家族が亡くなったあと、四十九日が終わったころにふと思い出すのが「亡くなった人の確定申告はどうするのか」です。これを準確定申告といい、期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内。相続放棄の3か月期限のすぐ後ろに控えている、地味だけれど遅れると実損の出る手続きです。
この記事の結論(先に3つ)
| いつまでに | 相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、申告と納税の両方。1〜3月に亡くなって前年分が未提出なら、前年分も同じ4か月以内。 |
| 何を・どこへ | 準確定申告書+「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」を、亡くなった方の死亡当時の納税地の税務署へ。相続人の住所地ではありません。 |
| 最大の落とし穴 | 年金受給者の準確定申告用の源泉徴収票は、死亡届などの手続き後おおむね2〜3か月で発送。4か月の期限に対して、手元で作業できるのは実質1〜2か月しかありません。 |
※本記事は2026年8月3日時点の国税庁・日本年金機構の公表資料に基づいて整理しています。個別の判断は所轄の税務署または税理士にご確認ください。
そもそも準確定申告は必要か(先に切り分ける)
亡くなった方の全員が必要なわけではありません。所得税は1月1日から12月31日で区切って計算しますが、年の途中で亡くなった場合は1月1日から死亡した日までで区切って計算します。その結果、申告義務があるかどうかは生前と同じ基準で判定します。
| 亡くなった方の状況 | 申告義務 | 実務上の判断 |
|---|---|---|
| 給与のみ・勤務先で年末調整相当の処理が済む | 原則なし | 医療費控除や生命保険料控除があるなら還付目的で出す価値あり |
| 公的年金等の収入が400万円以下で、年金以外の所得が20万円以下 | 原則なし | 源泉徴収されていれば還付になることが多い。出さないと戻らない |
| 自営業・フリーランス(事業所得) | あり | 青色申告特別控除65万円はe-Tax等が要件。準確定申告もe-Tax対応済み |
| アパート経営など不動産所得がある | あり | 相続開始後の家賃は相続人の所得。死亡日で線を引く |
| 給与収入2,000万円超、または副業所得20万円超 | あり | 生前に申告が必要だった人は準確定申告も必要 |
| 1〜3月に亡くなり、前年分の確定申告が未提出 | あり | 前年分・本年分の2年分を、どちらも同じ4か月以内に提出 |
義務がないことと、出さなくていいことは別
公的年金等に係る申告不要制度は「申告しなくても違反にならない」という制度であって、「納めすぎた税金が自動で戻ってくる」制度ではありません。年金からは所得税が源泉徴収されており、年の途中で亡くなった方は1年分の控除を使い切らないまま多めに引かれていることがよくあります。義務がなくても、還付申告として出せます。
死亡日から4か月までのタイムライン
準確定申告そのものは1日でも作れます。時間を食うのは書類が揃うまでです。特に年金の源泉徴収票は自分では取り寄せられず、役所と年金事務所の手続きが起点になります。逆算すると次のようになります。
期限 × やること
死亡日〜7日
死亡届を市区町村へ
火葬許可とセットで葬儀社が代行することが多い工程。ここが以降のすべての起点になります。
〜14日
年金受給権者死亡届と未支給年金の請求
準確定申告用の源泉徴収票は、この手続きの後に発送されます。ここが遅れると、そのまま源泉徴収票の到着も遅れます。日本年金機構にマイナンバーが収録されていれば死亡届は省略できる場合がありますが、未支給年金の請求は別途必要です。
〜1か月
自力で集められる書類を先に揃える
勤務先や取引先からの源泉徴収票・支払調書、生命保険料控除証明書、医療費の領収書。医療費は死亡日までに被相続人が支払った分だけが対象なので、領収書を死亡日で2つの束に分けておくと後がラクです。
〜3か月
相続放棄・限定承認の判断期限
準確定申告と並走する期限。相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったことになり、準確定申告の提出義務者からも外れます。放棄を検討中なら先にこちらを固めるのが順序です。
2〜3か月
年金の準確定申告用源泉徴収票が届く
日本年金機構の案内では、死亡届や未支給年金の手続き後おおむね2〜3か月で発送。3か月経っても届かない場合は、亡くなった方の基礎年金番号を用意してねんきんダイヤルへ。
4か月(期限)
準確定申告書+付表の提出と納税
申告だけでなく納税も4か月以内。提出先は亡くなった方の死亡当時の納税地の税務署です。
10か月
相続税の申告期限
準確定申告で納めた所得税は相続税の債務控除に、還付金は相続財産に入ります。準確定申告の結果がそのまま相続税の計算に効いてきます。
損しないポイント:出さないと戻らないお金がある
還付になりやすい3つのパターン
