2026年(令和8年)の年末調整は、例年とまったく違う形になります。基礎控除と給与所得控除が引き上げられたのに、その改正が施行されるのは令和8年12月1日。つまり1月から11月までの給与では減税が一切反映されず、12月の年末調整で1年分をまとめて精算するという構造です。国税庁も「令和8年11月までの給与の源泉徴収事務に変更は生じません」と明記しています。
毎月の手取りは変わらないのに、12月だけ還付額が大きく膨らむ。「計算間違いでは?」と問い合わせが集中しやすい年です。この記事では、何がいくら変わるのか、いつ・どの書類を出せばよいのか、そして年末調整では救われず確定申告が必要になる人を、国税庁のQ&Aに沿って整理します。
基準日は2026年8月20日。数値はすべて国税庁「令和8年度税制改正(基礎控除の引上げ等関係)Q&A」(令和8年5月)および令和8年度税制改正大綱の内容にもとづいています。
この記事の結論
- 施行は令和8年12月1日。11月までの毎月の源泉徴収は改正前のまま、12月の年末調整で一括精算されます。
- 基礎控除は恒久部分62万円+令和8・9年の特例42万円=多くの人で104万円(合計所得489万円以下の場合)。
- 給与所得控除の最低保障額は65万円から74万円へ。
- その結果、給与収入178万円までは所得税がかからない形になりました(住民税・社会保険料の壁は別です)。
- 扶養親族・同一生計配偶者などの所得要件は58万円から62万円へ。給与収入だけなら123万円→136万円が目安になります。
- 新たに扶養に入る家族がいる人は、扶養控除等申告書の「異動月日及び事由」欄に「令和8年12月1日 改正」と書いて出し直す必要があります。
- 11月30日までに最後の給与を受けた人(中途退職・死亡退職・海外転勤など)は年末調整で改正が反映されません。確定申告か更正の請求が必要です。
基準日:2026年8月20日/出典:国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」「同Q&A(令和8年5月)」
なぜ12月にまとめて精算されるのか
令和8年度税制改正では、次の3つが令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税に適用されます。
- 基礎控除の引上げ
- 給与所得控除の最低保障額の引上げと、それに伴う「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」の改正
- 扶養親族等の所得要件の改正
一方、毎月の給与から天引きする金額を決める「源泉徴収税額表」の改正は令和9年1月1日からです。公的年金等の源泉徴収における基礎的控除額の引上げも同じく令和9年1月1日施行。この1か月のズレが、今回の「12月一括精算」を生んでいます。
毎月の天引きは改正前のまま
改正前の源泉徴収税額表で計算します。新たに扶養に入る家族を「扶養親族等の数」に含めてはいけません。
改正の施行日
基礎控除・給与所得控除・扶養親族等の所得要件の改正が効力を持ちます。
年末調整で1年分を精算
改正後の基礎控除額と、改正後の「給与所得控除後の給与等の金額の表」で年税額を計算し、毎月徴収した税額との差額を還付します。
毎月の天引きも新しい税額表へ
令和9年1月1日以後に支払う給与から「令和9年分 源泉徴収税額表」を使用します。
実務側の準備物も遅れて出てきます。改正後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」は「令和8年分 年末調整のしかた」に掲載予定で、公開は令和8年8月末頃とされています。「令和9年分 源泉徴収税額表」も同時期の公開予定です。8月末を過ぎたら国税庁サイトで差し替えを確認してください。
基礎控除104万円・給与所得控除74万円の中身
今回の改正がわかりにくい最大の理由は、基礎控除も給与所得控除も「恒久的な部分」と「期間限定の特例部分」の二層構造になっているためです。大綱でも両者が離れた場所に書かれているため、結局いくらなのかが読み取りにくくなっています。
基礎控除(恒久部分)
| 合計所得金額 | 基礎控除(恒久部分) |
|---|---|
| 2,350万円以下 | 62万円 |
| 2,350万円超 2,400万円以下 | 48万円 |
