補助金の公募要領を読んでいると、加点項目のところで必ず出てくるのが「パートナーシップ構築宣言」です。名前だけを見ると大企業向けの取り組みに見えますが、実際は業種も規模も問わず、委託先が1社もない事業者でも宣言できます。しかも登録は無料です。
問題は日程です。宣言文をポータルサイトに登録しても、公開されるのは登録日の約10日後。加点の判定は「応募締切日前日時点」または「応募締切日時点」で公開されているかどうかで行われるため、締切の直前に登録しても間に合いません。ここを知らずに1点を取り逃す事業者が毎回出ます。
この記事では、宣言で何が得になるのか、いつまでに登録すればよいのか、どこで差し戻されるのかを、経済産業省・中小企業庁の公式情報だけで整理します。内容は2026年9月4日時点で公表されているものです。
この記事の結論
- 宣言は無料。業種・規模を問わず宣言でき、委託事業者が1社もなくても宣言できる。
- 登録から公開までは通常およそ10日。補助金の申請が集中する時期はさらに数日かかる。
- 加点の判定時点は補助金ごとに違う。ものづくり補助金は「応募締切日前日時点」、中小企業新事業進出補助金は「応募締切日時点」。
- 実務上のデッドラインは締切の2週間前。ここから逆算して社内手続きを組む。
- 宣言企業は2026年7月6日時点で10万社。加点は「あると有利」から「無いと差がつく」段階に入っている。
- 監査・検査や違反時の罰則はないが、勧告や排除措置命令を受けると掲載を取りやめられることがある。
パートナーシップ構築宣言とは
パートナーシップ構築宣言は、事業者が「発注者」側の立場から、代表権のある者の名前で、サプライチェーン全体の付加価値向上と大企業・中小企業の共存共栄を目指すことを宣言する取り組みです。2020年5月18日の「未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」で導入が決まり、同年7月10日から宣言企業の掲載が始まりました。
宣言文は2つの柱でできています。
- 1.サプライチェーン全体の共存共栄と、規模・系列等を超えた新たな連携——あらゆる取引を対象にできます。
- 2.「振興基準」の遵守——受託中小企業振興法第3条に規定する振興基準を守ることの表明です。
経済産業省の発表によれば、宣言企業数は2026年7月6日時点で10万社に到達しました。「経済財政運営と改革の基本方針2025」(令和7年6月13日閣議決定)でも、中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画の実行にあたり、価格転嫁・取引適正化の柱の一つとして位置づけられています。政策の重みは年々増しています。
宣言すると何が得になるのか
優遇は補助金の加点だけではありません。税制と融資にも及びます。ポータルサイトが公表している内容のうち、中小企業に関係の深いものを整理しました。
表1:宣言による主な優遇措置(2026年9月4日時点でポータルサイトに掲載の内容)
| 区分 | 制度 | 宣言による扱い |
|---|---|---|
| 補助金の加点 中小企業庁 | ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 | 加点措置。応募締切日前日時点で判定 |
| 中小企業新事業進出補助金 | ポータルサイトで公表している事業者に加点。応募締切日時点で判定 | |
| 中小企業成長加速化補助金 | 採択企業のほとんどが宣言済み。審査上も重要な考慮要素の一つとされている | |
| 税制 | 賃上げ促進税制 | 一定規模以上の企業は、宣言の公表が制度の適用条件 |
| 地域未来投資促進税制 | 特定中堅企業は、宣言と各種要件を満たすことで最大6%の税額控除 | |
| 中堅・中小グループ化税制 | 中堅企業者は、宣言と経営能力の確認等が要件 | |
| 融資 | 日本政策金融公庫 | 令和5年度より宣言関連の融資制度が利用可能 |
| 自治体 | 都道府県・市区町村の独自措置 | 官公需の優先発注、補助金の加点、制度融資の対象化など(例:北海道) |