- 年の途中で亡くなった年金受給者:源泉徴収は1年間受給する前提で行われているのに、実際の受給は数か月分。控除を使い切れず納めすぎになっていることがあります。
- 亡くなる前に医療費が大きくかかった:入院・手術で自己負担が膨らんだ年は医療費控除が効きます。ただし対象は死亡の日までに被相続人が支払った分だけです。
- 配偶者控除・扶養控除が使える:適用の判定は死亡の日の現況で行い、控除額の月割計算はしません。年の途中で亡くなっても控除額は満額です。
逆に、期限を過ぎると増えるもの
納税が必要なのに4か月を過ぎると、本来の税額に加えて無申告加算税と延滞税がかかります。税務署の調査の事前通知より前に自分から期限後申告をした場合は5%、事前通知の後・調査による決定を予知する前なら10%(50万円超の部分は15%、300万円超の部分は25%)、調査を受けた後ならさらに重くなります。
なお、法定申告期限から1か月以内に自主的に申告し、税額を全額納付しているなど一定の要件をすべて満たす場合は、無申告加算税がかからない取扱いがあります。気づいた時点でできるだけ早く出すことが、そのまま金額に効きます。
還付金と還付加算金は、税金の扱いが違う
ここは実務でよく取り違えられるところです。国税庁の質疑応答事例では、次のように整理されています。
| 受け取るもの | 税務上の扱い |
|---|---|
| 還付金(本体) | 相続財産にあたり、相続税の課税対象。被相続人の生存中に潜在的な請求権が帰属しており、死亡によって顕在化したものと考えられるためです。 |
| 還付加算金 | 相続財産ではなく、相続人の雑所得。相続人が申告書を提出したことで原始的に取得するものなので、相続税の課税価格には算入されません。 |
逆に、被相続人が生前に確定申告書を提出したあと、還付金の支払決定前に亡くなった場合は、還付加算金も被相続人の潜在的な債権として相続税の課税価格に算入されます。「いつ申告書を出したか」で扱いが変わる、という理解が実務的です。
あなたの場合はこう(状況別の分岐)
相続人が1人だけ
付表は「相続人が複数のときだけ」と思われがちですが、e-Taxで提出する場合は相続人が1人でも付表の提出が必須です。紙で出す場合も、氏名・住所・続柄の記載が必要になります。
相続人が2人以上いる
原則は全員が連署して1通。ただし、他の相続人の氏名を付記して各人が別々に提出することもできます。その場合、提出した人は他の相続人へ申告内容を通知する義務があります。遠方で印鑑が集まらないときの現実的な逃げ道です。
相続放棄を考えている
放棄をすれば準確定申告の義務者からも外れます。3か月の熟慮期間のほうが先に来るので、放棄の判断を先に固めるのが順序として自然です。
還付金を代表者がまとめて受け取りたい
付表とは別に、還付金の受領に関する委任状の提出が必要です。付表を出しただけでは代表者の口座には振り込まれません。
遺産分割がまだ決まっていない
準確定申告は遺産分割の結論を待つ必要はありません。所得税の計算は死亡日で確定しており、分割協議とは別の手続きです。先に片づけて構いません。
亡くなったのが1〜3月
前年分の確定申告がまだなら、前年分・本年分の2年分を提出します。期限はどちらも「知った日の翌日から4か月以内」で、前年分に3月15日の期限が別途適用されるわけではありません。
現場でつまずく5つ(先に知っておくと違う)
制度の説明どおりに進まないのが、この手続きの厄介なところです。公式資料で裏が取れる範囲で、実際に手が止まりやすい場面を挙げます。
自分でやるか、税理士に頼むか(編集部としての見方)
準確定申告は「必ず専門家に」と案内されがちですが、内容によって難易度はかなり違います。相談窓口は仕事の性質上まとめて受任したい動機が働くので、まず自分の案件がどのゾーンにあるかを把握してから相談したほうが、話が早く済みます。
難易度の目安(編集部の整理)
※横棒は編集部が「必要な作業量と判断の難しさ」を相対的に示したもので、公的な指標ではありません。
堅実に済ませたい人はここまで
収入が年金と給与だけで、目的が還付なら、税務署の相談窓口を使って自分で出すで足ります。所轄税務署は書き方を教えてくれる窓口です。必要書類を持って早めに予約を取れば、1〜2回で終わる範囲です。
しっかり任せたい人はここまで
事業所得・不動産所得があり、10か月後の相続税申告も見込まれるなら、準確定申告だけを切り出して頼むより相続税申告とセットで見積もるほうが、結果として説明の手間も費用も収まりやすくなります。報酬は事務所と財産規模で幅が大きいので、2〜3か所から見積もりを取るのが基本です。
どちらが正しいという話ではありません。判断材料としては、「4か月の期限に間に合うか」を最優先に置くのが実務的です。自分でやろうとして書類集めに手間取り、期限を過ぎて加算税がつくのが一番もったいない結末です。
まず公式で確認する
様式・記載例・提出先は国税庁のタックスアンサーNo.2022にまとまっています。書き方の個別相談は税についての相談窓口から所轄税務署へ。年金の源泉徴収票についてはねんきんダイヤルが窓口です。
よくある質問
準確定申告をしないとどうなりますか?
