親が亡くなったあと、多くの人が最初に不安になるのが「うちも相続税がかかるのか」です。結論から言うと、相続税がかかるのは正味の遺産額が基礎控除額を超えた場合だけです。そして基礎控除額は、法定相続人の数から自分で計算できます。この記事では、かかるかどうかの判定、10か月という期限、税額をゼロに近づける特例、そして「税理士に頼むべきか」の判断材料までを国税庁の情報をもとに整理しました。
(本記事の基準日:2026年7月28日/編集部が公式情報をもとに整理したものです。個別の判断は税務署または税理士にご確認ください)
まず、この3つだけ押さえてください
かかるかどうか
正味の遺産額が3,000万円+600万円×法定相続人の数を超えるかどうかで決まります。
いつまでに
申告と納税の期限は、死亡を知った日の翌日から10か月以内。1日でも過ぎるとペナルティの対象です。
見落としがち
特例で税額が0円になる場合でも、申告そのものは必要です。黙っていると特例が使えません。
まず判定|基礎控除額を超えるかどうか
相続税は、遺産の全額にかかるわけではありません。国税庁は、正味の遺産額が基礎控除額を超える場合に、その超える部分(課税遺産総額)に対して課税されると説明しています。基礎控除額の計算式は次のとおりです。
基礎控除額=3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
正味の遺産額がこの線を下回れば、相続税はかからず申告も不要です。
ここでいう「法定相続人の数」には注意点が2つあります。ひとつは、相続放棄をした人がいても、放棄がなかったものとして数えること。もうひとつは、養子を数に含められるのは、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までということです。誰が相続人になるかがそもそも不安な場合は、遺産分割でもめない進め方もあわせて確認してください。
「正味の遺産額」は、預貯金・不動産・株式などの遺産総額から、非課税財産・葬式費用・借入金などの債務を差し引き、一定期間内の生前贈与を加えたものです。国税庁は判定用の「相続税の申告要否判定コーナー」をウェブで公開しているので、金額を入力しておおよその要否を確認できます。
いつ・何をする?10か月のタイムライン
左の色は期限の切迫度の目安です(紺→緑→金→赤)。
亡くなった日
ここから10か月のカウントが始まる
正確には「死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」が申告・納税の期限です。通常は死亡の日が起点になります。
〜3か月
相続するか、放棄するかを決める
相続放棄・限定承認の期限は3か月です。借金のほうが多そうなときはここが最大の分岐点になります。
〜4か月
準確定申告
亡くなった人に事業所得や一定の収入があった場合、4か月以内に所得税の準確定申告が必要です。
〜6か月めど
財産の洗い出しと評価、遺産分割協議
預貯金・不動産・保険・負債をすべて洗い出します。不動産は路線価などで評価します。ここが一番時間を食います。
〜10か月
遺産分割を確定させ、申告書を作成
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、原則として申告期限までに分割が済んでいることが前提です。
10か月の期限日
申告書の提出と納税
現金一括納付が原則です。期限を過ぎると無申告加算税・延滞税の対象になります。
死亡直後からの手続き全体は親が亡くなったらやること全ガイドに、3か月の判断は相続放棄の判断と手続きにまとめています。
損しないポイント|申告しないと使えない特例がある
ポイント1 税額が0円でも「申告」は必要
小規模宅地等の特例は、相続税の申告書にその旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付して初めて適用されます。配偶者の税額軽減も同じく申告が前提です。「結果ゼロだから出さなくていい」と考えて申告しないと、特例が使えず本当に税金が発生してしまいます。
ポイント2 自宅の土地は330㎡まで80%減らせる
特定居住用宅地等に該当すれば、330㎡までの部分について相続税の課税価格に算入する価額を80%減額できます。都市部の持ち家では、この一手で基礎控除の枠内に収まるケースが少なくありません。取得者ごとに要件が細かく定められているので、誰が相続するかで結論が変わります。
ポイント3 配偶者は1億6,000万円までゼロになり得る
配偶者が実際に取得した正味の遺産額が1億6,000万円まで、またはそれを超えても法定相続分までであれば、配偶者に相続税はかかりません。ただし、この軽減を使い切って一次相続を乗り切ると、次に配偶者が亡くなったとき(二次相続)に子の負担が跳ね上がることがあります。二次相続まで見て配分を決めてください。