出典:「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイト「宣言するメリット」(2026年9月4日取得)。このほか経済産業省・総務省・国税庁の個別補助金にも加点措置があります。
誤解されやすい点
賃上げ促進税制について「宣言しないと使えない」と説明されることがありますが、ポータルサイトの記載は「一定規模以上の企業については、宣言を公表していることが制度適用条件となる」です。中小企業向けの賃上げ促進税制の適用条件にはなっていません。自社がどちらの区分かを確認してから判断してください。詳しくは中小企業向け賃上げ促進税制の使い方【2026年版】もあわせてご覧ください。
締切から逆算する日程
この制度でいちばん実務的に重要なのが日程です。ポータルサイトには「通常、登録内容についての修正依頼事項がない場合、ご登録いただいた日の約10日後に公開されます」「補助金等の申請に関連して登録申請が多数集中する時期には、更に数日を要する場合があります」と明記されています。
つまり、公開されて初めて加点の対象になるのに、公開までに10日前後かかる。しかも補助金の締切前は申請が集中するので、まさに必要な時期ほど遅くなります。
図1:応募締切から逆算した宣言のスケジュール
左が早い時期。混雑期はさらに数日の余裕を見てください。
出典:「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイト「登録方法」の公開までの日数をもとに編集部で作図(2026年9月4日取得)。
損しないポイント
宣言は特定の補助金に紐づくものではなく、一度公開されれば以後の申請すべてで使えます。つまり「申請したい補助金が決まってから登録する」のではなく、事業計画を考え始めた時点で先に登録しておくのが正解です。無料で、更新義務も年1回程度のアンケート協力が中心なので、先に取っておくコストはほとんどありません。
登録の手順
ポータルサイトが案内している流れは、準備・登録・公開の3ステップです。実際に手を動かす順に分解すると次のようになります。
- 社内体制と振興基準を確認する
宣言は代表者の名前で行い、登録後は企業名・代表者名を含む宣言文がポータルサイトに公開されます。あわせて受託中小企業振興法に基づく「振興基準」の内容を確認します。
- ひな形と記載要領をダウンロードする
ポータルサイトの「登録方法」ページから、2026年1月版のひな形と記載要領をダウンロードします。注釈ありのひな形も用意されています。
- 宣言文を作成し、赤文字をすべて削除する
ひな形に赤文字で書かれているタイトルのひな形、文中の説明文、(例)などは、PDF化する前にすべて削除します。差し戻しで最も多い箇所です。
- 署名欄を入力し、社内手続きを経てPDF化する
企業名・役職名・氏名・宣言日付はワード等で入力します。手書きは不可で、代表権を有する者の役職名が必須です。個人事業主は氏名だけでは足りず、屋号と役職名を入れます。
- 登録フォームから宣言文をアップロードする
ポータルサイトの「宣言の登録」から企業名・業種などの必須項目を入力し、PDF化した宣言文をアップロードして登録します。登録後、担当者のメールアドレスに受領の通知が届きます。
- 公開を確認し、申請書に宣言のURLを記載する
修正依頼がなければ登録日の約10日後に「登録企業リスト」で公開されます。公開を確認してから補助金の申請書に反映します。宣言文を更新するとURLが変わる点にも注意します。
パターン別の分岐
表2:立場ごとの考え方
| あなたの状況 | 宣言できるか | 注意点 |
|---|---|---|
| 外注先が1社もない小規模事業者 | できる | 「今後、委託事業者との取引が発生した場合として」宣言できるとFAQに明記されています。 |
| 個人事業主 | できる | 署名欄は氏名だけでは不可。屋号と役職名(代表、院長など)を必ず入力します。 |
| 委託事業者以外の取引も対象にしたい | できる | 「中小受託取引以外の企業間取引についても、取引上の立場に優劣がある企業間での取引の適正化を図る」と追記して宣言できます。 |
