親や配偶者の遺品を片づけていたら、封をした封筒に「遺言書」と書かれたものが出てきた。このとき最初にやることは、開けることでも、銀行に持っていくことでもありません。家庭裁判所に「検認(けんにん)」を申し立てることです。
検認は、遺言書の中身が有効かどうかを判断する手続きではありません。それでも省略すると、金融機関や法務局が遺言書を受け付けてくれず、相続手続きが一歩も進まなくなります。封を開けてしまうと過料の対象になることもあります。
この記事では、裁判所の公式案内をもとに、検認が要る遺言書と要らない遺言書の分かれ目、申立てから検認済証明書までの実際の流れ、費用の実額、そして「そもそも検認を不要にする」法務局の保管制度(2026年3月に使いやすく改正されました)までを、順番どおりに整理します。
この記事の結論(5行)
- 検認が要るのは、手元にある自筆の遺言書と秘密証書遺言。公正証書遺言と、法務局に預けた自筆証書遺言(遺言書情報証明書)は検認が不要です。
- 封がしてあるものは、絶対にその場で開けない。封印のある遺言書は家庭裁判所で相続人などの立会いのもと開封すると民法で決まっています。
- 申立先は「遺言者の最後の住所地」の家庭裁判所。自分の住所地ではありません。
- 裁判所に納める費用は遺言書1通につき収入印紙800円+郵便料。検認が終わったあとの検認済証明書は1通150円です。
- 山場は費用ではなく戸籍集め。遺言者の出生から死亡までの全戸籍と相続人全員の戸籍が要ります。ここで数週間かかるのが普通です。
基準日:2026年8月22日/出典:裁判所「遺言書の検認」、東京家庭裁判所「遺言書の検認」、法務省「自筆証書遺言書保管制度」
検認とは何か──「有効かどうか」は判断しない手続き
裁判所の説明では、検認は「相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続」とされています。あわせて「遺言の有効・無効を判断する手続ではありません」と明記されています。
つまり検認は、その日の遺言書の状態を裁判所が写真に撮るような手続きです。中身が法律上の要件を満たしているか、本人が書いたのか、認知症のときに書いたのではないか──こうした争点は検認では一切決まりません。争いがあるときは別に遺言無効確認の訴えなどを起こすことになります。
それでも検認が要るのは、検認済証明書がないと遺言の執行ができないからです。不動産の名義変更(相続登記)でも、金融機関の払戻しでも、実務では検認済証明書の付いた遺言書を求められます。「有効性のお墨付き」ではなく「手続きの通行証」だと考えると、位置づけを間違えません。
パターン別・あなたの遺言書に検認は必要か
遺言書には大きく3つの方式があり、さらに自筆証書遺言は「手元にあるもの」と「法務局に預けたもの」で扱いが分かれます。検認の要否は次の表のとおりです。
| 遺言書の種類 | 検認 | 相続人が最初にやること |
|---|---|---|
| 自筆証書遺言(手元・自宅・貸金庫) | 必要 | 開封せず家庭裁判所へ申立て |
| 自筆証書遺言(法務局に保管) | 不要 | 法務局で遺言書情報証明書の交付を請求 |
| 公正証書遺言 | 不要 | 公証役場で謄本を取得してそのまま執行 |
| 秘密証書遺言 | 必要 | 封をしたまま家庭裁判所へ申立て |
出典:裁判所「遺言書の検認」。公正証書遺言のほか、法務局において保管されている自筆証書遺言に関して交付される「遺言書情報証明書」は検認の必要がないと明記されています。
迷いやすいのが「貸金庫に入っていた自筆の遺言書」です。貸金庫は法務局の保管制度とは無関係なので、検認が必要です。銀行で開けてもらった場面でその場で封を切らないよう、事前に「検認前なので開封しない」と伝えておくと安全です。
もう一つ、コピーしか見つからない場合も検認の対象になり得ます。原本の所在を探しつつ、家庭裁判所に事情を相談してください。検認は「原本を提出する」手続きなので、コピーだけでは執行に使えません。
申立てから検認済証明書までの流れ(時系列)
検認は「申し立てて終わり」ではありません。申立て → 期日の通知 → 検認期日に出頭 → 検認済証明書の申請、という4段階です。全体の所要は、戸籍集めから数えるとおおむね1か月半〜3か月を見ておくと現実的です。
STEP 1 当日
遺言書を開封せずに確保する
封がしてある場合は絶対に開けません。金庫や仏壇から出したときの状態のまま保管します。写真を撮っておくと、後で「誰がいつ見つけたか」を説明しやすくなります。
