この記事のポイント
- 遺言書は紙とペンがあれば自分で作れます。ただし全文・日付・氏名を手書きし押印することが必須で、1つ欠けると無効になります(民法968条)。
- 書いた遺言書は法務局に3,900円で預けられます(自筆証書遺言書保管制度)。紛失・改ざんを防げて、相続開始後の家庭裁判所の検認が不要になります。
- ただし保管制度には用紙のルールがあります。A4・片面のみ・上5mm/下10mm/左20mm/右5mmの余白を空けること。余白に文字が1字はみ出しただけで預かってもらえません。
- 申請は遺言者本人が法務局へ行く必要があり、代理も郵送もできません。予約は必須です。
- 手書きが難しい・法務局へ行けない場合は公正証書遺言が現実的です。費用は財産額で変わり、1,000万円を1人に相続させる場合で3.3万円程度が目安です。
遺言書は「お金持ちが書くもの」と思われがちですが、実際に困るのは財産が少ない家です。分けるものが預金と自宅だけだと、かえって割り切れず話がまとまりません。この記事では、自分で書く遺言書(自筆証書遺言)の要件と、それを法務局に3,900円で預ける制度の手順を、公式情報をもとに順番どおりに整理しました。基準日は2026年7月30日です。
全体の流れ|遺言書を残すまでの手順
遺言書を残すまでの流れ(自筆証書遺言+法務局保管)
財産と相続人を書き出す
不動産・預貯金・保険・借入をメモにする。だれに何を渡すかを決める。ここが決まらないと本文が書けない。
遺言書をA4・片面・余白ありで自書する
全文・日付・氏名を手書きし押印。用紙はA4、片面のみ、上5mm・下10mm・左20mm・右5mmの余白を確保。ホチキス止めと封筒は不要。
保管を申請する法務局を決める
住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所から選ぶ。2通目以降は最初に申請した保管所のみ。
保管申請書を作る
法務省サイトのPDFに入力して印刷する方法が確実。受遺者・遺言執行者、死亡時の通知希望(3名まで)も書く。
本籍入りの住民票の写しを取る
本籍と筆頭者の記載入り、マイナンバーと住民票コードの記載がないもの。戸籍謄本は保管申請では不要。
法務局の予約を取る
予約は必須。電話・窓口・法務省のホームページから。直近の枠は埋まりやすいので日程には余裕を持つ。
本人が来庁して申請する(3,900円)
代理・郵送は不可。遺言書/申請書/住民票の写し/顔写真付き身分証/手数料3,900円分の収入印紙を持参する。
保管証を受け取り、家族に伝える
保管番号が書かれた保管証を受け取る。再発行はできない。写しを家族に渡しておくと相続開始後がスムーズ。
住所・氏名が変わったら変更の届出
遺言者本人や受遺者・遺言執行者の住所氏名が変わったら速やかに届け出る。手数料は無料。放置すると通知が届かないおそれ。
※標準的な進め方の目安です。要件・様式は法務省「自筆証書遺言書保管制度」の案内で最終確認してください。
損しないための注意点
ここを外すと、書いた遺言書が無駄になります
- 「令和8年7月吉日」はNG。日付が特定できないため、その遺言書は無効になります。必ず「令和8年7月30日」のように年月日を書きます。
- 本文をパソコンで打つとNG。財産目録だけはパソコンや通帳コピー・登記事項証明書で作れますが、その場合は目録の全ページに署名と押印が必要です。本文は手書きでなければ無効です。
- 修正液・二重線だけの訂正はNG。訂正した場所を示し、訂正した旨を付記して署名し、訂正箇所に押印まで必要です。手間を考えると書き直すほうが安全です。
- 余白に1字でもはみ出すと預かってもらえません。ページ番号も余白の内側に書きます。法務局の窓口で気づいても、その場では直せず書き直しになることがあります。
- 保管証は再発行されません。紛失しても手続自体は進められますが、保管所と保管番号を調べ直す手間が増えます。写しを家族に渡しておくのが確実です。
自筆証書遺言の要件と、法務局に預けるときの様式ルール
| 項目 | 民法上の要件(自筆証書遺言) | 法務局に預けるときの追加ルール |
|---|---|---|
| 本文 | 全文を遺言者が自書する | 同じ(本文の代筆・PC入力は不可) |
| 日付 | 年月日を特定できる形で自書 | 同じ(「吉日」は不可) |
| 氏名・押印 | 氏名を自書し押印(認印可) | 戸籍どおりの氏名で書く。スタンプ印は避ける |
| 財産目録 | PC作成・コピー添付が可。全ページに署名押印 | 同じ |
| 用紙 | 指定なし(便箋・原稿用紙でも可) | A4サイズ/文字が読みづらい地紋・彩色は不可 |
| 余白 | 指定なし | 上5mm・下10mm・左20mm・右5mm以上を確保し、余白に何も書かない |
| 両面 | 指定なし | 片面のみ。裏面に記載があると不可 |
