結論の要点
- まず何を:保育園の慣らし保育の日程を園と確定し、復帰日を「慣らし終了の翌週」に置く(慣らしは一般に1〜2週間)
- いつまでに:時短勤務を使うなら開始予定日の1か月前までに勤務先へ申出。復帰日そのものより前倒しの締切です
- いくら:時短で賃金が9割以下に下がると、雇用保険から賃金の10%(育児時短就業給付金)。2歳未満の子が対象
- 出し忘れ厳禁:養育期間標準報酬月額特例申出書(将来の年金が減らない)と育児休業等終了時報酬月額変更届(社会保険料が早く下がる)の2枚。どちらも自動では処理されません
育休からの復帰は「保育園が決まったら終わり」ではありません。実際に消耗するのは復帰前後の1か月で、しかもこの時期に出し忘れると数年単位で損をする書類が2枚あります。この記事は、復帰1か月前から復帰4か月目までを時系列で並べ、期限のあるものと、申し出ないと受け取れないお金を先に潰す順番でまとめました。制度の数値はすべて2026年8月2日時点の公的機関の公表内容にもとづいています。
復帰1か月前から4か月目までのタイムライン
復帰の1か月前まで(最優先)
時短勤務・所定外労働の制限(残業免除)を使うなら、開始予定日の1か月前までに勤務先へ申し出ます。あわせて保育園と慣らし保育のスケジュールを確定し、復帰日を決めます。
復帰の2週間前〜(慣らし保育)
慣らし保育は1〜2時間から始めて段階的に延ばすのが一般的で、期間はおおむね1〜2週間。ただし子どもが体調を崩すと延びます。復帰日は慣らし終了の翌週に置いて、緩衝を1週間つくるのが実務的です。
復帰月(育休終了直後)
育児休業給付と社会保険料免除がここで終わります。時短で標準報酬月額が下がる見込みなら、養育期間標準報酬月額特例申出書を勤務先経由で提出。あわせて育児時短就業給付金の手続きを勤務先に依頼します。
復帰後1〜3か月目
この3か月の給与が、社会保険料の計算に使われます。育休終了日の翌日が属する月以後3か月の報酬の平均をもとに、4か月目から標準報酬月額を改定できます(育児休業等終了時報酬月額変更届)。
復帰後4か月目
改定後の標準報酬月額が適用され、健康保険料・厚生年金保険料が実態に合った額に下がります。給与明細の控除額が変わったかを必ず確認してください。
その後(子が3歳・小3まで)
養育特例は子が3歳になる月の前月まで。子の看護等休暇は小学校3年生修了まで、残業免除は小学校就学前まで使えます。「3歳で全部終わり」ではありません。
損しないポイント:申し出ないと動かない3つの手続き
ここを飛ばすと、静かに損が確定します
下の3つは、いずれも本人(または勤務先)が申し出て初めて動く手続きです。会社が自動でやってくれる保証はなく、担当者が制度を知らないケースもあります。復帰前の面談で、この3つの名前を出して確認しておくのが確実です。
①養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置(養育特例)
3歳未満の子を養育する被保険者の標準報酬月額が、養育を始める前の月の標準報酬月額より下がった場合、申出をすると、年金額の計算だけは従前の(高いほうの)標準報酬月額で行われます。保険料は下がったままなので、負担は軽いのに将来の年金は減らない、という一方的に得な仕組みです。
対象期間は養育を始めた月から、子が3歳になる誕生日の前月まで。手続きは「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を勤務先経由で年金事務所へ提出します。申出が遅れた場合でもさかのぼれる余地があるため、「もう復帰して半年経った」という人も、気づいた時点で勤務先か年金事務所に相談してください。
養育特例があるとどうなるか(標準報酬月額30万円→時短で24万円になった場合のイメージ)
※金額は仕組みを示すための例です。実際の標準報酬月額は等級表で決まります。特例を申し出なかった場合、年金額の計算も24万円で行われます。
②育児休業等終了時報酬月額変更届(保険料を早く下げる)
通常、給与が下がっても社会保険料はすぐには下がりません。しかし育児休業等の終了日に3歳未満の子を養育している人は、随時改定の要件を満たさなくても、育休終了日の翌日が属する月以後3か月間に受けた報酬の平均額をもとに、4か月目の標準報酬月額から改定できます。