STEP 2 2週間〜2か月
戸籍を集める
遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)と、相続人全員の戸籍謄本を集めます。本籍を転々としている人ほど時間がかかり、ここが全体の所要時間を決めます。
STEP 3 半日
家庭裁判所へ申立て
遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に、申立書と戸籍一式を提出します。収入印紙800円(遺言書1通につき)と連絡用の郵便料を納めます。
STEP 4 申立てから2週間〜1か月
検認期日の通知が届く
裁判所から相続人全員に検認期日の通知が送られます。申立人以外の相続人が出席するかは各人の判断に任されており、全員がそろわなくても検認は行われます。
STEP 5 当日
検認期日に出頭する
申立人が遺言書の原本を持参します。出席した相続人などの立会いのもと、裁判官が封を開け、遺言書を検認します。所要は10〜30分程度が一般的です。
STEP 6 当日
検認済証明書を申請する
検認が終わったら、その場で検認済証明書の申請をします。遺言書1通につき収入印紙150円。これが付いて初めて、相続登記や預貯金の払戻しに使えます。
出典:裁判所「遺言書の検認」(1.概要・4.申立てに必要な費用)、東京家庭裁判所「遺言書の検認」。所要日数は公表値ではなく、公式の手続説明から編集部が組み立てた目安です。裁判所の混み具合によって前後します。
東京家庭裁判所は「遺言書の原本は検認期日当日の提出となります。申立時に提出する必要はありません」と明記しています。申立てのときに原本を郵送してしまうと事故になりかねないので、この点は必ず守ってください。
費用は「800円」では終わらない──実額の内訳
検索すると「検認の費用は800円」と出てきますが、これは裁判所に納める申立手数料だけの話です。実際に財布から出ていくのは、印紙代・郵便料・戸籍の取得費用の合計です。
検認にかかる費用の内訳(編集部の試算)
棒の長さは金額に比例した編集部の作図です。印紙代は裁判所の公表額、戸籍は全部事項証明書450円・除籍謄本および改製原戸籍謄本750円という全国共通の手数料をもとに、遺言者の戸籍を除籍・改製原戸籍4通+現戸籍2通、相続人3人分を1通ずつと仮定して積み上げました。郵便料は裁判所ごとに異なるため、申立先の家庭裁判所のページで必ず確認してください。
裁判所の案内では、郵便料は保管金として納付することもできるとされ、インターネットバンキングやATMからの電子納付にも対応しています。切手を買いに行く手間が省けるので、遠方から申し立てる人は先に確認しておくと楽です。
なお、司法書士や弁護士に一式を頼むと、戸籍収集と申立書作成の代行として別途報酬がかかります。事務所ごとに公表額が異なるため本記事では相場を断定しませんが、「実費1万円前後+依頼するなら報酬」という二層で予算を見ておくと見積りを読み違えません。
必要書類の山場は戸籍──2024年の広域交付で短縮できる
裁判所が示す標準的な添付書類は、申立書のほかに次の2つが共通で必要です。
検認の申立てに必要な書類(共通)
- 申立書1通(裁判所ウェブサイトの書式)
- 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者の子(およびその代襲者)で亡くなっている方がいる場合は、その方の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
相続人が父母・祖父母(第二順位)や兄弟姉妹・おいめい(第三順位)になる場合は、さらに追加の戸籍が必要になります。詳細は裁判所「遺言書の検認」5.申立てに必要な書類を確認してください。
ここで効いてくるのが、2024年3月から始まった戸籍の広域交付です。本籍地が遠方でも、最寄りの市区町村の窓口でまとめて戸籍を請求できるようになりました。「出生から死亡までの全戸籍」を集めるのに、以前は本籍地ごとに郵送で往復していたことを考えると、検認の準備期間は大きく縮みます。
広域交付でつまずきやすい3点
- 取れるのは本人・配偶者・直系尊属・直系卑属の戸籍だけ。相続人が兄弟姉妹になるケースでは、兄弟姉妹の戸籍を広域交付では取れません。
- コンピュータ化されていない古い戸籍は対象外。明治・大正期の手書き戸籍が残っていると、結局その本籍地に請求することになります。
- 郵送請求と代理人請求はできない。窓口へ本人が顔写真付きの本人確認書類を持って行く必要があります。
