結論の要点
- まず決めるのは「試験日」だけ。勉強法より先に受験する回を決め、申込期間をカレンダーに入れる。申込を1日でも過ぎると次は1年後になる試験が多い。
- 働きながらは「1日90分」が現実的な上限。平日60〜90分+休日3〜4時間で、月およそ40〜55時間。600時間級の資格なら12〜15か月の計算になる。
- 難関資格の合格者はむしろ会社員が多い。2025年の社会保険労務士試験(第57回)は合格者2,376人のうち会社員が58.4%、年代は30歳代が32.5%で最多(厚生労働省)。「働きながらは無理」は事実に反する。
- お金は先に確認する。厚生労働大臣の指定講座なら教育訓練給付で受講費用の一部が戻る。受講「前」の手続きが要る類型があり、後から遡って申請はできない。
- 基準日:2026年8月2日時点の公表情報。試験日・受験料・申込期間は毎年変わるため、必ず各試験の公式サイトで最新の実施要領を確認してください。
資格の勉強で最初につまずくのは、教材選びでも勉強法でもなく「時間が取れないまま数か月が過ぎる」ことです。働きながら受験する人にとって本当の敵は難易度ではなく、生活のどこに勉強を差し込むかを決めていないことにあります。
この記事では、試験日から逆算したスケジュールの引き方、1日90分をひねり出す5つの型、残業が多い人・子育て中の人・シフト勤務の人それぞれの現実解、そして「どこまでお金をかけるか」の判断材料を整理します。制度やお金の話は公式情報で裏を取り、勉強時間の目安のように公式統計が存在しないものは、その旨をはっきり書き分けています。
まず「働きながらは無理」という思い込みを外す
難関とされる国家資格でも、合格者の多数派は社会人です。厚生労働省が公表した第57回(2025年)社会保険労務士試験の結果では、受験者43,421人に対して合格者2,376人、合格率5.5%。この合格者の内訳は会社員が58.4%と過半数で、年代別では30歳代が32.5%と最も多くなっています。
第57回(2025年)社会保険労務士試験の結果
もちろん合格率5.5%は厳しい数字です。ただし読み取るべきは「働いている人が受からない試験ではない」という点で、合格者の半数以上は平日フルタイムで働きながら準備しています。差がつくのは才能ではなく、限られた時間をどう固定するかです。
試験日から逆算するタイムライン(12か月前〜当日)
勉強計画は「今日から何をするか」ではなく「試験日から引き算」で作ります。以下は600〜1,000時間規模の試験を1年で狙う場合の標準形です。300時間規模なら各期間をおおむね半分に縮めて読んでください。
12か月前|受ける回を決める
公式サイトで試験日・申込期間・受験料を確認し、申込開始日と締切日をカレンダーに登録する。この時点では教材を買わなくてよい。家族に「この日に試験を受ける」と宣言しておくと、後半の時間確保がはるかに楽になる。
11〜10か月前|教材と講座を決め、給付の要否を確認
独学か講座かを決める。講座を使うなら、その講座が厚生労働大臣指定の教育訓練講座かどうかをここで確認する。類型によっては受講開始前の手続きが必要で、後から遡って申請することはできない。
9〜4か月前|インプット期(全体の約6割の時間)
テキストを一周する期間。この時期に完璧を目指すと必ず終わらない。「わからない箇所に付箋を貼って先へ進む」を徹底し、周回で回収する。平日60〜90分・休日3時間を守れているかだけを管理する。
申込期間(試験の2〜4か月前が多い)|出願する
最重要のタスク。「勉強が間に合っていないから今年は見送る」という判断だけは、申し込んだ後にする。出願していないと受けられないが、出願していれば当日の朝に決めればよい。顔写真の規格や払込方法が指定されている試験もあるため、締切前日ではなく初日に着手する。
3〜1か月前|アウトプット期(過去問と模試)
過去問を年度単位で通して解く。ここで初めて点数を測る。模試は「時間配分の練習」であって実力測定ではないので、判定が悪くても撤退の理由にしない。仕事の繁忙期と重なるなら、この期間に有給を1〜2日置いておく。
2週間前〜前日|詰め込みではなく回収
