止まっている」——この相談はとても多いものです。ですが最高裁判所が2026年3月に公表した最新の集計を見ると、その前提はかなり変わっています。この記事は、家庭裁判所の公式案内と最高裁の統計だけを根拠に、実際にいくら・どの順番で・どれくらいの期間かかるのかを、判断材料として整理したものです。(基準日:2026年8月3日)
必ずかかるお金と、かかるかもしれないお金
後見開始の申立てで裁判所に納めるお金は、裁判所の公式案内では次の3つだけです。「鑑定費用」は必要と判断された場合にだけ発生します。
| 項目 | 金額 | 性質 |
|---|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 800円 | 必ずかかる |
| 登記手数料(収入印紙) | 2,600円 | 必ずかかる |
| 連絡用の郵便料(郵便切手または保管金) | 裁判所ごとに異なる | 必ずかかる |
| 診断書・本人情報シート・戸籍・住民票など | 医療機関・自治体ごとの実費 | 必ずかかる |
| 登記されていないことの証明書 | 法務局所定の手数料 | 必ずかかる |
| 鑑定費用 | 実施された事件のうち10万円以下が85.8% | 実施は3.4%のみ |
郵便料は裁判所ごとに額も内訳も違います。裁判所のサイトで「家庭裁判所」の郵便料を確認してください。なお郵便切手ではなく、保管金としてインターネットバンキングやATMから電子納付することもできます(裁判所の案内による)。切手の組み合わせを郵便局で揃える手間を省きたい場合は、この方法が使えるか申立先に確認する価値があります。
鑑定は「実施されたら高い」が、そもそも実施されない
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」によれば、終局した42,674件のうち鑑定が実施されたのは約3.4%(前年は約3.8%)でした。実施された場合の費用は次のとおりです。
鑑定費用の分布(鑑定が実施された事件・令和7年)
出典:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」資料9。合計で10万円以下が85.8%。
つまり「鑑定で10万〜20万円」という説明は実施された3.4%の中の、さらに一部の話です。鑑定が必要かどうかは家庭裁判所が診断書などをもとに判断するため、申立て前に自分で決められるものではありませんが、費用の見積もりを鑑定ありきで立てて断念するのは、判断材料としては偏っています。
時系列でやること(申立てを決めてから登記まで)
STEP1・2〜4週間
主治医に診断書を、担当のケアマネジャーなど福祉関係者に本人情報シートを依頼する。書式は裁判所のサイトからダウンロードして渡す。
STEP2・1〜2週間
本人の戸籍謄本・住民票、後見人候補者の住民票、登記されていないことの証明書を集める。いずれも発行から3か月以内のもの。
STEP3・1〜2週間
通帳の写し・残高証明・不動産登記事項証明書・年金額決定通知書・施設利用料の領収書など、財産と収支の資料を揃える。
STEP4・申立ての直前
申立書一式を作成し、収入印紙800円+2,600円と、申立先の裁判所が指定する郵便料を用意する。
STEP5・申立て日
本人の住所地の家庭裁判所に申立てる。入手できない戸籍などは、申立後に追加提出でも差し支えないとされています。
STEP6・申立て後
参与員が申立人から説明を聴いたり、家庭裁判所調査官が本人や後見人候補者に会ったりします。ウェブ会議で行われることもあります。
STEP7・必要な場合のみ
鑑定(実施は3.4%)。実施された場合、期間は1か月以内が52.6%、2か月以内までで約89%。
STEP8・2か月以内に71.1%
審判。認容が95.1%。確定後に法務局へ登記され、以後は登記事項証明書で後見人であることを証明します。
知らないと損する・時間を失うポイント
先に知っておきたい4つ
- 「登記されていないことの証明書」は本局でしか出ません。裁判所の案内では、東京法務局後見登録課または全国の法務局・地方法務局の本局で発行するものとされています。近所の支局・出張所へ行って出直しになるのは典型的なつまずきです。
- 3か月の有効期限は「診断書・戸籍・住民票」すべてに効きます。診断書を先に取ってから戸籍集めに手間取ると、診断書の取り直しになります。取得の順番は「戸籍・住民票 → 診断書」が安全です。
- 本人情報シートは自分では書けません。ケアマネジャーや相談支援専門員など、本人の生活を知る福祉関係者に依頼します。依頼から受け取りまで2週間前後かかったという声は、体験談で多く語られます。
- マイナンバーが記載された書類は提出しないよう、裁判所が明示しています。住民票を取るときは「個人番号なし」で請求してください。
あなたの場合はどうか(パターン別)
親族が後見人になるつもりがある場合
候補者の住民票も必要になります。ただし令和7年の統計では、後見人等に親族が選ばれたのは16.4%で、83.6%は司法書士(33.5%)・弁護士(24.9%)・社会福祉士(20.4%)などの専門職でした。候補者を書いてもそのとおりに選ばれるとは限らない点は、申立て前に家族で共有しておくべきことです。
本人に頼れる親族がいない・親族が遠方の場合
申立人の内訳では市区町村長申立てが23.7%(10,139件)を占め、本人(24.8%)に次ぐ規模です。親族が動けない事情があるときは、本人の住む市区町村の高齢福祉担当や地域包括支援センターに相談すると、市区町村長申立ての可能性を検討してもらえます。
不動産の売却や相続手続のために急いでいる場合