要件は、(ア)これまでの標準報酬月額と改定後の標準報酬月額に1等級以上の差が生じること、(イ)3か月のうち少なくとも1か月の支払基礎日数が17日以上(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上)であること。通常の随時改定が2等級差を要求するのに対し、1等級で足りるのがこの制度の要点です。支払基礎日数が17日未満の月は平均の計算から除きます。
③育児時短就業給付金(賃金の10%)
2025年4月1日に創設された給付です。2歳未満の子を養育するために時短勤務をする雇用保険の被保険者が対象で、育児休業給付の対象となる育休から引き続いて時短勤務を開始したか、時短開始日前2年間に被保険者期間が12か月あることが要件です。支給額は、支給対象月に支払われた賃金が時短開始時賃金月額の90%以下の場合、その月の賃金額×10%。育児休業給付や介護休業給付を受給している月、高年齢雇用継続給付の対象月は対象外です。
2025年の法改正で「復帰後に使える制度」は広がった
育児・介護休業法は2025年4月と10月に段階的に改正されました。復帰後の働き方に直接効くのは次の4点です。育休前の知識のままだと、使えるはずの制度を取りこぼします。
| 制度 | 改正後の内容 | 対象の子 |
|---|---|---|
| 子の看護等休暇 | 年5日(子が2人以上なら10日)。感染症による学級閉鎖や、入園式・入学式・卒園式などの行事も取得事由に追加。継続雇用6か月未満を除外する規定は廃止 | 小学校3年生修了まで |
| 所定外労働の制限(残業免除) | 対象が「3歳未満」から拡大。フルタイムのまま残業だけを外す選択ができる | 小学校就学前まで |
| 短時間勤務制度 | 1日の所定労働時間を原則6時間とする措置。申出は開始予定日の1か月前まで | 3歳未満 |
| 柔軟な働き方を実現するための措置(2025年10月1日施行) | 事業主は「始業時刻等の変更」「テレワーク等(月10労働日以上)」「保育施設の設置運営等」「養育両立支援休暇(年10日以上)」「短時間勤務制度」から2つ以上を用意する義務。労働者はそのうち1つを選べる | 3歳〜小学校就学前 |
あなたの場合はこう(パターン別の分岐)
時短で復帰する場合
やることが最も多いパターンです。1か月前の申出、養育特例、育休終了時改定、育児時短就業給付金の4点すべてが該当します。特に子が2歳未満なら育児時短就業給付金の対象になり得るので、勤務先の担当者に「育児時短就業給付金の手続きをお願いしたい」と明示的に伝えてください。
フルタイムで復帰する場合
時短をとらなくても、所定外労働の制限(残業免除)だけを請求する手があります。2025年4月から小学校就学前まで使えるようになったため、収入を落とさずに保育園のお迎え時間を守る現実的な選択肢になりました。標準報酬月額が下がらなければ養育特例の実益はありませんが、手当の廃止などで下がるなら該当します。
保育園が決まらないまま復帰日が来る場合
認可保育園に入れず、認可外や一時保育でつなぐケースです。育児休業給付金の延長には不承諾通知など決められた書類と要件があり、2025年4月から審査が厳格化されています。延長の可否は復帰計画そのものを左右するので、先に条件を確認してください(育児休業給付金の延長で詳しく整理しています)。
夫婦のどちらが時短をとるか決めていない場合
育児時短就業給付金も養育特例も、性別を問わず要件を満たせば使えます。「収入の低いほうが時短」と反射的に決める前に、標準報酬月額の等級がいくつ下がるか、残業免除で足りないかを両方で試算してから決めると、世帯の手取りと将来の年金の両方で結果が変わります。
現場で起きること:慣らし保育は計画どおりに進まない
制度の話とは別に、体験談で繰り返し語られる「予定が崩れる型」があります。以下は公的な統計ではなく、復帰経験者のブログや保育関連メディアで多く共有されている傾向として整理したものです。
- 慣らし保育中の発熱・呼び出しは珍しくない。体調を崩して数日休むと、その分だけ慣らしが後ろにずれ、結果として1か月近くかかったという声もあります。
- 入園直後に突発性発疹などにかかるケースもよく語られます。集団生活が始まる時期と重なるためで、「復帰初週にフル出勤できる前提」で予定を組むのは危険です。
- 呼び出しの連絡先を自分だけにしない。園への連絡先登録を配偶者・祖父母も含めた複数にしておくと、初月の消耗がまったく違います。