新しい教材に手を出さない。付箋を貼った箇所と間違いノートだけを回す。受験票・写真・本人確認書類・時計(通信機能のないもの)・昼食を前日夜にまとめる。会場の最寄り駅と所要時間を実際の時刻表で確認する。
試験当日|途中退室しない
手応えがなくても最後まで残る。合格ラインは自分の体感より低いことが多く、体感で「落ちた」と判断して途中退室した人が、実際には合格点に届いていた例は珍しくない。
1日90分を作る5つの型
「時間ができたら勉強する」は、働いている限りほぼ実現しません。すでに固定されている生活動作に勉強をくっつけるのが唯一の現実解です。自分の生活に合う型を1つか2つ選んでください。
型1:出社前カフェ(朝60分)
いつもより1本早い電車に乗り、会社近くの店で始業まで勉強する。自宅で早起きするより成功率が高いのは、家を出る時刻という既存の締切を1本前倒しするだけで済むからです。夜の予定に左右されないのも利点で、残業が読めない職種ほど朝型が向きます。
型2:通勤インプット(往復40〜60分)
電車内は「新しいことを覚える」より「一度見た内容を思い出す」のに向いています。講義音声の倍速再生、一問一答アプリ、自分で撮った間違いノートの写真を見る、の3つで十分。片道30分の通勤なら年間で200時間を超え、これだけで300時間規模の資格の学習量の大半を占めます。
型3:昼休みの25分
昼食後に25分だけ過去問を解く。短いぶん確実に毎日実行でき、「今日はゼロだった」という日を潰せます。連続記録が途切れないこと自体がモチベーションの支えになります。
型4:帰宅後は「30分だけ」と決める
疲れている日の敵は勉強そのものではなく、「2時間やらなければ意味がない」という思い込みです。机に座って教材を開くまでをゴールにすると、実際には30分では終わらず1時間続くことがほとんどです。逆に本当に無理な日は30分でやめてよい、という許可があることで継続します。
型5:休日の午前を丸ごと固定する
土日のどちらか、午前9時〜12時を「予定が入っている枠」として扱う。家族がいる場合は相手にとっての自由時間と交換する形で先に合意しておくと、後ろめたさなく確保できます。週1回の3時間は月12時間、年間で140時間を超えます。
損しないポイント
- 申込期間を逃すと1年待ち。年1回しか実施されない国家試験は多く、勉強の進み具合にかかわらず出願だけは必ず済ませる。
- 教育訓練給付は「申請しないと1円も出ない」。受講費用が対象になるかは講座ごとに決まっており、類型によっては受講開始前の手続きが必須。申し込む前にハローワークで確認する。
- 会社の資格取得支援を確認する。受験料補助や合格報奨金の制度がある職場は珍しくないが、多くは自己申告制で、黙っていれば支給されない。就業規則や社内ポータルを検索してみる。
- 領収書と受験票の控えを捨てない。給付や社内精算の申請時に、受講費用の領収書・修了証明・合格通知の提出を求められることがある。
あなたの場合はこうする(状況別の現実解)
残業が多く、帰宅時刻が読めない
夜に予定を置かない。朝60分+通勤40分+昼25分で平日2時間を確保し、夜はゼロでよい設計にします。夜型の計画は「残業した日=勉強しなかった日」になり、罪悪感で撤退しやすくなります。繁忙期が読めているなら、その月は最初から学習量を半分に見積もって計画に織り込みます。
小さい子どもがいる
まとまった時間は期待できないため、15分単位で成立する教材(一問一答、講義音声、単元が細かく切られた動画)を主軸にします。子どもの就寝後に机に向かう計画は、寝かしつけで一緒に寝てしまう確率が高く、早朝に振り替えたほうが安定します。休日の3時間は、配偶者やパートナーと「相手の自由時間3時間」とセットで交換すると継続しやすくなります。
シフト勤務・不規則勤務
「毎日同じ時間」は成立しないので、時刻ではなく行動に紐づけます。「出勤前の食事のあと」「勤務明けの入浴前」のように、シフトが変わっても順番が変わらない動作に接続する。週単位の合計時間(例:週10時間)だけを管理し、日次のノルマは置きません。
在宅勤務が中心
