この記事の結論
- 2026年4月1日、改正民法が施行され、離婚後も父母の双方を親権者にできるようになりました。共同親権は義務ではなく、単独親権も引き続き選べます。
- 父母の双方が親権者でも、「監護及び教育に関する日常の行為」は一方が単独で決められます(新民法824条の2第2項)。塾・習い事・通常のワクチン接種・短期間の観光旅行などが該当します。
- 逆に単独では決められないのは、入学・転学・転居・子の氏の変更・養子縁組・財産管理など。転居は同一学区内でも「日常の行為」に当たりません。
- 例外として「子の利益のため急迫の事情があるとき」は単独で行使できます。DV・虐待からの避難、緊急の医療、入学手続の期限が迫っている場面が典型です。
- 施行前に離婚した父母も、家庭裁判所に親権者変更を申し立てれば共同親権に変更できます。手続をしなければ単独親権のままです。申立費用は収入印紙1,200円(子1人につき)+郵便料。
基準日:2026年8月27日/出典:法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕」、同「Q&A形式の解説資料(民法編)」(令和8年4月22日最新改訂)、裁判所「親権者変更調停」
離婚後の共同親権が始まって数か月。実際に父母の双方が親権者になった家庭で、いま最も困りごとになっているのは「制度の是非」ではなく、日々の判断のどこまでを自分ひとりで決めていいのかという線引きです。塾を替えるのに毎回連絡が要るのか。予防接種は。修学旅行は。引っ越しは。
この記事は、法務省と関係府省庁等連絡会議が公表している「Q&A形式の解説資料(民法編)」をもとに、単独で決められる行為と、父母で決める行為を場面ごとに一覧化しました。改正の理念や賛否の議論ではなく、明日の手続で迷わないための線引きだけを扱います。
2026年4月1日に何が変わったのか
改正民法(令和6年法律第33号)は2024年5月17日に成立・同月24日公布され、2026年(令和8年)4月1日に施行されました。改正の柱は親権だけではなく、養育費、親子交流、養子縁組、財産分与にまで及びます。
親権について変わったのは、ひとことで言えば「選択肢が増えた」ことです。改正前は離婚時に父母のどちらか一方を親権者と定めなければなりませんでしたが、改正後は父母の双方を親権者と定めることもできるようになりました。共同親権が原則になったわけではなく、法務省のQ&Aも「どちらが認められやすいということは一概にはいえない」としています。
改正のタイムライン
2024年5月17日
民法等の一部を改正する法律が成立(5月24日公布)
2025年10月31日
施行期日を2026年4月1日とする政令を閣議決定
2025年12月12日
養育費に関する法務省令(令和7年法務省令第56号)が制定・公布
2026年4月1日
改正民法・省令ともに施行。離婚後の共同親権が選択可能に
2026年4月22日
関係府省庁等連絡会議のQ&A(民法編)が最新改訂。施行後の実務論点が反映
出典:法務省の公表資料をもとに編集部作成(基準日 2026年8月27日)
線引きの条文は「新民法824条の2」ひとつだけ
父母の双方が親権者である場合、親権は父母が共同して行うのが原則です。そのうえで、単独で行使できる場合が3つだけ明文化されました。これが新民法824条の2です。
第1項の例外が「父母の一方のみが親権者であるとき」「他の一方が親権を行うことができないとき」「子の利益のため急迫の事情があるとき」。第2項の例外が「監護及び教育に関する日常の行為」。この2つの言葉の中身が分かれば、日々の判断はほぼ迷いません。
法務省のQ&Aは「日常の行為」を「日々の生活の中で生ずる身上監護に関する行為で、子に対して重大な影響を与えないもの」と定義しています。判定の軸は「頻度」ではなく「子に重大な影響を与えるか」です。毎日のことでも重大なら共同、まれなことでも軽微なら単独になります。
場面別に見る、実務で迷いやすい3つの領域
学校 ─ 「参加」は単独、「在籍」は共同
学校まわりは、子どもが今いる学校での日々の活動は単独、学校そのものを変える判断は共同と覚えると整理できます。修学旅行への参加同意は単独でできますが、転学の願書提出は共同です。
父母それぞれから矛盾する意思が学校に示された場合、法務省のQ&Aは、日常の行為については学校がまず父母に事実関係を確認し、協議結果に基づいて対応することが望ましいとし、協議しても一致しないときは子と同居する親が単独で決定できることを踏まえて対応するとしています。日常の行為でない事項については、意見が異なると有効な親権行使がないものとして扱わざるを得ず、学校は特定事項に係る親権行使者の指定の審判を教示することになります。
