まず結論:何を・いつまでに・いくら
- 何を:口座は「銀行が死亡を知った時点」で凍結される。当面の支払いが足りないなら遺産分割前の払戻し制度(仮払い)を使う
- いくら:預金額×1/3×自分の法定相続分。ただし1金融機関あたり150万円が上限(民法909条の2)
- いつまでに:仮払い自体に期限はない。ただし相続放棄は3か月以内で、放棄を検討中なら仮払いは使わないのが安全
- 何が要る:被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、相続人全員の戸籍、払戻しを受ける人の印鑑証明書
- 時間の目安:戸籍集めに2〜4週間、銀行の審査に1〜3週間。急ぐなら戸籍の広域交付で1か所にまとめて請求する
親や配偶者が亡くなったあと、多くの人が最初につまずくのが「銀行口座が使えない」という壁です。葬儀費用も、施設の精算も、家賃も待ってくれません。この記事は、凍結される仕組み・いくらまで引き出せるか・そのために何を集めるかを、公的機関の情報をもとに編集部が時系列で整理したものです。基準日は2026年7月27日です。
時系列でみる「お金が動かせるようになる」までの道のり
- 亡くなった直後
銀行にはまだ連絡していない状態
役所への死亡届と銀行の凍結は連動しません。銀行が死亡を知るまで口座は動きます。ただし勝手に引き出すと、あとで相続放棄ができなくなるおそれがあります。まずは通帳・キャッシュカード・銀行名の一覧を作ることに集中します。
- 〜7日
死亡届の提出と、戸籍集めの開始
死亡届は死亡を知った日から7日以内。同時に、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍の請求を始めます。ここが所要時間の大半を占めます。
- 〜2週間
銀行へ連絡し、口座が凍結される
各銀行の相続専用ダイヤルに連絡します。この時点で入出金・口座振替・ATMがすべて止まります。公共料金の引き落とし口座になっていると未払いが発生するため、引き落とし先の付け替えを並行して進めます。
- 〜1か月
仮払い(遺産分割前の払戻し)を請求する
必要書類がそろえば、相続人が単独で請求できます。上限は1金融機関あたり150万円。銀行の審査に1〜3週間かかるのが一般的です。
- 〜3か月
相続放棄を選ぶかどうかの判断期限
借金の有無がはっきりしないうちは、仮払いに手をつけない判断もあります。3か月は「相続の開始を知った時から」で、延長を家庭裁判所に申し立てることもできます。
- 〜10か月
遺産分割協議と、口座の解約・名義変更
分割方法が決まれば、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書で口座を解約します。相続税の申告期限は10か月です。
仮払い制度でいくら引き出せるのか
仮払いでいくら引き出せる?(法定相続分1/2の場合)
計算式は「相続開始時の預貯金額(口座単位)×1/3×その相続人の法定相続分」。上限150万円は法務省令で定められた額で、標準的な生計費や平均的な葬儀費用を勘案して設定されたものです。
注意したいのは、計算の基準が口座ごとで、かつ上限が金融機関ごとに150万円という二段構えになっている点です。預金が大きくても、1行から一度に引き出せるのは150万円までです。
必要書類と、取り寄せの段取り
| 必要なもの | 入手先 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍・除籍謄本 | 市区町村役場 | 転籍が多いと本籍地ごとに請求が必要。ここで2〜4週間かかる |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 市区町村役場 | 疎遠な相続人がいると連絡自体に時間がかかる |
| 払戻しを受ける人の印鑑証明書 | 市区町村役場 | 発行から6か月以内(銀行により3か月以内)。取り直しになりやすい |
| 通帳・キャッシュカード・証書 | 自宅 | ネット銀行は通帳がない。メールやアプリから口座を洗い出す |