東京家庭裁判所は、戸籍謄本等について「3か月以内に発行されたもの」「コピー(写し)を提出していただいても差支えありません」と案内し、あわせて法定相続情報一覧図の写しで代替できる場合があることも示しています。相続登記や預貯金の手続きでも一覧図は使い回せるので、戸籍を集めきったタイミングで法務局に一覧図を申し出ておくと、その後の手続きがまとめて速くなります。
相続の全体像から先に確認したい方は、相続・お葬式ナビと遺産分割協議書の書き方もあわせてご覧ください。遺言書がある場合とない場合で、その後の道筋が大きく変わります。
損しないポイント5つ
ここだけは押さえる
- 封は開けない。撮るだけにする。封印のある遺言書は家庭裁判所で相続人などの立会いのうえ開封すると民法で定められています。良かれと思って開けた一手が、後の争いの火種になります。
- 申立先を間違えない。遺言者の最後の住所地の家庭裁判所です。自分の住所地や、不動産の所在地ではありません。
- 戸籍から先に着手する。申立書は1日で書けますが、戸籍は最短でも数日、遠方が絡むと1か月以上かかります。全体の日程は戸籍で決まります。
- 検認済証明書の申請を忘れない。検認期日に出頭して終わりではありません。150円の印紙で証明書を付けて初めて執行に使えます。当日その場で申請するのが最短です。
- 戸籍を集めたら法定相続情報一覧図もつくる。検認・相続登記・預貯金の払戻しで同じ束を何度も出す手間がなくなります。
イレギュラー・現場対応──よくある3つのつまずき
うっかり封を開けてしまった
民法は、封印のある遺言書を家庭裁判所外で開封した場合などについて5万円以下の過料を定めています。ただし、開封したこと自体で遺言が無効になるわけではありません。慌てて捨てたり書き直したりせず、開けた状態のまま家庭裁判所に持ち込み、事情を正直に伝えて検認を申し立てるのが正しい対応です。隠す・破るといった行為のほうが、相続人の資格を失うといった重大な結果につながります。
相続人が検認期日に来ない・連絡が取れない
裁判所は「申立人以外の相続人が検認期日に出席するかどうかは、各人の判断に任されており、全員がそろわなくても検認手続は行われます」と明記しています。疎遠な兄弟が返事をくれない、海外にいて来られない、といった理由で手続きが止まることはありません。申立人だけは出頭が必要なので、そこだけ日程を確保してください。
遺言書があるのか分からない
自宅を探しても出てこないときは、まず公証役場の遺言検索システムで公正証書遺言の有無を照会し、次に法務局に遺言書保管事実証明書を請求します。どちらも「無い」と分かれば、自筆の遺言書が別の場所にある可能性を探す段階に移ります。
注意:検認を待たずに動いてよいこと・いけないこと
葬儀費用の精算や、死亡届・年金の手続きは検認を待つ必要がありません。一方で、遺言書にもとづく不動産の名義変更や預貯金の払戻しは、検認済証明書がないと受け付けられないのが実務です。「動けるもの」と「止まるもの」を分けておくと、待ち時間を無駄にしません。死亡直後の手続きは死亡届と火葬許可証の出し方にまとめています。
検認を「要らなくする」唯一の方法──2026年に使いやすくなった保管制度
ここまでの手間をまるごと消せるのが、法務局の自筆証書遺言書保管制度です。法務局に預けた遺言書について交付される「遺言書情報証明書」は検認が不要で、相続人は家庭裁判所を経由せずに手続きへ進めます。書く側が生前に一度動くだけで、遺された側の1〜3か月が消えるという構造です。
この制度は2026年に入って続けて使いやすくなりました。法務省の公表によると、2026年2月2日からオンライン手続の試行範囲が拡大し、保管申請の提出書類を電子メールで事前チェックできる遺言書保管所が39都道府県・68か所まで増えています。さらに2026年3月2日公布・施行の省令改正で、次の3点が変わりました。
書き方そのものは遺言書の書き方と法務局の保管制度で詳しく扱っています。財産の分け方まで踏み込まない備忘であればエンディングノートで足りますが、不動産や預貯金の分け方を決めたいなら遺言書、そして預けるところまでが1セットです。
相場観と編集部の価値判断
検認は「安いが遅い手続き」です。裁判所に納めるお金は印紙950円と郵便料だけで、実費の合計でも1万円前後に収まります。一方で、戸籍集めから検認済証明書まで1か月半〜3か月を要し、その間は遺言書にもとづく名義変更が一歩も進みません。金額ではなく時間を失う手続きだ、というのが実感に近いはずです。