納税が必要なのに4か月の期限を過ぎると、本来の税額に加えて無申告加算税と延滞税がかかります。無申告加算税は、税務署の調査の事前通知より前に自主的に期限後申告をした場合は納付すべき税金の5%、事前通知の後で調査による決定を予知する前なら10%(50万円を超える部分は15%、300万円を超える部分は25%)です。ただし、法定申告期限から1か月以内に自主的に申告し税額を全額納付しているなど一定の要件をすべて満たす場合は、無申告加算税はかかりません。なお、還付になる場合は義務ではないため、遅れても加算税はかかりません。
相続人が複数いるとき、全員が1枚の申告書に署名しなければいけませんか?
原則は各相続人が連署して提出しますが、他の相続人の氏名を付記して各人が別々に提出することもできます。その場合、提出した相続人は他の相続人へ申告した内容を通知しなければならないとされています。遠方に住んでいて署名を集めるのが難しいときは、この方法が使えます。
年金の準確定申告用の源泉徴収票が期限に間に合いません。
日本年金機構の案内では、死亡届や未支給年金の手続き後おおむね2〜3か月で発送されます。2〜3か月経っても届かない場合は、亡くなった方の基礎年金番号を用意して、手続きをした本人からねんきんダイヤルへ問い合わせてください。金額が確定しないまま4か月の期限が迫る場合の取扱いは事案ごとに異なるため、所轄の税務署に事前に相談することをおすすめします。
準確定申告で戻ってきた還付金に相続税はかかりますか?
還付金そのものは相続財産にあたり、相続税の課税対象になります。被相続人の生存中に潜在的な請求権が帰属していたと考えられるためです。一方、還付加算金は相続人が申告書を提出したことで原始的に取得するものなので相続財産にはあたらず、相続人の雑所得として所得税の対象になります。
準確定申告書は国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で作れますか?
作れません。国税庁は、確定申告書等作成コーナーからは準確定申告書を作成できないと明記しており、電子申告する場合はe-Taxソフトを利用するよう案内しています。紙で作成して所轄税務署へ提出することも可能です。
亡くなった後に相続人が支払った入院費は、医療費控除に入れられますか?
準確定申告の医療費控除の対象は、死亡の日までに被相続人が支払った医療費です。死亡後に相続人が支払ったものを被相続人の準確定申告で医療費控除の対象に含めることはできません。相続税の債務控除として扱えるかは別途の検討になります。
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- 相続放棄の判断と手続き:準確定申告と並走する3か月の期限。放棄すると準確定申告の義務者からも外れます。
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- 相続税がかかる基準と申告の要否:準確定申告で納めた所得税は債務控除、還付金は相続財産に入ります。
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- 相続・お葬式の手続きガイド:相続とお葬式まわりの記事をまとめたハブページです。
出典(2026年8月3日確認)
- 国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁「所得税及び復興特別所得税の準確定申告のe-Tax対応について」
- 国税庁「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」(PDF)
- 国税庁「No.2024 確定申告を忘れたとき」(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁 質疑応答事例「被相続人の準確定申告に係る還付金等」(令和7年8月1日現在の法令・通達等)
- 日本年金機構「年金受給者が亡くなり手続きをしましたが、どれくらいで準確定申告用の源泉徴収票が発送されますか。」(2025年1月14日更新)
本記事は制度の理解を助けるための情報提供であり、個別の税務判断を行うものではありません。実際の申告にあたっては所轄の税務署または税理士にご確認ください。