| (任意)法定相続情報一覧図の写し | 法務局 | 交付は何枚でも無料。手続き先が複数あるなら作った方が早い |
知らないと損する・詰まるポイント
知らないと損する・詰まるポイント
- 戸籍は1か所でまとめて取れる:2024年3月1日から戸籍証明書の広域交付が始まり、本籍地以外の市区町村の窓口でも全国の戸籍をまとめて請求できます。ただし窓口で本人が請求する必要があり、郵送・代理人請求は対象外。戸籍の附票も対象外です。
- 法定相続情報一覧図は無料で何枚でも:法務局で交付を受ければ、銀行ごとに戸籍一式を出し直す必要がなくなります。銀行・証券・不動産と手続き先が複数あるなら、ここで数週間の短縮になります。
- 引き落とし口座の付け替えを忘れない:凍結されると電気・ガス・通信・家賃の引き落としが止まります。銀行に連絡する前に、何が引き落とされているかを通帳で確認しておくのが実務上のコツです。
- 勝手に引き出すと相続放棄ができなくなることがある:故人の預金を引き出して使うと、相続を単純承認したとみなされる場合があります。借金の有無が不明なうちは動かさないでください。
あなたの場合はこう:状況別の進め方
配偶者や子がいて、葬儀費用だけ用意したい
仮払いの上限150万円は、平均的な葬儀費用を賄える水準として設計されています。1金融機関で足りるなら、家庭裁判所の手続きは不要です。まず取引の多い1行で請求するのが最短です。
兄弟姉妹が複数いて、話がまとまっていない
仮払いは他の相続人の同意なく単独でできます。ただし受け取った額は「遺産の一部分割で取得した」とみなされ、あとの取り分から差し引かれます。何にいくら使ったかの領収書は必ず残してください。
150万円では足りない(施設費・未払医療費が大きい)
上限を超える分は家庭裁判所の仮分割の仮処分になります。これは遺産分割の調停・審判の申立てが前提で、必要性を疎明する資料が要ります。月単位の時間がかかるため、立替えと併用する前提で考えます。
借金があるかもしれない/相続放棄を検討中
仮払いは使わないでください。引き出して費消すると単純承認とみなされるおそれがあります。3か月の熟慮期間内に、まず債務の調査を優先します。
ネット銀行が中心だった
通帳がないため口座の存在自体に気づきにくいのが最大の落とし穴です。メール、スマホのアプリ、確定申告書類、クレジットカードの引き落とし先から逆算して洗い出します。
現場でつまずくところ
体験談で多く語られる「現場のつまずき」
- 戸籍が想像以上に集まらない。結婚・転居で本籍を何度も動かしている人は珍しくなく、1つ前の本籍地に請求→さらに前へ、を繰り返すことになります。郵送だと1往復で1〜2週間。広域交付が使えるなら窓口へ行った方が早いという声が多く聞かれます。
- 印鑑証明書の有効期限切れ。書類をそろえている間に6か月(銀行によっては3か月)を過ぎ、取り直しになったという話は頻出です。印鑑証明は最後に取るのが定石とされます。
- 銀行ごとに書式も窓口も違う。相続専用の受付センターに郵送するタイプ、支店に来店予約が必要なタイプなど対応はばらばらです。銀行が3行あれば3通りの段取りになります。
- 「凍結前に下ろしておけば」と言われたが従わなかったという判断を後から評価する声も多くあります。単純承認や他の相続人との紛争リスクを考えると、仮払い制度を正面から使う方が安全という整理です。
※この項目は個人のブログ・体験記で繰り返し語られる内容を編集部が要約したものです。制度そのものの数値・期限は下部の出典(公的機関)で確認しています。
自分でやるか、頼むか — 費用感と判断材料
自分でやるか、頼むか — 編集部の判断材料
銀行の相続手続きは、司法書士・行政書士・信託銀行の遺産整理サービスなどに依頼できます。ただし遺産整理業務は財産額に対する料率制が一般的で、預金が大きいほど費用も膨らみます。依頼先は「上のプラン」を勧める動機を持っている、という前提で見比べるのが公平です。
堅実に済ませたい人はここまで