| 2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円 |
| 2,450万円超 2,500万円以下 | 16万円 |
| 2,500万円超 | 0円 |
基礎控除の特例部分(令和8年・令和9年分)
| 合計所得金額 | 上乗せ額 | 合計(実質の基礎控除) |
|---|---|---|
| 489万円以下 | 42万円 | 104万円 |
| 489万円超 665万円以下 | 5万円 | 67万円 |
| 665万円超 | なし | 62万円 |
合計所得489万円は、給与収入でおよそ665万円に相当します。つまり給与収入665万円くらいまでの人は、実質104万円の基礎控除と考えて差し支えありません。なお特例部分は令和10年分以降、対象が合計所得132万円以下・上乗せ37万円へ絞られる方向で大綱に書かれています。今の104万円は2年限りの姿だという前提で受け止めておくのが安全です。
給与所得控除の最低保障額
恒久部分が65万円から69万円へ4万円引き上げられ、令和8年・9年の特例でさらに5万円上乗せされます。結果として最低保障額は74万円です。国税庁のQ&Aも、配偶者控除等申告書・特定親族特別控除申告書について「給与所得控除の最低保障額が65万円から74万円に引き上げられました」と明記しています。
あわせて、家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例も、必要経費に算入する最低保障額が65万円から69万円に引き上げられました。内職や業務委託の収入がある家族の合計所得を計算するときは、こちらの数字を使います。
「178万円の壁」と「136万円の壁」
基礎控除104万円と給与所得控除74万円を足すと178万円。給与収入178万円までは所得税がかからないことになります。あわせて、扶養親族・同一生計配偶者などの所得要件が58万円から62万円へ引き上げられたため、扶養の側の目安も動きます。
給与収入で見た「壁」の位置(令和8年分)
※給与収入のみの場合の目安。改正前は基礎控除95万円+給与所得控除65万円=160万円、扶養は所得58万円=給与収入123万円。
ただし、これは所得税の壁だけが動いた話です。住民税は別の基準で課税されますし、社会保険の130万円の壁は今回まったく動いていません。「178万円まで働いても大丈夫」と単純に読むと、扶養から外れて保険料負担が発生する事故が起きます。パート・アルバイトの働き方を決めるときは、税の壁ではなく社会保険の壁を基準にしてください。
令和8年分の年末調整でやること(手順)
提出する書類の種類は例年と同じですが、金額の表が差し替わっている点と、扶養に新しく入る家族の申告が加わる点が違います。
令和8年分の様式が改正版か確認する
「基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書」は、控除額の計算表が改正後の金額に修正されています。手元の用紙が改正前のものだと計算が合いません。扶養控除等申告書は裏面の注意事項が改正前の内容のままの場合があると国税庁が注意喚起しています。
家族の合計所得を、改正後の給与所得控除で計算し直す
配偶者や特定親族に給与がある場合、最低保障額74万円を使って合計所得金額を出し直します。この計算を改正前の65万円のままにすると、控除額を取りこぼします。
新たに扶養に入る家族を扶養控除等申告書へ追記する
所得要件が62万円へ上がったことで新たに対象になる家族は、扶養控除等申告書の「異動月日及び事由」欄に「令和8年12月1日 改正」と記載して提出します。原則は12月1日以後最初に給与を受ける日の前日までですが、年末調整までに提出があればその申告に基づいて処理できます。
基礎控除申告書に「改正後の」基礎控除額を書く
合計所得金額に応じた改正後の額(多くの人は104万円)を記載します。ここを従来の額で書くと還付が減ります。
改正後の表で年税額を計算し、差額を還付する
改正後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」で年税額を出し、毎月の徴収税額の合計との差額(過納額)を還付します。12月分の徴収税額で還付しきれない場合は翌月以降の徴収税額から順次差し引きます。