ポイント4 10か月までに分割が終わっていないと、特例が止まる
配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も、原則として申告期限までに遺産が分割されていることが必要です。もめて間に合わない場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えて一旦納税し、分割後に更正の請求で取り戻すという流れになります。手間も資金負担も増えるので、10か月は本当に短いと考えてください。
ポイント5 納税は現金一括が原則
相続税は現金で一括納付が原則です。遺産の大半が不動産だと、税金は出るのに払う現金がないという状況になり得ます。延納・物納の制度はありますが要件があります。不動産が中心の相続では、早い段階で納税資金の見通しを立てておく必要があります。
税額はどう計算されるのか|速算表
相続税は、各人が実際に取得した財産に直接税率をかけるのではありません。課税遺産総額を法定相続分で按分した金額に税率をかけ、それを合計したものが相続税の総額になります。
相続税の速算表(国税庁 No.4155)
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | - |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超〜2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超〜3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超〜6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
国税庁の例では、法定相続人が妻と子2人、課税遺産総額が1億5,200万円の場合、妻7,600万円×30%-700万円=1,580万円、子はそれぞれ3,800万円×20%-200万円=560万円で、相続税の総額は2,700万円になります。ここから配偶者の税額軽減などを差し引いて、実際の納税額が決まります。
あなたの場合はこう|状況別の見立て
| あなたの状況 | どう考えるか |
|---|---|
| 遺産は自宅と預金1,000万円ほど、相続人は子2人 | 基礎控除は4,200万円。自宅の評価額次第ですが、特定居住用宅地等の特例(330㎡まで80%減)が使えると基礎控除内に収まることが多い区分です。ただし特例を使ってゼロにする場合は申告が必要です。 |
| 配偶者がすべて相続する予定 | 配偶者の税額軽減で一次相続の税額は抑えられます。ただし二次相続で子にまとめてかかる可能性があるため、あえて子にも分けたほうが世帯全体では有利になる場合があります。 |
| 相続人の1人が相続放棄した | 基礎控除の計算では、放棄がなかったものとして法定相続人の数を数えます。放棄によって基礎控除が減ることはありません。 |
| きょうだいが疎遠で分割が10か月に間に合いそうにない | 未分割のままだと配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例が使えません。「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えて期限内に申告・納税し、分割成立後に更正の請求をする流れになります。 |
| 亡くなった親が数年前にまとまった額を生前贈与していた | 一定期間内の暦年課税による贈与財産は相続財産に加算されます。加算対象期間は相続開始日によって異なるため、贈与の記録は必ず洗い出してください。 |
| 土地が地方にあり、評価額がよくわからない | 路線価図・評価倍率表が国税庁のサイトで公開されています。判定が微妙な場合は、税務署の相談窓口か税理士に早めに相談したほうが安全です。 |
現場でつまずくのはここ
制度の説明だけでは見えにくい、実際の手続きで時間と気力を奪われるポイントを挙げます(体験談として多く語られる内容を編集部で整理したものです。制度の要件は必ず公式情報で確認してください)。
財産の洗い出しに、思っている3倍の時間がかかる
通帳が見つからない、証券会社がわからない、貸金庫の鍵だけ出てくる——遺産の全体像をつかむ作業が最大の関門です。金融機関ごとに残高証明書を取り寄せる必要があり、1行あたり数日から2週間かかることもあります。10か月のうち半分がここで消える、という声は珍しくありません。手続きのたびに戸籍謄本一式や印鑑証明書を求められるので、最初にまとめて多めに取っておくと後が楽になります。
「うちは関係ない」と思っていたら、土地の評価で超えていた