通勤時間がないぶん有利に見えて、実際は仕事と生活の境界が消えて勉強枠も消えます。始業前の1時間、または終業後すぐの1時間を「通勤の代わり」として固定するのが有効です。可能なら勉強は仕事と別の場所(近所の図書館やカフェ)で行い、場所で切り替えます。
仕事を辞めて勉強に専念すべきか
編集部の見解としては、まずは働きながら1回受験してみることを勧めます。合格者の多数派が会社員である以上、専念しないと届かないと決めつける根拠は乏しく、収入を絶ったことによる焦りは学習効率を下げる方向に働きやすいためです。退職して専念する選択が悪いわけではありませんが、その判断は1回受験して出題の実感を得たあとでも遅くありません。なお、自己都合で退職した場合の生活費・保険料の負担については、別記事で扱っています。
つまずきやすい場面と、その回避法
ここは制度の話ではなく、受験経験を書いたブログやnoteで繰り返し語られている「やってみないと気づかない」部分をまとめたものです。公的な統計があるわけではないため、傾向として読んでください。
テキストを一周し終わらないまま数か月が過ぎる
最も多い脱落パターンです。原因はほぼ例外なく「わからない箇所で止まる」こと。体験談で共通して勧められているのは、理解度6割で先へ進み、周回で埋めるやり方です。1周目に完璧を求めると、多くの人は3分の1あたりで力尽きます。
教材を買い足してしまう
不安になると新しい教材が魅力的に見えますが、合格者の体験談では「1シリーズを3周した」という話のほうが圧倒的に多いのが実情です。買い足しは学習時間を増やさず、むしろ周回数を減らします。買うなら過去問題集を年度分足すだけにとどめるのが無難です。
直前期に仕事が炎上する
試験1か月前に繁忙期が重なるのはよくある話です。体験談で有効とされているのは、試験直前の平日に有給を1〜2日、早めに申請しておくこと。直前に申請すると業務都合で断られやすいため、数か月前に「私用」で押さえておく人が多いようです。
当日の持ち物と会場の想定外
体験談で頻出するのは、会場の時計がない・見えないという指摘です。通信機能のないアナログ腕時計や置き時計は、試験ごとに可否や規格が定められているため、必ず受験案内で確認してください。ほかに、空調が効きすぎて寒い(羽織るものを1枚)、昼食を買う店が会場周辺にない(持参する)、消しゴムは複数持つ、といった話が繰り返し出てきます。
周囲に言うか、黙っておくか
意見が割れる論点です。落ちたときに気まずいので黙る人もいれば、宣言して退路を断つ人もいます。編集部としては、同居する家族には言い、職場では言わないのが折衷案として現実的だと考えます。時間の確保に協力が要るのは家族であり、職場に伝える実利は(会社の支援制度を使う場合を除けば)小さいためです。
どこまでお金をかけるか(相場観と編集部の判断)
資格スクールは、当然ながら上位のコースを勧めてきます。総合コース・答練・直前対策・個別質問対応をすべて付ければ費用は跳ね上がりますが、それが必要かどうかは資格の性質と自分の状況で変わります。判断材料として、学習形態ごとの性格を整理します。金額はスクールや資格によって大きく異なるため、必ず各社の公式サイトで最新の受講料を確認してください。
| 学習形態 | 向いている人 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 独学(市販テキスト+過去問) | 学習量が300時間前後までの試験/過去に近い分野を学んだ経験がある/自分で計画を管理できる | 法改正への対応が自己責任になる。出題範囲の重み付けが分からず、細部に時間を使いすぎる |
| 通信講座(動画+テキスト) | 学習量600時間以上の試験/通勤時間を主戦場にしたい人/勤務時間が不規則な人 | 視聴するだけで勉強した気になりやすい。問題演習の時間を別枠で確保しないと伸びない |
| 通学(教室講座) | 1人だと続かない自覚がある/質問できる相手が必要/勤務時間が固定されている | 通学時間を含めた拘束が大きく、残業や育児と衝突しやすい。欠席が続くと費用が無駄になる |
堅実に済ませたい人はここまで