学校や教育委員会は親権・監護権の情報を知り得る立場にないため、Q&Aは親権者の側から学校へ申告することが望ましいとしています。親権者を変更したときや、監護の分掌を定めたときは、学校へ伝えておくのが実務上の摩擦を減らす近道です。
医療 ─ 「重大な影響」が分かれ目
風邪やぜんそく、アレルギーの治療のように日々の生活の中で生じ、子の心身に重大な影響を与えないものは日常の行為です。通常のワクチン接種も同様です。一方で、生命に関わる医療行為など重大な影響を与えるものは共同行使になります。
緊急の医療が必要で、協議や家庭裁判所の手続を経ていては間に合わない場合は「急迫の事情」に当たります。Q&Aは手術日まで2〜3か月の余裕がある場合は直ちには当たらないが、協議ができないまま手術日が迫っているような場合は当たり得ると示しています。
なお、共同親権下の子の医療について、Q&Aは従前の医療実務に直ちに変更が生じるものではないとしています。病院の同意書の運用が4月を境に一斉に変わったわけではありません。
転居 ─ 距離に関係なく共同行使
もっとも誤解が多いのが転居です。Q&Aは「子の転居は、その移動距離にかかわらず、通常は子の生活に重大な影響を与え得るため、同一学区内の転居も含めて、基本的には日常の行為には該当しない」と明言しています。同じ町内での引っ越しでも共同行使が原則、ということです。
ただしDVや虐待からの避難が必要な場合は「急迫の事情」に当たり、無断で子を連れて転居しても人格尊重・協力義務に違反しません。Q&Aは、この急迫の事情が「現に被害に遭っているときやその直後のみに限られず、加害行為が現に行われていない間も継続し得る」と明示しています。転勤に伴う転居のように避難以外の事情の場合は、協議の状況や相手が同意しない理由などを踏まえて個別に判断されます。
単独で決めてよいかの3ステップ判定
STEP 1
そもそも父母の双方が親権者か。単独親権なら共同行使の問題は生じない(824条の2第1項1号)。
STEP 2
その判断は子に重大な影響を与えるか。与えないなら「日常の行為」として単独で決められる(同条2項)。
STEP 3
重大な影響がある場合でも、協議や家裁の手続を経ていては間に合わないか。間に合わないなら「急迫の事情」として単独で行使できる(同条1項3号)。
3つとも当てはまらないときは、共同で決める事項です。相手に連絡し、返答がないまま期限が迫るなら、家庭裁判所に特定事項に係る親権行使者の指定(824条の2第3項)を申し立てる道があります。
パターン別の分岐 ─ あなたはどれに当てはまるか
A|これから協議離婚をする
離婚届で親権者を定めます。父母の合意で単独親権・共同親権のどちらも選べます。子が複数いるときは子ごとに決めます。合意できなければ調停・審判へ進み、家庭裁判所が子の利益の観点から判断します。
B|2026年3月31日までに離婚済み
自動的には変わりません。単独親権のままです。双方を親権者にしたい場合は、家庭裁判所に親権者変更の調停・審判を申し立てます。裁判所は、これまで子の養育の責任を十分に果たしてきたか、父母相互の人格尊重・協力義務を守ってきたかも考慮します。
C|DV・虐待の懸念がある
新民法819条7項1号・2号に当たるとき、裁判所は必ず単独親権としなければなりません。身体的DVに限らず、精神的・経済的・性的DV等で父母が話し合えない状態も含まれ得ます。診断書などの客観的証拠が必ず必要というわけではなく、諸般の状況が総合的に考慮されます。
D|共同親権にしたが、うまく回らない
単独親権への変更を申し立てられます。共同親権にした後に子が過去の虐待を語ったり、被害を話せるようになったりした場合、前回親権者を定めた時より前の事情でも新たに判明したものは考慮され得ます。特定の事項だけを一方に委ねる「親権行使者の指定」という中間的な選択肢もあります。
イレギュラー・現場対応 ─ 施行後に相談が集まっている場面
相手に連絡したが返事がない。これは施行後に最も多く語られる困りごとです。Q&Aは、事柄の性質や父母間の関係に照らして相当な期間内に反応がない場合には、黙示的な同意があったと評価できる場面も多いとしています。無視されたら何も進められない、という制度ではありません。連絡した日時と内容の記録は残しておくべきです。
署名・押印が両方必要なのか。必要ありません。Q&Aは、共同して行うとは父母の共同の意思で決定されることを指し、一方が他方の同意(黙示でもよい)を得て単独名義で行使する場合も含むとしています。契約書等への一方の署名押印で他方の黙示の同意を推定する従来の実務も変更を求められていません。
相手が無断で決めてしまった。例外事由がないのに一方が無断で子を代理した場合、無権代理として効果は子に帰属しません。ただし「共同の名義」で代理した場合は相手方が悪意でない限り有効(民法825条)、「単独の名義」でも相手方に正当な理由があれば民法110条で保護されます。相手方の学校や事業者に責任を問うのは容易ではない、というのが実務の現実です。