預貯金だけを見て基礎控除内だと判断していたが、実家の土地を路線価で評価したら想定の倍だった、というケースがあります。とくに都市部や駅近では起こりやすいパターンです。逆に、小規模宅地等の特例を知らずに「超えている」と思い込み、慌てて売却を検討してしまう例もあります。判定の前に、土地の評価と特例の可否をセットで確認してください。
分割がまとまらず、10か月が迫ってから相談に行く
税理士に相談が来るタイミングとして「期限まで残り1〜2か月」が多い、という話は実務家からよく聞かれます。この段階だと引き受け手が見つかりにくく、報酬も割高になりがちです。分割協議が難航しそうだと感じた時点、遅くとも半年の時点で相談先を決めておくほうが結果的に安く済みます。
納税資金を用意していなかった
相続税は現金一括納付が原則です。遺産のほとんどが不動産だと、売却が間に合わず借入で払うことになります。故人の口座は凍結されるため、当座の資金にも困りがちです。この点は故人の口座からの仮払い制度(相続人単独で一定額まで払戻しを受けられる仕組み)もあわせて確認しておくと動きやすくなります。
税理士に頼むべきか|相場観と編集部の見方
相続税申告の税理士報酬に、公的に定められた基準はありません(報酬規程は自由化されています)。実務では遺産総額のおおむね0.5〜1%程度を目安として提示されることが多く、土地の筆数、相続人の人数、非上場株式の有無などで加算されるのが一般的です。この数字は業界で語られる目安であって、公式な基準ではない点に注意してください。
自分でやることも視野に入る場合
財産が預貯金中心で、土地は自宅1か所だけ、相続人が少なく分割ももめていない——この条件がそろえば、国税庁の申告書作成の手引きを使って自分で申告している人はいます。まず税務署の相談窓口で「この内容で自分でやれそうか」を聞いてみる価値はあります。
迷わず専門家に頼んだほうがいい場合
土地が複数ある、貸家やアパートがある、非上場株式がある、二次相続まで見て配分を決めたい、相続人の間で意見が割れている。このいずれかに当てはまるなら、報酬を払っても専門家に入ってもらったほうが、特例の使い方ひとつで報酬を上回る差が出ます。
編集部としては、「かかるかどうか微妙」な段階で有料の依頼を急ぐ必要はないと考えています。まず自分で基礎控除と土地の評価をざっと当ててみて、そのうえで超えそうなら早めに相談する。この順番なら、必要のない費用は避けつつ、期限に追われることも防げます。判断は最終的にご自身の状況次第です。
関連記事
- 親が亡くなったらやること全ガイド|時系列チェックリスト
- 相続放棄の判断と手続き【2026年版】3ヶ月の期限・必要書類・費用
- 遺産分割でもめない進め方【2026年版】期限・4つの分け方
- 相続登記の義務化【2026年版】3年以内に申請しないと10万円以下の過料
- 香典・香典返しの相場と作法【2026年版】相続税での扱いも
よくある質問(FAQ)
相続税がかからない場合でも申告は必要ですか?
正味の遺産額が基礎控除額以下であれば、申告そのものが不要です。一方で、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使った結果として税額が0円になる場合は、申告書の提出が必要です。特例を使うために申告するという関係になります。
申告期限の10か月はいつから数えますか?
被相続人の死亡したことを知った日(通常は死亡の日)の翌日から10か月以内です。この日が土日祝日にあたる場合は、その翌開庁日が期限になります。
相続放棄した人がいると基礎控除は減りますか?
減りません。基礎控除の計算に使う法定相続人の数は、相続放棄がなかったものとした場合の相続人の数で数えます。
自宅の土地はどのくらい安く評価できますか?
特定居住用宅地等に該当する場合、330㎡までの部分について相続税の課税価格に算入すべき価額を80%減額できます。ただし取得者ごとに要件があり、申告書への記載と一定の添付書類が必要です。
期限までに遺産分割がまとまらないときはどうなりますか?
未分割のままでは配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できません。法定相続分で分けたものとして期限内に申告・納税し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておくことで、分割成立後に更正の請求で精算できます。
出典・参考(公式情報)
- 国税庁 No.4102「相続税がかかる場合」
- 国税庁 No.4155「相続税の税率」
- 国税庁 No.4152「相続税の計算」
- 国税庁 No.4124「小規模宅地等の特例」
- 国税庁 No.4158「配偶者の税額の軽減」
- 国税庁「相続税の申告要否判定コーナー」
相続とお葬式の手続き全体は相続・お葬式のまとめで確認できます。