| ページ番号 | 指定なし | 複数ページなら「1/2」のように総数入りで、余白内に記載 |
| 綴じ方 | 指定なし | ホチキス止めをしない。封筒も不要(無封で提出) |
| 筆記具 | 指定なし | 消えるインクは避け、ボールペン・万年筆を使う |
出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度」03 遺言書の様式等についての注意事項、民法968条(2026年7月30日確認)
費用はどれくらい違うか
自分で書いて法務局に預けるだけなら、かかるのは保管手数料3,900円と住民票の写しの発行手数料(数百円)です。30年預けても追加料金はありません。一方、公証役場で作る公正証書遺言は、渡す財産の額と渡す人数で手数料が変わります。
費用の比較|自分で書いて預けるか、公証役場で作るか
出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度」09 手数料/日本公証人連合会「12 手数料」(公証人手数料令・令和7年政令第263号)をもとに編集部が試算。公正証書は別途、正本・謄本の交付手数料(電子データ各1通2,500円、書面は1枚300円)などがかかります。(2026年7月30日確認)
意外なのは、分ける人数が増えると手数料が上がる点です。手数料は「相続させる/遺贈する人ごと」に計算して合算するため、上のグラフのように5,000万円を2人に分けるケース(6.5万円)が、1億円を1人に渡すケース(6.2万円)より高くなることがあります。
あなたの場合はこう|状況別の選び方
体が動いて、渡し方がシンプルな人
「自宅と預金を配偶者に全部」「兄弟2人で半分ずつ」のように内容が単純で、自分で手書きでき、平日に法務局へ行けるなら自筆証書遺言+法務局保管が費用対効果で優秀です。3,900円で紛失・改ざん・検認の3つのリスクが消えます。
手が不自由、または平日に法務局へ行けない人
保管制度は本人が窓口へ行くことが絶対条件で、職員の出張はありません。足腰が悪い・入院中という場合は使えません。公正証書遺言なら公証人が自宅・病院・施設へ出張できます(日当1日2万円・4時間まで1万円と交通費が別途、病床執務加算がつく場合あり)。手書きが難しい人も、署名だけで済む公正証書が現実的です。
渡し方が複雑、もめる心配がある人
再婚して先妻の子と後妻がいる、子がいない夫婦で配偶者に全部渡したい、事業や農地を1人に集めたい——こうしたケースは公正証書遺言が向きます。法務局は内容の相談には一切応じませんが、公証人は無料で内容の相談に応じ、遺留分や遺言能力までチェックします。
子がいない夫婦の人(見落としやすい)
子がなく親も亡くなっている場合、法定相続では配偶者4分の3・被相続人の兄弟姉妹4分の1になります。兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言書を1枚書いておけば全額を配偶者に残せます。ここは遺言書の効果がいちばん大きい場面です。
内縁のパートナー・長男の妻に渡したい人
婚姻届を出していないパートナーや、亡き長男の妻には相続権がありません。渡したいなら「遺贈する」と書いた遺言書が必須です。推定相続人以外へは「相続させる」ではなく「遺贈する」と書き、保管申請書の受遺者欄にも氏名等を記載します。
当日の現場|体験談で語られる細かいこと
制度の説明だけでは分からない、窓口での実際を体験記から拾いました。事実関係は公式で裏取りし、時間や雰囲気といった感覚的な部分は「体験談で多く語られる内容」として紹介します。
- 所要時間は30分〜1時間ほど。書類の確認と処理に時間がかかるため、予約時間の後ろに別の予定を詰めないほうがよい、という声が多く見られます。
- 収入印紙は待ち時間に館内で買える。書類チェックのあと「処理をするので印紙を買ってお待ちください」と案内される流れが一般的です。法務局内の販売窓口か郵便局で買えます。
- 印鑑を持って行くと安心。軽微な不備はその場で直せることがあるため、遺言書に押した印鑑を持参したという体験談が目立ちます。
- 戸籍謄本は保管申請では不要。法務局は内容に関与せず推定相続人を確認しないためです(相続開始後、相続人が遺言書情報証明書を請求するときは戸籍謄本等が必要になります)。
- 予約枠は数日後から1か月後までで、直近は埋まっていることがある、という報告が複数あります。仕事の都合を含めて逆算しましょう。
- 窓口で最も多いつまずきは「余白」と「本文をPCで打ってしまった」。この2つは書き直しになります。法務局が配布・公開している用紙例をA4で等倍印刷して使うのが安全策です。
- 遺言書の原本は返ってきません。内容を変えたいときは、いったん保管の申請を撤回して書き直し、あらためて申請するのが公式に推奨されている流れです(撤回の手数料は無料)。