会社側の実務では、書類の提出時期も論点になります。国税庁は「12月1日から提出を受けたのでは年末調整に間に合わない事態も想定されるので、改正を反映した書類を12月1日より前に提出しても差し支えない」と回答しています。11月中に配布・回収して構いません。
損しないポイント:この4つは自分から動かないと戻らない
申告しないと自動では反映されないもの
- 新たに扶養に入る家族。所得要件が62万円へ上がったことで対象になる親・子・配偶者は、扶養控除等申告書を出し直さないと控除されません。
- 19〜22歳の子(特定親族)。改正後の給与所得控除で計算し直すと、特定親族特別控除の額が変わったり、控除対象扶養親族(特定扶養親族)に該当することになったりします。該当が変わった場合は扶養控除等申告書の提出が必要です。
- 年の途中で退職して年末調整を受けていない人。改正後の控除は適用されていないため、確定申告をしないと還付されません。
- 11月30日以前に最後の給与を受けた人(死亡退職・海外転勤で非居住者になった人・休職のまま復職していない人など)。年末調整では改正前の内容で処理されているため、確定申告または更正の請求が必要です。
※源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄が0円の場合は、確定申告をしても還付される税金はありません。
4つめについて、国税庁は令和8年11月30日以前に準確定申告書を提出した人は、令和8年12月1日から令和13年12月1日(月)までに更正の請求を行うことで改正後の控除を受けられるとしています。期限が5年あるとはいえ、こちらから請求しない限り動きません。
パターン別・あなたはどう精算されるか
| あなたの状況 | 精算のされ方 | 確定申告 |
|---|---|---|
| 12月まで在職している会社員 | 12月の年末調整で改正後の控除が適用され、差額が還付される | 不要 |
| 年の途中で退職し年末調整を受けていない | 改正後の控除は適用されていない | 必要 |
| 11月30日以前に最後の給与を受けて年末調整済み | 改正前の内容で年末調整されている | 必要(または更正の請求) |
| 公的年金の受給者 | 12月の年金支払時に、改正後の基礎的控除額で1年分を再計算して精算・還付 | 原則不要 |
| 年金受給者で12月に年金の支払がない | 12月の精算が行われない | 必要 |
| 年金受給者で新たに扶養親族が増える | 所得要件58万円→62万円で新たに扶養に該当 | 必要 |
公的年金の精算対象は、厚生労働大臣が支給する公的年金等、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合、日本私立学校振興・共済事業団などが支給するものです。確定給付企業年金法にもとづいて支給される年金は対象外である点に注意してください。
イレギュラー・現場で混乱しやすいところ
ひとり親控除の38万円は令和8年分では使えない
令和8年度税制改正でひとり親控除の額が35万円から38万円へ引き上げられましたが、この改正は令和9年分以後の所得税に適用されます。国税庁も「令和8年分の年末調整には影響はありません」と明確に回答しています。改正のニュースだけを見て38万円で計算すると誤りになります。
源泉徴収票の様式は変わらないが、法定調書全体は変わる
税制改正に伴う「給与所得の源泉徴収票」の改正はありません。ただし国税システムの更改により、令和8年8月以降、源泉徴収票を含むすべての法定調書の様式が変わります。さらに令和9年1月以後に提出する令和8年分の源泉徴収票は、市区町村へ給与支払報告書を提出していれば税務署への提出が不要になりました(受給者への交付は引き続き必要)。
給与収入220万円未満の人には別枠の計算式がある
令和8年・9年分は、給与の収入金額が69万1,000円以上220万円未満の場合について、給与所得の金額を別に定める特例が置かれました。たとえば収入74万1,000円以上219万1,000円未満なら「収入金額−74万円」、69万1,000円以上74万1,000円未満なら給与所得はなし(ゼロ)です。国税庁が作成する「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」は、この特例を織り込んだ表になる予定とされています。
非居住者の基礎控除は104万円ではなく62万円