この時間は、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)や、相続放棄の期限(同3か月)と並走します。とくに相続放棄を検討している場合、検認の結果を待っていると3か月の熟慮期間が先に来ます。検認と放棄はまったく別の手続きなので、迷いがあるなら検認と並行して家庭裁判所に放棄の相談をしてください。判断材料は相続放棄の判断と手続きにまとめています。
そしてもうひとつ。この記事を「書く側」として読んでいるなら、結論はひとつです。自筆の遺言書を家に置いておく理由は、もうほとんどありません。法務局に預ければ検認は不要になり、2026年の改正で預ける側も請求する側も手続きが軽くなりました。手数料は保管申請1件3,900円です。遺された家族の1〜3か月と1万円を、3,900円で買えると考えると、判断は難しくないはずです。
よくある質問
遺言書の検認にはどのくらい時間がかかりますか。
戸籍集めから検認済証明書の取得まで、おおむね1か月半から3か月が目安です。申立て後に相続人へ検認期日が通知され、期日は申立てから2週間から1か月後に指定されるのが一般的です。全体の所要を決めるのは戸籍の収集で、遺言者が本籍を何度も移していると1か月以上かかることがあります。
検認をしないとどうなりますか。
遺言の執行には検認済証明書が付いていることが必要になるため、不動産の名義変更や預貯金の払戻しといった手続きが進みません。また、遺言書の保管者や発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後に遅滞なく家庭裁判所へ提出して検認を請求しなければならないと民法で定められています。
遺言書を開封してしまいました。遺言は無効になりますか。
開封したこと自体で遺言が無効になるわけではありません。ただし封印のある遺言書を家庭裁判所外で開封した場合などには5万円以下の過料が定められています。開けた状態のまま家庭裁判所に持参し、事情を説明して検認を申し立ててください。破棄したり隠したりする行為はより重い結果につながります。
検認の費用は誰が払うのですか。
申立てをする人が納めます。裁判所に納めるのは遺言書1通につき収入印紙800円と連絡用の郵便料で、検認済証明書は1通につき収入印紙150円です。戸籍の取得費用も申立人の負担になりますが、相続人どうしの話し合いで相続財産から精算することは可能です。
相続人全員が出席しないと検認はできませんか。
できます。裁判所は、申立人以外の相続人が検認期日に出席するかどうかは各人の判断に任されており、全員がそろわなくても検認手続は行われると案内しています。ただし申立人は遺言書の原本を持参して出頭する必要があります。
公正証書遺言でも検認は必要ですか。
必要ありません。公正証書遺言のほか、法務局において保管されている自筆証書遺言に関して交付される遺言書情報証明書についても検認は不要です。これらは公証役場や法務局で証明書を取得すれば、そのまま相続手続きに使えます。
あなたの体験を聞かせてください
この手続きで「実際はこうだった」「ここでつまずいた」という経験があれば、体験談募集フォームから教えてください。許諾をいただいたものだけ、出所を明示して記事に反映します。
出典・参考
- 裁判所「遺言書の検認」(申立人・申立先・費用・必要書類)
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html - 東京家庭裁判所「遺言書の検認」(戸籍の有効期限・法定相続情報一覧図・原本は当日提出)
https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/yuigonsyo/index.html - 法務省「自筆証書遺言書保管制度」およびお知らせ(2026年2月2日・2026年3月2日)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html - 法務省「法務局における遺言書の保管等に関する省令の一部を改正する省令」(令和8年法務省令第8号)の概要
本記事は2026年8月22日時点の公表情報にもとづく編集部の整理です。手数料や運用は変わることがあり、また個別の事情によって必要書類が追加される場合があります。実際の申立てにあたっては、申立先の家庭裁判所の案内を必ずご確認ください。本記事は法律相談ではありません。
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