相場観と編集部の判断|どこまでお金をかけるか
遺言書は、専門家に頼めば数万円から数十万円の作成報酬がかかります。頼むこと自体は悪くありませんが、相談窓口が無料である事実は知っておいて損がありません。公証人への相談は無料、法務局の手続案内も無料です。
編集部としては、「まず3,900円の保管制度で1通残す」ことを出発点にするのが合理的だと考えます。完璧な遺言書を目指して何年も書かないより、シンプルな1通を残しておくほうが、遺された人の負担は確実に軽くなります。内容が固まってきたら、あとから撤回して公正証書に切り替えることもできます。
残された家族はどう受け取るか
保管制度を使うと、相続開始後に相続人などが全国どこの法務局でもデータで遺言書を閲覧し、遺言書情報証明書(1通1,400円)を受け取れます。だれか1人が閲覧または証明書の交付を受けると、他の相続人全員に「関係する遺言書が保管されている」という通知が届く仕組みです。さらに遺言者が希望していれば、死亡の事実が確認された時点で、指定した最大3名に通知が届きます(指定者通知)。
注意点として、遺言書の写しは遺言者の手元に残りません。何を書いたか自分で確認したいときは、閲覧の請求(モニター1,400円/原本1,700円)が必要になります。控えを残したい人は、書き上げた時点でコピーを取っておくと安心です。
あわせて読みたい
- 相続・お葬式の困りごとナビ(まとめ)|相続と葬儀の手続きを期限順に一覧化しています。
- 親が亡くなったらやること一覧|期限と手続きの順番|遺言書が出てきた後の流れはこちら。
- 遺産分割でもめない進め方|遺言書がない場合に必要になる協議の手順です。
- 相続登記の義務化|不動産を渡す遺言を書くなら、登記の3年ルールも確認を。
- 相続税がかかる基準と申告|だれに何を渡すかを決める前の目安に。
- 相続放棄の判断と手続き(3ヶ月期限)|借入がある場合はこちらも。
よくある質問(FAQ)
遺言書はパソコンで作ってもいいですか?
本文はパソコンで作ると無効になります。自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を遺言者が自書し押印することが要件です(民法968条)。ただし財産目録だけは例外で、パソコンで作成したり、通帳のコピーや登記事項証明書を添付する形でも認められます。その場合は、目録の全ページに署名と押印が必要です。
法務局に預けると、遺言の内容もチェックしてもらえますか?
いいえ。法務局(遺言書保管官)が確認するのは、自筆証書遺言の形式に適合しているかという外形的な点だけです。法務省も、遺言の内容に関する相談には応じられず、本制度は保管した遺言書の有効性を保証するものではないと明記しています。内容の相談は、公証人(相談無料)や弁護士などの専門家へ。
自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選べばいいですか?
手書きができて内容が単純、平日に法務局へ行けるなら、自筆証書遺言+法務局保管(3,900円)で足ります。手書きが難しい、法務局へ行けない、渡し方が複雑、もめる心配がある場合は公正証書遺言が向きます。公正証書には証人2名の立会いが必要ですが、適当な人がいなければ公証役場で紹介してもらえます。
法務局に預けた遺言書は、あとから書き直せますか?
書き直せます。ただし預けた原本は撤回しない限り返ってきません。内容を変えたいときは、いったん保管の申請を撤回して原本を返してもらい、書き直してあらためて申請する流れが公式に推奨されています。撤回の手数料は無料です。なお、住所や氏名が変わっただけなら「変更の届出」(手数料無料・郵送も可)で対応します。
遺言書を預けたことを、家族にどう伝えればいいですか?
申請後に受け取る「保管証」の写しを渡しておくのが確実です。保管証には遺言者の氏名・生年月日・保管した法務局の名称・保管番号が記載されています。あわせて、遺言者の住所・本籍・戸籍の筆頭者の氏名を受遺者や遺言執行者に伝えておくと、相続開始後の手続きがスムーズになります。
出典・参考(公式情報)
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度」制度トップ/01 制度とは/02 遺言者の手続/03 遺言書の様式等の注意事項/09 手数料
- 日本公証人連合会「2 遺言」/「12 手数料」(公証人手数料令・令和7年政令第263号)
- 民法968条(自筆証書遺言)、民法969条(公正証書遺言の証人2名)
※本記事は編集部が上記の公式情報をもとに整理したものです。専門家による監修は受けていません。手数料・様式・運用は改定されることがあります。実際に手続きをする際は、必ず上記の公式ページと、申請先の法務局・公証役場で最新の内容をご確認ください。基準日:2026年7月30日。