相続人が配偶者と子だけ/銀行が1〜2行/もめていない、なら自分でやりきれる範囲です。かかるのは戸籍・印鑑証明の実費(数千円程度)と、窓口へ行く時間だけ。法定相続情報一覧図(無料)を先に作ると一気に楽になります。
手間を買いたい人はここまで
相続人が兄弟姉妹まで及ぶ/前妻の子がいる/不動産や証券もある/平日に窓口へ行けない、なら専門家に依頼する価値があります。この場合も「戸籍収集だけ」「口座手続きだけ」と部分的に頼む方法があり、まるごと任せるより費用を抑えられます。
迷わず専門家に相談すべきケース
相続人の間で対立がある/借金の有無が不明/相続放棄を検討している。ここは判断を誤ると取り返しがつきません。弁護士・司法書士への相談を優先してください。
※費用は依頼先や財産構成で大きく変わります。当編集部は特定の事業者と提携しておらず、上記は判断材料としての整理です。実際の料金は必ず複数の依頼先に見積りを取って確認してください。
よくある質問
銀行に死亡を伝えなければ、口座は凍結されませんか?
役所への死亡届と銀行の凍結は連動していません。銀行が死亡の事実を知った時点で凍結されます。ただし伝えずに預金を引き出して使うと、相続を単純承認したとみなされ、あとから相続放棄ができなくなるおそれがあります。金融機関への連絡は必要な手続きです。
仮払いで引き出したお金は、あとで返す必要がありますか?
返金の必要はありませんが、民法909条の2により「遺産の一部の分割によって取得したもの」とみなされます。つまり最終的な遺産分割で自分の取り分から差し引かれる扱いです。葬儀費用など相続人共通の支出に充てた場合は、領収書を残して分割協議のときに精算します。
複数の銀行に口座があります。150万円の上限はどう数えますか?
上限150万円は1つの金融機関ごとの枠です。同じ銀行の複数口座は合算して150万円までですが、銀行が異なればそれぞれ別枠で計算します。ただし各口座について「預金額×1/3×法定相続分」の計算式が先に効くため、必ず150万円まで引き出せるわけではありません。
相続放棄を考えています。仮払い制度は使えますか?
制度上は請求できますが、実務的には使わないほうが安全です。故人の預金を引き出して費消すると法定単純承認とみなされ、相続放棄が認められなくなるおそれがあります。相続放棄の期限は原則3か月です。借金の有無がはっきりしないうちは預金に手をつけず、弁護士や司法書士に相談してください。
手続きが終わるまで、だいたいどのくらいかかりますか?
戸籍の収集に2〜4週間、銀行に書類を提出してから入金までに1〜3週間が一つの目安です。相続人が多い場合や本籍地が何度も変わっている場合はさらに延びます。急ぐ場合は、戸籍の広域交付を使って窓口でまとめて請求し、法定相続情報一覧図を先に作るのが最短ルートです。
出典と注意書き
出典(2026年7月27日確認)
- 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html
- 法務省「相続された預貯金債権の払戻しを認める制度について」(資料PDF)https://www.moj.go.jp/content/001278308.pdf
- 法務局「法定相続情報証明制度の具体的な手続について」https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000014.html
- 岡山市「戸籍証明書等の広域交付について」https://www.city.okayama.jp/kurashi/0000056465.html
- 三菱UFJ銀行「口座名義人の死亡後に必要な銀行の相続手続きとは?」(金融機関側の実務・必要書類)https://www.bk.mufg.jp/sonaeru/souzoku/column/006/index.html
本記事は編集部が公的機関の公開情報をもとに整理したものです(専門家監修記事ではありません)。金額・期限・取扱いは金融機関や個別事情で異なるため、実行前に必ず取引金融機関と公的機関の最新情報をご確認ください。