災害時に学校から連絡が来ない。Q&Aは、緊急連絡は事前に登録した緊急連絡先のいずれか一つに連絡すれば足り、親権者全員への連絡が求められるものではないとしています。別居親が安否情報を確実に受け取りたい場合は、父母間で情報共有の方法をあらかじめ取り決めておく必要があります。
注意
親権者が父母のどちらか(あるいは双方か)は子の戸籍に記録されますが、住民基本台帳には記録されません。また、特定事項に係る親権行使者の指定や、監護者・監護の分掌の定めは戸籍に記載されません。家庭裁判所の調停・審判で定めた場合に調停調書・審判書に記載されるだけです。学校や病院に伝えるための書面は、自分で用意して手元に置いておく必要があります。
費用と期間の相場観、そして編集部の価値判断
親権者変更の調停は、収入印紙1,200円(子ども1人につき)と連絡用の郵便料で申し立てられます。郵便料は裁判所ごとに異なるため、申立先の家庭裁判所のページで確認してください。申立先は相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定めた家庭裁判所です。
必要書類は、申立書とその写し1通、申立人・相手方・未成年者それぞれの戸籍謄本、事情説明書(親権者変更)、進行に関する照会回答書。手続の実費だけを見れば数千円ですが、調停は月1回程度のペースで期日が入り、複数回に及ぶのが通例です。実費より、話合いに要する時間と精神的な負荷のほうが大きいというのが正直なところです。
編集部としての価値判断を書きます。いま最も費用対効果が高いのは、共同親権にするかどうかの検討より、「日常の行為」の線引きを父母で先に共有しておくことです。塾・習い事・予防接種・学校行事は一方で決めてよい、転居と入学は必ず二人で決める。この2行を離婚時の取決めに書き添えておくだけで、施行後に相談が集まっている「いちいち連絡するのか問題」の大半は消えます。
もうひとつ。Q&Aは、養育費を長年にわたり合理的な理由なく支払ってこなかった事情は、共同親権への変更が認められない方向に大きく働くと明言しています。共同親権への変更を望む側にとって、養育費の履行実績は感情論ではなく法的な考慮要素です。逆に、共同親権にした後に養育費が止まったことだけを理由に単独親権へ戻せるとは限らない点も、あわせて理解しておくべきです。
関連して、離婚時のお金の分け方は離婚のときの年金分割【2026年版】で、暮らしの手続き全体は暮らしの手続きガイドで整理しています。
よくある質問
共同親権は義務になったのですか。
いいえ。離婚後の親権者を父母双方とするか一方とするかは、個別の事情に即して子の利益の観点から決めるものです。法務省のQ&Aも、新民法819条7項はどちらかを原則・他方を例外と定めたものではなく、どちらが認められやすいとは一概にいえないとしています。単独親権を選ぶことも引き続きできます。
子どもが2人います。1人ずつ違う決め方はできますか。
できます。協議離婚でも裁判離婚でも、未成年の子が複数いるときは子ごとに親権者を決めます。それぞれの子の利益の観点から判断されますが、きょうだいを別々の養育環境に置くことが適切かという点も考慮要素になります。
海外旅行に連れて行くのに、相手の同意は要りますか。
短期間の観光目的の海外旅行は、通常は「監護及び教育に関する日常の行為」に当たるとされており、一方の親権者が単独で決められます。ただし同行者・目的・期間は様々であるため、長期間にわたるものや留学・ホームステイに近い性質のものは共同行使が必要になり得ます。旅券の取得手続など、別の法令で双方の関与が求められる場面がある点にも注意してください。
離婚後に相手が再婚し、その相手と子が養子縁組をするとどうなりますか。
15歳未満の子の養子縁組は親権者が代諾します。共同親権の場合は父母が共同で代諾する必要があります。一方が反対しているときは、特定事項に係る親権行使者を定める審判を申し立てる道がありますが、代諾については子の利益のために特に必要がある場合に限り認められます。縁組が成立すると、養親とその配偶者である実親が共同親権者となり、他方の実親は親権者ではなくなります。
まず読むべき公式情報
制度の全体像と最新の改訂は法務省のページに集約されています。パンフレット(2026年1月改訂)とQ&A(民法編・行政手続支援編)は無料で入手できます。手続の費用・書式は裁判所のページが正確です。
基準日:2026年8月27日。本記事は法務省および裁判所の公表資料に基づく一般的な整理であり、個別の事案の判断を示すものではありません。DV・虐待に関わる場合を含め、具体的な対応は弁護士や配偶者暴力相談支援センター、家庭裁判所にご相談ください。制度は改正・運用変更があり得るため、手続の際は必ず公式ページで最新情報をご確認ください。