基礎控除の上乗せ(基礎控除等の特例)は居住者にのみ適用されます。令和8年中ずっと非居住者だった人の基礎控除は、合計所得2,350万円以下でも62万円です。海外赴任中に国内不動産の所得を申告するようなケースでは、104万円で計算しないよう注意してください。
編集部の見立て:今年の年末調整は「還付額の説明」がいちばんの仕事
この改正は、金額の大きさよりも反映のタイミングが特殊である点に本質があります。毎月の手取りは1円も増えないのに12月だけ大きく戻る。仕組みを知らない人から見れば「今まで取られすぎていたのでは」と映ります。給与担当者にとっては、計算そのものより「なぜ12月だけなのか」を先に説明しておくことが、問い合わせを減らす最大の対策になります。
働く側の実利という点では、注目すべきは104万円より扶養の62万円(給与収入136万円)のほうだと考えます。基礎控除の上乗せは本人の税額を下げるだけですが、扶養の要件緩和は世帯単位で控除が丸ごと増える可能性があるからです。親を扶養に入れられるか、大学生の子のアルバイト収入が新しい枠に収まるか——ここを確認せずに例年どおりの申告書を出すと、控除を丸ごと取りこぼします。
ただし繰り返しになりますが、社会保険の130万円の壁は動いていません。税の壁だけを見て働く時間を増やすと、保険料負担で手取りが減る逆転が起きます。壁の話は「税」と「社会保険」を分けて考えるのが鉄則です。
暮らしに関わる公的な手続きは暮らしの手続きガイドに、固定費の見直しは固定費の見直しガイドにまとめています。
よくある質問
令和8年分の年末調整は、いつもより還付が増えるのですか
多くの人で増えます。基礎控除と給与所得控除の引上げが令和8年12月1日施行で、11月までの毎月の源泉徴収には反映されていないためです。1年分の減税額が12月の年末調整でまとめて精算されます。ただし合計所得や扶養の状況によって金額は変わります。
基礎控除は結局いくらになりますか
恒久部分62万円に、令和8年・9年分の特例が上乗せされます。合計所得金額489万円以下なら42万円が加算されて104万円、489万円超665万円以下なら5万円が加算されて67万円、665万円超は62万円です。合計所得2,350万円を超えると段階的に減っていきます。
扶養に入れる収入の上限はいくらになりましたか
扶養親族・同一生計配偶者などの合計所得金額の要件が58万円から62万円に引き上げられました。収入が給与だけなら、給与所得控除の最低保障額74万円を足した136万円が目安です。ただし社会保険の130万円の壁は変わっていないため、実務上は130万円が先に来ます。
年末調整の書類は12月1日より前に出してよいのですか
差し支えありません。国税庁は、12月1日から書類の提出を受けたのでは年末調整に間に合わない事態も想定されるとして、改正を反映した年末調整関係書類を12月1日より前に提出しても差し支えないと回答しています。
年の途中で退職した場合はどうなりますか
年末調整を受けていない場合、改正後の控除は適用されていません。確定申告をすることで改正後の基礎控除等の適用を受けられます。なお、源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄が0円の場合は、確定申告をしても還付される税金はありません。
年金だけで生活しています。手続きは必要ですか
原則として不要です。令和8年12月の年金支払時に、支払者が改正後の基礎的控除額で1年分の税額を再計算し、既に源泉徴収した税額との精算を行います。還付が生じる場合は年金の支払者から還付されます。ただし12月に年金の支払がない場合や、所得要件の緩和で新たに扶養親族が増える場合は確定申告が必要です。
※本記事は2026年8月20日時点で公表されている国税庁の資料および令和8年度税制改正大綱の内容にもとづく一般的な解説です。個別の税額計算や申告の要否については、勤務先の給与担当部署または所轄の税務署・税理士にご確認ください。
出典
- 国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」
- 国税庁「令和8年度税制改正(基礎控除の引上げ等関係)Q&A」(令和8年5月)
- 国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日 閣議決定)