基本テキスト1シリーズ+過去問題集+(必要なら)法改正の情報だけを補う。学習量が300時間前後の試験なら、この構成で十分に戦えます。使う教材を増やさず、同じものを3周することに費用と時間を集中させます。
確実性を買いたい人はここまで
通信講座の標準コース+直前期の答練・模試。学習量が600時間を超える試験、あるいは初学の分野なら、講座の「どこが重要か」の重み付けを買う価値は大きくなります。一方で、個別質問が無制限に付く最上位コースや、複数年保証のプランは、価格に見合うかを冷静に見たほうがよい部分です。「不安だから上位コース」ではなく「この機能を月に何回使うか」で判断するのが編集部の考えです。
費用を抑える公的な仕組み
厚生労働大臣が指定した講座を受講した場合、雇用保険の被保険者(または離職後一定期間内の方)は教育訓練給付を受けられる場合があります。給付の割合や上限額は講座の類型(一般/特定一般/専門実践)によって異なり、受講開始前の手続きが必要な類型もあります。対象講座かどうかは厚生労働省の「教育訓練講座検索システム」で調べられ、自分が支給要件を満たすかはハローワークで照会できます。制度の詳細は下の関連記事にまとめています。
また、無給の休暇を取ってまとまった学習期間を作る場合には、2025年10月に始まった教育訓練休暇給付金という選択肢もあります。ただし会社に休暇制度そのものがないと使えないため、利用を考えるなら早い段階で就業規則を確認してください。
よくある質問
働きながらだと1日どのくらい勉強すればいいですか?
平日60〜90分、休日3〜4時間が、多くの社会人受験生にとって無理なく続く上限です。この配分だと月40〜55時間、年間で500〜650時間程度になります。必要な学習時間は資格によって大きく異なり、公的な統計はないため各スクールが公表する目安を参考にしつつ、まずは自分が確実に確保できる時間から逆算して受験する回を決めるのが現実的です。
合格率が5%台の試験でも働きながら受かりますか?
厚生労働省の公表資料によれば、合格率5.5%だった第57回(2025年)社会保険労務士試験の合格者2,376人のうち、職業別で最も多いのは会社員で58.4%を占めています。年代別では30歳代が32.5%と最多です。合格率の低さは難易度を示しますが、働きながらの合格が例外的だという意味ではありません。
勉強が間に合っていない年でも申し込むべきですか?
申し込んでおくことを勧めます。年1回しか実施されない試験では、申込期間を過ぎると次の機会は1年後です。出願していれば当日に受験するかどうかを選べますが、出願していなければ選択の余地がありません。受験料は戻らないことが多い点だけ確認したうえで判断してください。
講座費用の補助は受けられますか?
厚生労働大臣が指定した講座であれば、教育訓練給付の対象になる場合があります。給付の割合・上限額は講座の類型によって異なり、受講開始前の手続きが必要な類型もあるため、申し込む前にハローワークで支給要件と手続きを確認してください。対象講座は厚生労働省の教育訓練講座検索システムで調べられます。
仕事を辞めて勉強に専念したほうが有利ですか?
一概には言えません。合格者の多数派が働きながら合格している以上、専念が合格の必要条件とは言えず、収入が途絶えることによる焦りが学習に悪影響を与える場合もあります。判断するなら、まず働きながら1回受験して出題の実感を得てからでも遅くありません。退職後の保険料や住民税の負担は事前に確認しておくことを勧めます。
あわせて読みたい
出典
- 厚生労働省「第57回社会保険労務士試験の合格者発表」(2025年10月1日公表。受験者43,421人・合格者2,376人・合格率5.5%)
- 厚生労働省「社会保険労務士試験の結果について」(合格者の職業別・年齢別構成)
- 厚生労働省「教育訓練給付制度について」
この記事は2026年8月2日時点で公表されている情報をもとに編集部が作成しています。特定の資格や講座を推奨するものではなく、専門家による監修は受けていません。試験日・受験料・申込期間・給付の要件は変更されることがあるため、実際の手続きの前に各試験実施団体および厚生労働省・ハローワークの公式情報をご確認ください。