- 復帰初月に有給が残っているかを先に確認する。子の看護等休暇が無給の会社もあるため、休んだときに何から消化するかを決めておきます。
- 病児保育の登録は「使う前」に済ませる。多くの自治体・施設で事前登録が必要で、熱が出てから申し込んでも当日には間に合いません。
時短かフルタイムか:編集部としての見方
復帰相談では「まず時短」と勧められることが多いのですが、2025年の改正で選択肢が増えた結果、必ずしも時短が最適とは限らなくなりました。押しつけるものではないので、判断材料として3つの目安を置きます。
堅実に、収入をできるだけ落としたくない人
まず残業免除だけを請求し、時短は使わない。標準報酬月額が下がらないため将来の年金にも影響せず、育児時短就業給付金(賃金の10%)で埋まらない目減りも生じません。定時で上がれるかは職場の実態次第なので、上司と業務量の再設計をセットで話すのが前提です。
送り迎えの時間を確実に確保したい人
6時間の時短を使い、養育特例と育児時短就業給付金をセットで必ず申し出る。この2つを出せば、目先の手取り減はいくらか緩和され、将来の年金の目減りは避けられます。逆に、この2つを出さない時短は「損だけを引き受ける時短」になります。
子の年齢が3歳を超えている人
短時間勤務制度の法定義務は3歳未満までですが、2025年10月からは3歳〜就学前について「柔軟な働き方を実現するための措置」が事業主の義務になりました。会社が用意した2つ以上の制度の中から選べるので、就業規則を確認し、テレワークや時差出勤に切り替えられないかを先に聞いてください。
よくある質問
養育特例は、会社が自動で出してくれますか?
いいえ。養育期間標準報酬月額特例は、被保険者本人が申出書を作成し、事業主を経由して年金事務所へ提出して初めて適用されます。会社の担当者が制度を把握していないこともあるため、復帰前面談で「養育期間標準報酬月額特例申出書を出したい」と名称を伝えるのが確実です。
時短にすると社会保険料はいつ下がりますか?
育児休業等終了時報酬月額変更届を提出した場合、育休終了日の翌日が属する月以後3か月間の報酬の平均額をもとに、4か月目の標準報酬月額から改定されます。届出をしないと、原則として次の定時決定(毎年の算定基礎届)まで高い保険料のままになります。
子の看護等休暇は何歳まで、年に何日使えますか?
2025年4月の改正で、対象が小学校3年生修了までに拡大されました。日数は年5日(子が2人以上いる場合は年10日)です。あわせて、感染症による学級閉鎖や、入園式・入学式・卒園式などの行事参加も取得事由に加わり、継続雇用期間6か月未満の労働者を労使協定で除外する規定は廃止されています。
育児時短就業給付金はいくらもらえますか?
支給対象月に支払われた賃金額が育児時短就業開始時賃金月額の90%以下である場合、その月の賃金額の10%が支給されます。対象は2歳未満の子を養育するために時短勤務をする雇用保険の被保険者で、育児休業給付の対象となる育休から引き続いて時短を開始したか、時短開始日前2年間に被保険者期間が12か月あることが必要です。
慣らし保育の期間はどのくらい見ておけばよいですか?
園の方針や子どもの様子によりますが、1〜2時間の短時間から始めて段階的に延ばし、おおむね1〜2週間で通常保育に移行する例が一般的です。ただし体調不良で中断すると延びるため、復帰日は慣らし終了予定日の翌週に置き、1週間の余裕を確保しておくと安全です。自治体や園によって扱いが異なるので、必ず入園予定の園に確認してください。
あなたの体験を聞かせてください
この手続きで「実際はこうだった」「ここでつまずいた」という経験があれば、体験談募集フォームから教えてください。許諾をいただいたものだけ、出所を明示して記事に反映します。
出典(2026年8月2日時点)
- 日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」nenkin.go.jp
- 日本年金機構「育児休業等終了時報酬月額変更届の提出」nenkin.go.jp
- 厚生労働省「育児・介護休業法 改正内容(子の看護等休暇・所定外労働の制限ほか)」mhlw.go.jp
- 厚生労働省「両立支援のひろば/育児・介護休業法のQ&A」ryouritsu.mhlw.go.jp
- 杉並区「保育園の慣らし保育について」city.suginami.tokyo.jp