| すでに宣言済みで代表者が交代した | 更新が必要 | 登録ページから「更新」を選び新しいPDFをアップロード。既存の宣言日の下に更新日を併記します。 |
| 社名を変更した | 事前連絡が必要 | 連絡なく更新すると旧社名が重複して残る可能性があるため、更新前に事務局へ連絡します。 |
| ひな形が改正された | 更新が推奨 | 宣言後の対応として「ひな形が改正された際の宣言の更新」が挙げられています。現行は2026年1月版です。 |
イレギュラー・現場でつまずきやすいところ
1.赤文字の消し忘れ
ポータルサイトの「よくある間違い」の筆頭に挙げられているのがこれです。ひな形に赤文字で入っているタイトルの例、文中の説明文、(例)といった記載は、PDFに変換する前にすべて削除する必要があります。ここが残っていると修正依頼となり、10日のカウントが最初からやり直しになります。
2.署名欄の手書き
企業名・役職・氏名・宣言日付は、ワード等での入力が必須です。押印文化の延長で手書きの署名を入れてしまうと差し戻されます。役職名は「代表権を有する者」であることが分かる表記にします。
3.宣言文を更新するとURLが変わる
公開中の宣言文を差し替えると、宣言文のURLも変わります。補助金の申請書や自社サイトにURLを載せている場合は、更新のたびに貼り替えが必要です。
4.監査はないが、掲載取りやめはある
宣言は自主的な取り組みなので、公的機関による強制的な調査や、内容に違反した場合の罰則はありません。ただし公表要領に基づき、宣言を履行していないと認められるときは掲載が取りやめられることがあります。例として、取適法第10条に基づく勧告、フリーランス法第8条第1項・第2項に基づく勧告、独占禁止法第20条に基づく排除措置命令、振興法第4条に基づく指導・助言・勧奨などが挙げられています。
5.宣言したあとにやることがある
宣言後は、社内外への周知、宣言内容の実行、定期的な見直し、ひな形改正時の更新、登録情報の変更、そして中小企業庁が年1回程度実施するアンケートへの協力が求められます。登録して終わりではありません。
相場観と編集部の価値判断
宣言企業が10万社に達したという数字は、この制度の位置づけが変わったことを示しています。制度が始まった2020年当時は「宣言していると加点で有利になる」取り組みでした。2026年の今は、加点項目の中でも取得コストが最も低い部類——費用ゼロ、書類1枚、審査なし——であるため、事業計画に本気で取り組む事業者はほぼ全員が持っています。相対評価の補助金では、持っていないこと自体が実質的な減点として働きます。
一方で、宣言を「加点のための書類」としてだけ扱うと、後で困ることがあります。宣言文には振興基準の遵守が含まれており、取適法やフリーランス法に基づく勧告を受ければ掲載を取りやめられます。掲載が消えれば、次の申請で加点が取れないだけでなく、取り消された事実が残ります。実務として守れる内容かどうかを、代表者名を入れる前に社内で確認しておくことをおすすめします。
編集部としての実務上の結論は2つです。第一に、補助金を検討し始めた時点で、対象を決める前に登録しておくこと。公開までの10日は、締切が近づいてからでは取り返せません。第二に、登録日と公開日を社内の申請カレンダーに書いておくこと。ものづくり補助金は応募締切日の前日時点、新事業進出補助金は応募締切日時点というように、判定の基準日が制度ごとに違うためです。補助金全体の流れは補助金・助成金ガイド(ハブ)と補助金の交付申請から入金までの流れ【2026年版】で整理しています。
登録前チェックリスト
- 申請予定の補助金の応募締切日を確認した
- 締切の2週間前を登録期限としてカレンダーに入れた
- ひな形が最新版(2026年1月版)であることを確認した
- 赤文字の説明文・(例)をすべて削除した
- 企業名・役職名・氏名・日付をワード等で入力した(手書きなし)
- 個人事業主の場合、屋号と役職名を入力した
- 振興基準の内容を社内で確認した
- 公開後、登録企業リストに自社が載ったことを確認した
よくある質問
パートナーシップ構築宣言の登録に費用はかかりますか?