申立ての動機は、預貯金等の管理・解約が93.4%、身上保護74.2%、介護保険契約45.7%、不動産の処分36.3%、相続手続25.6%です。ただし審判までは2か月以内に71.1%、4か月以内に93.8%かかります。売買や遺産分割の期日から逆算して、少なくとも3〜4か月前には動き出すのが現実的です。
本人の判断能力がまだ十分にある場合
後見開始は「判断能力が欠けているのが通常の状態」の方が対象です。まだ意思決定ができるうちなら、任意後見契約や家族信託という選択肢が先に来ます。違いは家族信託と任意後見の比較で整理しています。
現場で起きがちなこと
公的な資料には書かれていないものの、体験談として繰り返し語られるのが次のような場面です(事実関係は各自でご確認ください)。
- 診断書を書いてもらう医師が「後見用の診断書は書いたことがない」と戸惑うことがある。裁判所の「成年後見制度における診断書作成の手引」を印刷して一緒に渡すと話が早い。
- 郵便切手を指定された組み合わせ(500円が何枚、110円が何枚…)で揃える必要があり、郵便局で在庫がなく複数店舗を回ることがある。保管金での電子納付が使えるか先に聞くほうが早い。
- 本人の財産資料を集める段階で、家族の誰も把握していなかった口座や保険が出てくる。通帳が見つからない金融機関があると、そこだけ残高証明の取得で数週間ずれ込む。
- 候補者に親族を立てたのに専門職が選ばれ、家族が納得できないまま制度が始まってしまう。選任に対する不服申立ては原則できないため、申立て前に家族間で合意を作っておくことが最大の予防策になります。
相場観と、編集部としての見方
ここは制度の説明ではなく、判断材料としての整理です。専門家に申立てを依頼すれば当然費用はかかりますが、申立て自体は本人・配偶者・四親等内の親族が自分でできる設計になっており、家庭裁判所には手続案内もあります。
堅実に済ませたい人は、ここまで
本人の財産が預貯金中心で、親族間に対立がなく、候補者も決まっている——この条件が揃うなら、自分で申立てて実費(おおむね1万円前後)で完結させるのが素直です。書式と記載例は裁判所のサイトにあり、個別の手続案内を設けている家庭裁判所も全国に34庁あります。
確実性にお金を払う価値があるのは、ここから
①親族の間で誰が後見人になるかで意見が割れている ②不動産の売却や遺産分割が絡み、期限が決まっている ③本人の財産構成が複雑で、収支資料を自力で揃えられない——このいずれかに当てはまるなら、専門家への依頼を検討する実益があります。逆に言えば、そこに当てはまらないのに「鑑定が高いらしい」という理由だけで断念しているなら、前提から見直す余地があります。
そしてもうひとつ。総額で効いてくるのは申立て費用ではなく、選任後に毎年かかる後見人の報酬です。専門職が選ばれるのが83.6%、さらに監督人がついた事件も3.4%あります。制度は本人が亡くなるまで続くのが原則なので、「今の1万円」より「これから毎年」で考えるのが実務的です。制度そのものの使いどころは成年後見制度の使いどころで整理しています。
まず見るべき公式の入口
裁判所の後見ポータルサイトに、制度の概要・申立書の書式・記載例・診断書の手引がまとまっています。郵便料と個別の取扱いは申立先の家庭裁判所のページで必ず確認してください。
よくある質問
成年後見の申立て費用は、結局いくら用意すればいいですか?
裁判所に納めるのは収入印紙800円(申立手数料)と2,600円(登記手数料)、それに裁判所ごとに定められた郵便料です。加えて診断書の作成料、戸籍・住民票、登記されていないことの証明書の実費がかかります。鑑定が実施されなければ、合計はおおむね1万円前後に収まる例が多くなります。
鑑定費用は必ずかかりますか?
いいえ。最高裁判所の令和7年の集計では、鑑定が実施されたのは終局事件全体の約3.4%です。実施するかどうかは家庭裁判所が判断します。実施された場合でも、費用は10万円以下が85.8%を占めています。
申立てから審判までどれくらいかかりますか?
令和7年に終局した42,674件のうち、1か月以内が37.9%、2か月以内までで71.1%、4か月以内までで93.8%でした。6か月を超えたものは1.9%です。ただし書類集めの期間は含まれていないため、動き出しからは3〜4か月みておくと現実的です。
申立てが認められないことはありますか?
令和7年の終局42,674件のうち、認容が約95.1%、却下は125件(約0.3%)でした。残りの約4.6%は取下げや本人の死亡による当然終了などです。
費用は誰が払うのですか?
申立てにかかる費用は原則として申立人が負担します。鑑定が必要になった場合の鑑定費用についても、裁判所は「申立人にこの鑑定に要する費用を負担していただくことがあります」と案内しています。本人の財産から支出できるかどうかは事案により扱いが異なるため、申立先の家庭裁判所に確認してください。
後見人には必ず親族がなれますか?
いいえ。令和7年に選任された後見人等のうち親族は16.4%で、83.6%は専門職などの親族以外でした。申立書に親族の候補者を記載しても、家庭裁判所が本人の財産の内容や必要な援助の内容に応じてふさわしい方を選びます。
関連する記事
出典
- 裁判所「後見開始」(申立費用・必要書類・手続の流れ)
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」(2026年3月公表・鑑定/審理期間/終局区分/後見人の内訳)
- 裁判所「後見ポータルサイト」
本記事は2026年8月3日時点の公表情報にもとづく一般的な整理です。個別の取扱いは申立先の家庭裁判所により異なります。専門家による監修は受けていません。