かかりません。ポータルサイトのひな形のダウンロードから登録・公開まで、費用は発生しません。審査もなく、宣言文の内容が要件を満たしていれば公開されます。行政書士などに作成を依頼する場合はその報酬が別途かかりますが、ひな形と記載要領が公開されているため、自社で作成することは十分に可能です。
登録してから公開までどのくらいかかりますか?
ポータルサイトの案内では、登録内容についての修正依頼事項がない場合、登録した日の約10日後に公開されるとされています。ただし補助金等の申請に関連して登録申請が集中する時期には、さらに数日を要する場合があると明記されています。加点の判定は公開されていることが前提なので、応募締切の2週間前までには登録を済ませておくのが安全です。
外注先が1社もない小さな会社でも宣言できますか?
できます。ポータルサイトのFAQには、パートナーシップ構築宣言は業種・規模を問わず宣言できると明記されています。委託事業者の数が少ない場合はもちろん、委託事業者が1社もない場合にも、今後、委託事業者との取引が発生した場合として宣言することができるとされています。宣言文の「1.サプライチェーン全体の共存共栄と規模・系列等を超えた新たな連携」の取組は、あらゆる取引を対象にできます。
宣言した内容を守れなかった場合、罰則はありますか?
罰則はありません。パートナーシップ構築宣言は自主的な取り組みであり、公的機関による強制的な調査や、内容に違反した場合の罰則は設けられていないとFAQに書かれています。ただし、パートナーシップ構築宣言公表要領に基づき、宣言を履行していないと認めるときは、業所管省庁が中小企業庁を経由して掲載の取りやめを求めることがあります。取適法第10条やフリーランス法第8条に基づく勧告、独占禁止法第20条に基づく排除措置命令などが例として挙げられています。
どの補助金で加点されますか?
ポータルサイトの「宣言するメリット」に掲載されているもののうち、中小企業に関係が深いのは、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金、中小企業新事業進出補助金、中小企業成長加速化補助金です。このほか経済産業省、総務省、国税庁の個別の補助金にも加点措置があります。判定の時点は制度ごとに異なり、ものづくり補助金は応募締切日前日時点、中小企業新事業進出補助金は応募締切日時点とされています。最新の扱いは必ず各制度の公募要領で確認してください。
一度宣言したら、その後は何もしなくてよいですか?
いいえ、いくつか継続的な対応が求められます。ポータルサイトのFAQでは、社内外への宣言の周知、宣言内容の実行、定期的な宣言内容の見直し、ひな形が改正された際の宣言の更新、代表者や担当者などの登録情報が変更になった場合の登録変更、中小企業庁が年1回程度実施するアンケートへの協力が挙げられています。代表者が交代したまま更新していないと、申請時に整合が取れなくなることがあります。
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出典
基準日:2026年9月4日
- 経済産業省「『パートナーシップ構築宣言』の宣言企業数が10万社に到達しました」(2026年7月7日)
- 「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイト「宣言するメリット」(補助金の加点・税制の適用・融資・地域の取組)
- 同ポータルサイト「登録方法」(登録の流れ、記載要領・ひな形 2026年1月版、よくある間違い)
- 同ポータルサイト「FAQ」(Q13 業種・規模、Q14 監査と罰則、Q31 宣言後の対応、Q51 宣言文の変更手順)
- 「経済財政運営と改革の基本方針2025」(令和7年6月13日閣議決定)
本記事は公的機関の公表資料をもとに編集部が整理したものです。加点の有無・判定時点は補助金ごと・公募回ごとに変わるため、申請前に必ず該当する公募要領をご確認ください。宣言の内容に関するお問合せ先は中小企業庁取引課(03-3501-1511)、提出・掲載に関するお問合せ先は(公財)全国中小企業振興機関協会(03-6228-3802)です。
